《メルケル政界引退》愛犬を同席、わざと遅刻... プーチンのいじめに“東独育ち”の女性宰相が放った“痛烈な”一言

《メルケル政界引退》愛犬を同席、わざと遅刻... プーチンのいじめに“東独育ち”の女性宰相が放った“痛烈な”一言

  • 文春オンライン
  • 更新日:2021/09/26

9月26日、連邦議会選挙(総選挙)に出馬せず政界からの引退を表明しているドイツのアンゲラ・メルケル首相(67)。科学者出身の女性宰相として、4期16年にわたりドイツを率いてきたメルケル氏の素顔に迫った決定的評伝『メルケル 世界一の宰相』(11月25日発売予定)から、“宿敵”だったロシアのプーチン大統領とのエピソードを再構成して紹介する。(全2回の1回目。後編を読む)

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宿敵はロシアの冷酷な独裁主義者

今秋引退するドイツ首相メルケル。「女性」「東独出身」「理系出身」という“三重の枷”を乗り越え首相に就任し、ドイツを欧州トップ国に導いてきた。

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©AFLO

そんなメルケルにとっての宿敵とも言うべき存在が、ロシア大統領のプーチンである。冷酷な独裁主義者であるプーチンと、西側世界の民主主義を守るメルケルとでは、そもそもの価値観が真逆で相容れないからだ。

じつはメルケルは、東独での少女時代にロシア語弁論大会で優勝もしており、ロシア社会や文化への造詣が深い。だからこそ、プーチンの本質を早い段階で見抜いていて危惧していた。プーチンが手本にしているのは、かつての独裁者スターリンなのではないのか、と。

一方のプーチンは、メルケルが首相になって間もない頃、「ミセス・メルケルはロシアに多大な関心を寄せている。そして、ロシア語を話す!」と報道陣を相手に誇らしげに語っていた。

しかし、その好印象は長く続かなかった。メルケルが人権問題に関心を寄せていると知ると、警戒心を抱くようになる。そしてKGBの元諜報部員らしく、メルケルの弱点を調べはじめた。“メルケルいじめ”を仕掛けるためだ。

愛犬を同席、わざと遅刻…プーチンが仕掛ける“メルケルいじめ”

メルケルとプーチンの初めての会談はクレムリンで行われた。そこでプーチンは、KGB仕込みの睨(にら)みでメルケルを威嚇した。メルケルも目を見開いて応酬した。

そして、2007年に黒海に面したソチで行われた2度目の会談で、“事件”は起こった。

じつはメルケルは過去に犬に2度噛まれたことがあり、犬を怖がるという情報をプーチンは手に入れていた。

それゆえプーチンは、自分の愛犬であるコニーという名前の黒いラブラドールレトリバーを会見部屋へと入れたのだ。メルケルのまわりをまわって、匂いを嗅ぐコニー。メルケルは両膝をぴたりとくっつけて、足を椅子の下に入れて、落ち着かない様子だった。その間、プーチンは不敵な笑みを浮かべていた。

腹を立てたメルケルは、側近にこうこぼした。「プーチンはあんなことをするしかなかった。ああやって自分がいかに男らしいかを見せつけた。これだからロシアは政治も経済もうまくいかないのよ」。

だが、その後も性懲りもなくプーチンの“メルケルいじめ”は続いた。力を誇示するために、メルケルとの会合に遅れて現れたのだ。遅刻を諌められるとプーチンは、「ああ、君との仲ならこのぐらい普通だろう」と肩をすくめた。

メルケルによると「(プーチンは)人の弱点を利用する。一日中でも人を試している。やりたい放題にやらせていたら、こっちがどんどん卑屈になってしまう」。とはいえ、プーチンはメルケルを卑屈にさせることはできなかった。

ジャーナリスト殺害疑惑のプーチンへの痛烈な一言

メルケルも、ここぞというタイミングでプーチンへ仕返をしていたのだ。

2006年10月、チェチェン紛争におけるロシアの残忍さを記事にしたジャーナリストが射殺されるという痛ましい事件があった。奇しくもその日はプーチンの54回目の誕生日であり、このタイミングでの殺人は偶然ではないとの推測が飛んだ。

その数日後のこと。ドレスデン城の前で黒いリムジンを降りたプーチンに、メルケルは不意打ちを食らわせた。集まった報道陣を前にメルケルはこう語ったのだ。

「あれほどの暴力行為にショックを受けている」「この殺人事件はかならず解決されなければならない」。

意表を突かれたプーチンは、思わずこう口走った。「あのジャーナリストはロシア政府をこきおろした」「あの殺人がロシアに害を及ぼすことはない」「彼女が書いた記事に比べれば害は少ない」と、まるでその殺人事件の真の被害者が、自分であるかのような支離滅裂な言い訳を並べたのだ。

プーチンの下で人権侵害と残虐行為が行われていることを指摘したメルケル。歴史が、あるいは国際刑事裁判所が、プーチンの責任を問うかもしれない、とほのめかして牽制し、きっちりと仕返しをしたのだ。

警察国家である東独で育ったメルケルは、プーチンの狡猾さや冷淡さを身をもって理解していた。だから、プーチンの人間性や良心に訴えることはしなかった。そんなことをしても無駄だと分かっていたのだ。

メルケルが在任中に遭遇した厄介な男性指導者は、じつはプーチンだけではなかった。プーチンとはタイプが違うものの、やはり民主主義的な価値観とは程遠い人物がいた。アメリカ前大統領のドナルド・トランプである。メルケルは彼との初めての会談を、どのように乗り切ったのだろうか。【続きを読む】

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(文藝春秋翻訳出版部/翻訳出版部)

文藝春秋翻訳出版部

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