輸入インフレに拍車をかける「長期的な円安」から資産を守る...“ホームバイアス”を避け、「外貨」に投資するときの〈3つのポイント〉【エコノミストが解説】

輸入インフレに拍車をかける「長期的な円安」から資産を守る...“ホームバイアス”を避け、「外貨」に投資するときの〈3つのポイント〉【エコノミストが解説】

  • ゴールドオンライン
  • 更新日:2023/11/21
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22年以降、円安局面を迎えた日本では「外貨投資」を行うことが有効な資産防衛策となり得ます。本記事では、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏の著書『インフレ課税と闘う!』(集英社)から一部を抜粋し、インフレへの対処として「外貨投資」が有効である理由や、外貨投資を検討する際、どんな種類の資産を選択すべきかについて解説します。

為替変動に強いポートフォリオをつくる

筆者は、これからはある程度、外貨投資をしておくことが合理的だと考える。なぜならば、日本は長期的な円安局面に移行したと考えているからだ。

私たちが直面している物価上昇は、輸入インフレを起点にしている。原油高や輸入食材の高騰もそうだ。海外需要が強く、物資の価格が上がる。日本国内の需要が弱いから、国内サービスの値段は上がらなくても、輸入品は海外需要の強さに引っ張られて高騰する。

日本の国力の衰退がもっと進めば、円安トレンドはより明瞭になる可能性もある。この円安は輸入インフレに拍車をかける。

繰り返しになるが、私たちが輸入インフレに対処しようとするとき、「外貨を保有することが防衛策」になる。円安で輸入コストが上がるとき、同時に外貨投資の為替差益が増えていれば、損失と利益が互いに相殺し合う。

実は、この手法は、金融の世界では広く活用されている。ドル資産を保有すると、そこで為替変動リスクが生じてしまう。だから、ドル資産を1万ドル持ったときには、別に1万ドルを借り入れして、資産・負債の金額を中立にする。「ポジション(持高)をスクエアにする」と呼んでいる。

今まで、日本人の多くが外貨を持たなかったことは、長期の円高局面が続いていたからだ。円高になると、輸入品が安くなって、円資産を取り崩すと多くの輸入品が買える。円高のときは、円資産を保有するリスクを感じなくて済む。

ところが、2022年に円安局面になると、途端に円資産だけを保有しているリスクを意識させられた。円資産だけでは、割高な輸入品を買わされてしまう。だから、ドルなどの外貨を保有して、輸入インフレに備える必要がある。

資産運用の世界では、「ホームバイアス」ということが言われる。これは、運用資産をまんべんなく各国通貨に分散するのではなく、自国通貨に偏在させてしまうということだ。

日本に住んで円取引で生活していると、円資産だけで運用しているので十分だと思ってしまう。ホーム(自国通貨)を偏重するという意味で、ホームバイアスなのである。

しかし、効率的運用では、世界中の資産分布を小さくコピーしたように、ドル・ユーロ・ポンド・円などの外貨を世界の資産構成と同じ比率で持つことがよいとされる。効率的運用とは、分散投資を行い、各種通貨の為替変動に強いポートフォリオ(資産構成)をつくる。

金融リテラシー向上に有効なのは「座学」よりも「実践」

では、より具体的に外貨投資をどう組めばよいのだろうか。どんな種類の資産を保有するのがよいのだろうか。考え方は三つある。

1.流動性の高い外貨であるドルに投資する。

2.インカムゲイン(利子・配当による収入)を求める投資。為替変動リスクが相対的に小さい先進国通貨で投資して、高い債券利回りを追求する。

3.成長する国の株式に投資して、そのキャピタルゲイン(資本利得)を得る。インフレと通貨変動も激しいので、複数の国に分散する。

2022年3月から米国のFRBは、インフレ退治の利上げを開始した。政策金利(FFレート、短期金利)を約1年間で0%→5%台まで上げようとしている。流動性の高いドルが仮に5%のレートで増えるのならば、ドル預金でも十分だという考え方ができる。

ドルは、基軸通貨であり、流動性が最も高い。手数料は安く、他通貨に換金しやすい。ドル金利が上昇しているならば、敢えて別の通貨で持つ必要もないと思える。効率的運用の分散投資はしないでおく方法だ。

流動性の高い投資対象のことをキャッシュと呼ぶ。現金だけではなく、預金やMMF(マネー・マネジメント・ファンド)も広い意味で「キャッシュ」である。今後、FRBが利下げに転じるまで、ドルをキャッシュで持っていてもよい。

外貨投資のうち、ドルだけに集中して投資することは、わかりやすいという利点がある。外貨投資に慣れるときも、まずドル投資から始めることを勧める。ドル円の値動きは、毎日のニュースでも頻繁に報じられているからだ。

そして僅かでも自分の財産がドルになっていることで飛躍的に関心が高まるからだ。日銀のマーケット関連の部署では、年齢が若くして配属された職員に、少額でもよいからドル投資を勧めるという話を昔聞いたことがある。

仕事で必要な為替に関する知識を身につけるためには、自分自身のお金を投資をした方が、より真剣にドルやユーロについて知りたいと感じるからだろう。

金融リテラシーを高めるには、座学だけではなく、まず自分の財産で実践してみると、知識習得が早い。逆に、知識を身につけずに、大金をリスクのある投資対象に振り向けるのは危険だ。

証券投資の世界で言われるのは、「いきなり金持ちになった人の投資は損しやすい」という言葉だ。少額からドル投資を始めて、数年間ほどは経験値を高めることに徹するという方がよいかもしれない。

「債券投資」がより高いスキルを要するワケ

より高いスキルを要するのは、債券投資である。

債券投資は、ドルだけではなく、ユーロ圏の国々を対象に考えることができる。米国の長期金利は、2022年10月に4%程度まで上昇した。ユーロ圏でも、低い順からドイツ、フランス、イタリアと高くなっている。

ユーロ建てでは、イタリアの国債の利回りは、相対的に高くなっている。イタリア国債は、カナダやオーストラリアよりも少し高くなっている。

これは、財政プレミアムが上乗せされているからだ。同じユーロ圏ということであっても、ドイツやフランスよりも、信用リスクが為替に反映されにくい分だけ、金利が割高になっている。

長期金利の高さだけを見ると、南アフリカやメキシコの長期金利は、一時は10%を超えている。しかし、南アフリカのランドやメキシコのペソが高いインフレ率によって減価していくことを考えると、収益率は割引いて考えた方がよい。

欧州の長期国債は、それらの国々の成長率よりも長期金利が高くなっている。相対的に金利が高く、ユーロドルの通貨変動も限られている。ドルとユーロの通貨変動は、対照的になることが多いので、ドル建ての米国債と、ユーロ建ての欧州国債を併せて持つことは、分散投資効果を発揮しやすい。

外貨資産からインカムゲインを得ることは、自分の資産が着実に増えていくことを確認しやすい。

仮に、4%の利回りであれば、100の投資元本が10年間保有することで、利息を併せて140になることを意味する。10万ユーロが14万ユーロに増えれば、その価値が為替変動でマイナス28%まで失われても、何とか投資元本をしまわなくて済むという計算になる。

熊野 英生

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