米ワイオミング州の反EV運動は全米に広がるか?

米ワイオミング州の反EV運動は全米に広がるか?

  • Wedge ONLINE
  • 更新日:2023/01/25
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雪におおわれているワイオミング州ジャクソン(Jon Sachs/gettyimages)

2022年の米国の自動車販売に占める電気自動車(EV)の割合は6%と、欧州や中国に比べると低い数字にとどまっている。ただし一昨年比では52%の上昇で、中でもテスラモデルYは25万台以上を売り上げ、米国のベストセラーカーで初めてトップ10に食い込んだ。

今年はいよいよテスラのサイバートラックが発売になることもあり、米国で常に販売のトップ3を占めるピックアップトラック(フォードFシリーズ、GMシボレーシルバラード、ラムピックアップ)の座をも脅かす存在になるかもしれない。

EV販売禁止法案

そんなEV化の流れに対し、「2035年から州内でのEV販売を禁止する」という法案を成立させよう、という動きがある。米西部のワイオミング州だ。同州の州議会議員6人が連盟でこの法案を提案し、議会で可決するよう求めているのだ。

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ワイオミング州の位置(Oleg Chepurin/gettyimages)写真を拡大

当然この6人は共和党であり、従来型の産業の衰退への危惧を訴えている。ワイオミングはイエローストーン国立公園で有名な森林に恵まれた州で、広さは全米で10位ながら人口はわずか58万人、米国で最も人口密度の低い州でもある。

提案では「石油と天然ガスはカウボーイ・ステート(ワイオミングの愛称)の重要な産業であり、州の収入の多くを占めると同時に大勢の雇用を抱える産業でもある。ワイオミングには広大な土地に張り巡らされた高速道路があり、それに対するEV用チャージインフラは極めて不足している。また州の電力網はEV化に対応できるほど強靭ではない」とEV化に反対する理由を述べている。

元々ワイオミングは自動車に対してユニークな政策を取る州として知られてきた。一時は高速道路の速度制限を撤廃していたこともある。そのため「米国のアウトバーン」などと呼ばれたりもしたが、人と起こす事故よりも道路を横断する動物をはねる事故の方が多いという場所なのである。

2035年といえば、カリフォルニア州がガソリン車及びハイブリッド車の新規販売を州内で禁止すると、宣言した年である。すでにオレゴン、ワシントンの両州がこれに追随する動きを見せており、北東部のニューヨーク、マサチューセッツ、バーモントなども同様の法案を可決させる見込みだ。隣国のカナダは国全体で35年からのガソリン車販売禁止を掲げている。

EV禁止に勝算はあるのか?

今回のワイオミングでの動きはこの真逆を行く、EVの販売禁止という内容だが、果たして勝算はあるのか。

まず、GM、フォード、ステランティスがそれぞれ35年以降は米国内でガソリン車の製造を取りやめるという発表を行った。グローバル市場向けにはガソリン車を残すものの、国内向けでは全電動化を目指す、というものだ。

こうなるとワイオミングでは買える車が非常に少なくなる。特に需要が高いのはピックアップトラックだが、これもトップ3がすべてEVモデルを発表し、その比率は今後ますます拡大するだろう。

また米国では「ガスレンジの使用を禁止する」という動きが見られ、ガス点火の際の一酸化炭素や二酸化窒素などの毒性が議論されるようになった。石油の使用も全体としてのEV化が進めば減少するため、石油と天然ガスは州の財源として先細りが懸念される。

ワイオミングの動きは抵抗勢力もしくは政治的スタントと捉えられているが、一方で同様に財源を化石燃料に頼り経済的に豊かではない州にはびこる不安を代表したものともいえる。多くの中西部の州が未だに石炭発掘時代の古い産業構造を変化させることができず、自動車工場が今後閉鎖されれば職を失うという危機感を抱いている。

大手自動車メーカーからの揺り戻しも起こる可能性がある。昨年の米国でのEV販売台数を見ると、1位がテスラモデルY、2位がモデル3、3位がフォードマスタングマッハEとなっている。続く4位がモデルX、5位がシボレーボルト(EVとEUVを合わせた数字)である。シェアで見るとテスラが48.4%、フォードが7.8%、GMが6.3%となる。しかも今年に入りテスラが大幅な値下げを行ったことで、この差はさらに開きつつある。

こうなると、一旦はEV化に舵を切った大手メーカーが、EVでのシェア奪還は無理であるとの判断から、急激なEV化に反対する側に回る可能性がある。例えばGMは国内の4つの工場で8億ドル以上の投資を行い新型のV8エンジン開発を行うと発表した。もし本当に35年からガソリン車販売を停止するのであれば、わずか12年間のために行うには額の大きい投資だ。同時にGMは4カ所目となるバッテリー工場建設を無期限延期にしたとも伝えられている。つまりEV需要の低さとマージンの少なさから、EV戦略を見直す動きに転じたとも考えられる。

州政府にとってはガソリン税の減収は経済的な打撃となるし、道路補修費用などをどこから捻出するかなどの問題も今後浮上するだろう。ワイオミングの極端な法案提出の動きは、早急すぎるEV化への一つの警鐘となるかもしれない。

土方細秩子

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