〈写真多数〉懐かしさMAXの屋上遊園地、前金制のファミリーレストラン、味わいたっぷりの包み紙...レトロな魅力たっぷり! ローカル百貨店「玉屋」を探訪してみた

〈写真多数〉懐かしさMAXの屋上遊園地、前金制のファミリーレストラン、味わいたっぷりの包み紙...レトロな魅力たっぷり! ローカル百貨店「玉屋」を探訪してみた

  • 文春オンライン
  • 更新日:2022/06/23

地方都市を旅する際には、ご当地の百貨店を訪れるようにしている。そのまちにしか残されていないような小規模の百貨店には、昭和の時代から変わらないレトロな雰囲気の中に、豪華な装飾や気品ある内装をそこかしこに見つけることができるからだ。

【写真】 国内有数のレトロ百貨店「玉屋」の味わい深い内装を見る

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国内有数のレトロ百貨店「玉屋」の味わい深い内装を見る

また、どの街でも見かけるショッピングモールにはない、ここでしか味わえない旅情のようなものも感じる。

百貨店という場所には、休日や特別な日に家族総出でおめかしをして出かけ、こどもはおもちゃを買ってもらい、レストランで食事をし、屋上の遊園地で遊んだという思い出がある人も多いだろう。ちょっとした贅沢品を買うとき、大切な人に贈答品を贈るとき、祝い事や人生の節目には決まって、百貨店で買い物をしたのではないだろうか。

昔は、“百貨店”という名前であるように、食品や衣料品だけでなくなんでも売っていたが、私はそれらと一緒に、夢と希望とステータスも“百貨店”には売られていたように思う。

長崎で出会った魅惑のローカル百貨店

2019年。私は学校帰りの学生たちに囲まれながら、長崎本線に揺られていた。小高い山々、広がる田んぼ、戸建てが並ぶ住宅地、並走する国道……。西日を我慢しながら目まぐるしく変化するまち並みを、ただぼんやりと眺めている。学生たちと一緒に途中の駅で電車を乗り換え、まち並みの隙間からチラチラと海が見えてきたら終点、佐世保に到着だ。

駅から10分ほど歩くと、まちの中心にたどり着く。佐世保の台所として賑わう戸尾市場、防空壕を利用した店舗が並ぶトンネル横丁、道幅の広いアーケード商店街の横には、賑わいはじめた飲み屋街も広がっている。無数の店が立ち並び、レトロな雰囲気のあるまち並みは、ホテルまでの道のりだけで私の心をときめかせた。

商店街のアーケードは全長1kmにも及び、直線距離としては日本でもっとも長いといわれている。

あくる日、商店街の散策を始め、お目当ての目的地の一つであった「佐世保玉屋」へと向かった。

デパ地下のない百貨店

玉屋の歴史は1806年から始まり、創業210年を超えている老舗の百貨店だ。今回私が訪れた佐世保玉屋は1920年、鉄筋4階建てで開業。現在の建物は1968年に増築されたもの。

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佐世保玉屋の入り口

佐世保玉屋は1階から8階まであるが、2022年現在は1階から3階までと営業を縮小している。

商店街側から入店すると、佐世保玉屋には地下がない。つまり“デパ地下”がなく、1階では化粧品や婦人雑貨と一緒に食料品が売られていた。

2階から4階には婦人服、紳士服、生活用品が並び、5階のおもちゃ売り場は吹き抜けになっていた。

懐かしさたっぷりの“ファミリーレストラン”

現在ほとんどの百貨店には複数の専門店からなる“レストラン街”があるが、かつては、百貨店が運営する“ファミリーレストラン”があるのが一般的だった。

佐世保玉屋の6階にも百貨店が運営するファミリーレストランがあった。入り口のサンプルからメニューを選んだのち、レジで食券を買う前金制である。

広々としたフロアにはいろんなタイプのテーブルとイスが並び、大きな窓からは佐世保の景色が一望できる。パーテーションには花が咲き、エレガントな雰囲気を演出。テーブル席の中には、小上がりの座敷も用意されていた。小さなこどもが歩き回ったり、高齢者が足を伸ばせたりと、幅広い世代に対応している親切設計だ。

テーブルに用意された小さなヤカンから、自分でお茶を注ぐセルフスタイルに、懐かしく涙する方も多いのではないだろうか。そして、百貨店のファミリーレストランでうれしいのはなんといっても名入りの箸袋である。百貨店の名入りというだけで特別感と格式を感じ、庶民的な食事でさえかしこまってしまう。

1階食品売り場には、全国的に姿を消しつつある、回るお菓子コーナーが営業中。仕切られたスペースごとに個包装になったチョコやアメなど様々な種類のお菓子がぎっしりと詰まり、クルクルと回転し続ける。流れてくるお菓子から好きなものを少しずつ選べ、夢のような買い物ができた。

初代のものはもっと大きかったそうだが、売場面積をとってしまうため食品フロアリニューアルの際には撤去の話も出たという。しかし、サイズを少し小さくして残された。そうした経緯からも、長年愛されてきた歴史が窺える。

地元民に愛されるサンドイッチの名店「ラヴィアンローズ」

実は事前に「佐世保に来たら、玉屋のサンドイッチを絶対食べてほしい!」と聞いていた。そのサンドイッチがここで売っている。

他の客の様子を見ると、1人で何箱も買っていく。家族分なのか、誰かに渡すのか。次から次へとまとめて買っていく姿は、私をより一層期待させた。

1箱800円。Tamaya名入りの紙袋から取り出すと、紙ナプキンとサンドイッチの箱にもTamayaの名が入っている。これが玉屋のサンドイッチか……! 箱を見ただけですでに達成感と満足感を得てしまった。

フタを開けるとサンドイッチはひとくちサイズに切ってあり、とても食べやすい。マヨネーズがちょっと甘めで、ひとつ、またひとつと、くちに運ぶ手が止まらない。朝食を食べたばかりなので少しだけ……もう少し食べてもいいか……気づけば最後のひと切れになっていた。残しておいても仕方がない……結局全部食べてしまった。あとでおやつ用に買って帰ろうか……。

百貨店の屋上といえば…

フロアガイドを見ると、9階にある展望広場に「幸福の滝」という表示を発見した。なんだろう? エレベーターに乗り込み、9階で降りてみると、そこには予想外にも遊園地が広がっていた。

百貨店の屋上といえばおなじみだった屋上遊園地は1970年代以降、消防法の改正やレジャーの多様化で姿を消し、現在ではほぼ絶滅したとされている。カラフルなテントには、まじめな顔をしたイルカたちが整然と並んでいる。脇にはこどもたちを見守ったり、お弁当も広げられる大きなテーブルも。遊具はどれもキレイで、しっかりメンテナンスされてることがよくわかる。

屋上をぐるりと1周しているレールは一体なんだろうか。のりばを見ると「空とぶかいぞく船」と書かれたモノレールのようだ。せっかく来たのでこれは乗ってみたい。

屋上にいる係の方に「乗っても大丈夫ですか?」と伺うと「いいですよ」と快く動かしてくれた。写真を撮りに来る人や、親子で乗る人も多いという人気のアトラクション。早速乗り込みスタートボタンが押されると、かいぞく船はぐんぐんスムーズに進んでいく。あたりには特に音楽が流れているわけではないため、ウイーン、ウイーンとモーターが動く音だけが鳴り響く。

このローテクな雰囲気がたまらなく心地よい。海側のまち、山側のまち、歩いてきたアーケードが、ゆっくりゆっくり角度を変えて見えてくる。佐世保の街を一望できるこの眺めは、レールの上からでしか見ることができない特別な景色だ。おとなの私でさえテンションがあがるのだから、こどもが乗ったらさぞ喜ぶだろう。

遊園地の隣は展望広場になっており、夏場はビアガーデンになっていた。そこにはなんとも違和感のある岩壁が切り立っている。岩壁は近くで見ると、どうやらハリボテのようだ。

遊園地の係の方に聞くと、ビアガーデンの季節には岩壁がライトアップされ、上から人工の滝がチョロチョロと流れ落ちるという。そう、これが案内板で見つけた「幸福の滝」である。次、佐世保に来るときはビアガーデンの季節にと考えたほど、私の心をひきつけるおもしろい仕掛けだ。

さらに屋上の一角には、ミニ稲荷大神が鎮座していた。そばにはおみくじの機械まで設置されている。それほど広くない敷地に、あらゆるエンタメが凝縮されている佐世保玉屋の屋上は、私にとって忘れられない場所となった。

百貨店ならではの“おもてなし”

帰りは階段でゆっくり降りていくことにした。すると踊り場で、心をぐっと掴まれるキャッチフレーズを発見する。

〈 しあわせは

バラの包みを

ひらくとき〉

玉屋の包装紙にはバラが描かれている。わずか16文字だけで、贈る人、もらう人の笑顔と情景が思い浮かぶ、しあわせに満ちたフレーズである。

営業継続における課題も…

しかし、そんな佐世保玉屋は現在、耐震診断の実施をめぐるトラブルを抱えている。

法律で「1981年以前に建てられた病院やデパートなど不特定多数が利用する施設のうち、“一定の基準を超えるもの”については耐震診断結果の報告」をすることが義務付けられているのだが、佐世保玉屋はその報告を怠ってきたというのだ。

前回の命令の際には「2022年3月末までに建て替え工事に着手する」と回答していたものの、営業は現在も続けられており、2022年6月1日に出された3度目の命令では、「来年5月末までに工事に着手しない場合は、耐震診断結果を報告する」旨の内容が伝えられた。

佐世保玉屋では現在、周辺の商店などと準備組合を設立し、再開発ビルの建設に向けた協議を続けているという。

全国各地の百貨店が相次いで閉店している事実からも、経営は一筋縄ではいかないものなのだろう。しかし、困難な状況にあっても、有事の際に来店客を守れない状態で営業を続けている可能性があることは看過しがたい状態だ。

長崎県にかつてあった玉屋のうち、「長崎玉屋」は2014年に、「伊万里玉屋」は2016年にすでに閉店してしまっている。安全・安心に買い物ができ、賑わいのあるアーケード・百貨店が佐世保の町に存続し続けるためにも、前向きで有意義な再建設・開発協議が進むことを切に願っている。

いまも残る全国各地のレトロ百貨店

先にも触れた通り、近年は佐世保玉屋と同様に、屋上遊園地の縮小や閉鎖、さらには百貨店そのものの閉店が相次いでいる。だからこそ今、訪れてほしいレトロな百貨店を最後に紹介したい。

現在、全国に現存する屋上遊園地の数は10を切っている。

その中でも松坂屋名古屋店の屋上遊園地には、電車や機関車の乗り物やゴーカート、コイン遊具など屋外に置かれた乗り物遊具が多い上に、メダルゲームやUFOキャッチャーなど数十種類のゲーム機が所狭しと並んでいる。土日ともなると朝から親子連れで賑わう、人気の屋上遊園地だ。

長崎市の中心街、浜町に建つ浜屋百貨店。その屋上にも遊園地が営業中だ。

たくさんのコイン式遊具を始め、ゲーム機や乗り物も数多く揃っている。屋根のある場所も多く、雨の日でも楽しめるのが嬉しい。また、浜屋にも前金制のファミリーレストランが営業している。

サンプルケースには、長崎名物のちゃんぽん・皿うどん・トルコライス、さらには百貨店の名がつけられた「浜屋定食」まで並んでいる。ここでしか食べられない浜屋定食を選ぶと、名入りの箸袋が出てきたことに胸が熱くなった。

鹿児島市の中心街、天文館にはひときわ目につくルネサンス調の立派な建物、山形屋百貨店がある。

1998年、大正初期の外観に復元されたもので、夜には美しくライトアップされる。建物内部も柱や梁などが復元されており、高い天井とシャンデリア、柱には大理石の化粧貼りが施されている。また、7階には山形屋の大食堂が営業中のほか、地下1階の金生まんじゅうでは、山形屋の店標が焼印された饅頭が人気だ。カステラのようなふわふわの生地になめらかな白餡が入った、今川焼き風の饅頭は、山形屋の包装紙に包まれ、おみやげにも最適である。

経営不振や耐震問題など、さまざまな背景でなくなりゆく全国各地のレトロ百貨店。その姿を目にすることができるために残された時間はあとわずかかもしれない。

(あさみん)

あさみん

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