「ウケると思った?」想像以上に殺伐としたNSCの授業には理由があった-連載:45-

「ウケると思った?」想像以上に殺伐としたNSCの授業には理由があった-連載:45-

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  • 更新日:2022/05/14
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晴れてNSCに合格し、22期生として入学した福田健悟。笑いを混ぜたスピーチがされた入学式に個性的な同期との出会いで、芸人の世界に気分が高揚する。しかし、そんな第一印象とは裏腹に、実際の学校生活は厳しく容赦のないものであった……。

テレビで見たあの人が! すごい会社に入ったと実感

入学式当日。ハガキには、新宿にある大きなホールが集合場所と書いてあった。駅に案内人が立っている、とも記載されているが、姿は見当たらない。時間は迫っている。いきなり遅刻をして、出鼻をくじくわけにはいかない。

この状況に立ち往生していたのは、僕だけではなかった。ほかにもハガキを持った数人がウロウロしていた。このまま一人で悩んでいるより、仲間を見つけたほうが心強い。

「案内人って、どこにいるんですかね?」

「そうですよね。僕も探してたんですよ」

「ほかにも仲間を見つけてみよっか」

2人になったことで強気になった僕たちは、次々に声をかけて、3人、4人と仲間を増やしていった。こうなると、誰からともなく画期的なアイデアが飛び出す。

「もう案内人いないから、直接この会場に向かっちゃおっか」

4人は一致団結して、ハガキに載っていた会場に向かった。道すがら、ハガキを手に歩いている数名を見つけた。1人や2人じゃない。10人、20人といる。間違いない。この列に紛れ込めばいい。エスカレーターに乗って、階を上がると30人、40人と人は増え続けた。

目的の階に着くと、何百という数の人が渦巻いていた。会場の中にはカメラも入っていて、早速インタビューを受けている者までいる。初日からレンズを向けられていることに、羨望の眼差しを向けながら、案内された席に腰をかけた。最初に声をかけた彼とは隣同士で座った。

「待ち時間長いね」

「いや〜本当に。あ、僕の名前は君島イクデイビスです」

「マイクデイビス? 外国人さん? ちなみに僕は福田……」

タイミング悪く、司会者が壇上に上がった。まぁいい。自己紹介はあとでしよう。一斉に会場は静まり返った。

「フクダさん? 変わった名字ですね」

お前の名前のほうが変わってるだろ、と言いかけたが、空気を読んで言葉を飲んだ。

「それでは、入学式を始めます」

「ちなみに、フクダの“フク”は幸福の……」

「もういいだろ! 怒られるわ!」

これが僕の彼に対する、初めてのツッコミだった。初対面にしては言いすぎたか? とも思ったが、マイクデイビスはニコニコしている。司会者が下がって、次は副社長が姿を現した。

「どうも。副社長の藤原です。皆さんは、今日からプロを目指します。プロになったら、24時間お笑いのことを考えてください」

なるほど。ワクワクする。藤原さんはテレビにも出ていて、ダウンタウンさんとも絡んでいた。間近で、24時間ずっと笑いのことを考えている姿を見てきた人の言うことだ。説得力が違う。

「あとは……えぇと。あれ? 何を言おうとしたんだっけ。まぁいいや。とにかく頑張ってください」

会場には笑いが起きていた。改めてすごい会社だ。こんな副社長がいる会社は他にない。このあとも入れ代わり立ち代わり、いろんな人が壇上に上がって話をした。

「このあとは、学校に行って説明会をするので、4時間後に学校に集合してください」

最後に司会者がマイクを手にとって、約1時間の入学式に終わりを告げた。

「お前ナメてんのか」地獄の学校生活に転落!

隣にいたマイクデイビスや、テレビで見たことのある副社長。少しずつ芸人の世界に足を踏み入れている感覚になって、気分は高揚した。司会者のアナウンスにしたがって、時間まで漫画喫茶で暇を潰すこと、約4時間。学校に向かうと、外には長蛇の列ができていた。先輩芸人と思われる人たちが怒号を飛ばしている。面接のときとは全く違う雰囲気だ。恐る恐る見ていると、僕も注意を受けた。

「オイ! お前ポケットに何か入ってんだろ? 出せよ!」

「はい」

「はい、じゃねーよ! カバンも肩からぶら下げてんじゃねーよ」

なるほど。そういうことか。入学金の40万は、吉本興業としても逃したくはない。だから面接のときには優しくしておいて、中に入ればこっちのモン……とでも言わんばかりに、手のひら返しをするという算段。いいだろう。ある程度の覚悟をしていた自分には、何も問題はない。

この年齢になるまで、酸いも甘いも経験をしてきた。ギャングイーグルの先輩たちの圧力に比べたら優しいほうだ。だが、中に入ってみると、雰囲気はさらに殺伐としたものになった。

「それでは、説明会はじめていきます。よろしくお願いします」

「……」

「返事!!!」

「はい!」

「じゃあ、ペンを出してください」

「すいません。忘れてしまいました」

「ハガキに書いてあったの読んでねーのか? お前ナメてんのか、コラ」

こうして、地獄の学校生活が始まった。学校は週に4日。バイトは週に5日。夜勤が終わって、寝ないまま授業に出ることはザラだった。授業が始まる1時間前には集合。少しでも遅れると、教室には入れてもらえない。持ち物を忘れたり、挨拶を忘れても同様。

面接のときに、ゴールデンレトリバーを殺したと言っていた彼は合格していた。相変わらずブッ飛んだことをしている。ほかの皆も必死に爪痕を残そうとしていたが、先輩たちの圧力に耐えられず、徐々に大人しくなっていった。

そんななかでたった1人だけ、唯一この状況でも過激なことをする奴がいた。伊藤だ。野々村さんの授業でのこと。野々村さんは、芸歴20年以上にもなる二丁拳銃の修司さんの奥さんだ。野々村さんは、ネタを見てダメ出しをしてくれる。僕の次にネタを見せた伊藤が、とんでもなかった。

野々村さんはブログで、目から血が出るほど面白いことを考えるように、と書いている。それを知ったうえで、伊藤は目から赤い血の色に染めたテープを垂らして現れた。恐怖のネタの始まりだ。

「あぁ、どうしよう。目から血が出る。目から血が出るよ〜」

場は凍りついた。今すぐに止められても仕方ないネタだが、誰も止めない。誰か止めてくれ。この場にいる全員が、同じ気持ちだったと思う。こういう出来事をキッカケに、先輩たちは一気にピリつく。1秒1秒が長く感じた。

「あぁ〜、もうダメだ。血が止まらない。よし。終わろう。パンッ、パンッ。二丁拳銃」

終わった。こともあろうに、芸歴0年目の自称若手芸人が、芸歴20年以上の先輩をネタにしてしまった。しかも相手は、先輩の奥さん。伊藤。ご愁傷様。今から、野々村さんのダメ出しが始まる。どうなるんだろう。考えるだけでも恐ろしい。

「ナメられてんなぁ。ウケると思った?」

想像以上に地獄のような空気だ。さすがの伊藤も、心中は穏やかではないだろう。ところが、野々村さんの質問に対する伊藤の回答は、衝撃的なものだった。

「はい。爆笑必至です」

少し尊敬の念すら感じた。このハートの強さはなんだ。野々村さんは、自分の授業だけが全てではないからと、半ば諦めの気持ちで優しく諭した。授業が終わって、野々村さんが教室から出るのを生徒全員で見送った。

「オイ、伊藤! 立て」

入学式の日に、怒号を飛ばしていた先輩が叫ぶ。伊藤は事務所に来るように言われた。このあと、二度と伊藤の姿を見ることはなかった。

“福田くん”“45”と呼び分けられてしまう謎

「毎年こういう奴が1人はいる」

芸人としても活動している、講師の木村祐一さんが言っていた言葉だ。ようやく、先輩たちが異常なほど厳しくしていた理由がわかった。

最初は笑わせることを教える学校なのに、萎縮させるなんておかしいと思っていた。人は普通のことをしても笑わない。だから、常識はずれのことをして笑わせようとする。伊藤が野々村さんの授業だけ失敗をしたなら、クビになったことには同情する。

でも、伊藤は遅刻や忘れ物も多かった。この学校は、プロの芸人を育てる場所だ。時間を守らなかったり、常識はずれのことをして人に迷惑をかけていたら、仕事にはならない。そう考えれば、クビにされたのも致し方ない。それに比べて、同期の竜也は上手だった。桝本先生の授業で、選抜に入れなかった竜也は、勝手に選抜の授業に潜り込んだ。

「何してるんだ」

「忍びの者です」

ただ忍んでいただけではなく、竜也は忍者の格好をしていた。これにて、見事に選抜入り。竜也の非常識な行いは、ボケとして受け入れられた。ボケとは何か。ツッコミとは何か。自分なりに考えた。ボケは間違ったことをするほう。ツッコミは間違いを正すほう。

間違ったほうの究極は何か。正しいほうの究極は何か。辿り着いた答えは、究極に間違ったほうが犯罪者で、究極に正しいほうは警察官。これだ。満を持して、ボケの犯罪者と、ツッコミの警察官がやり取りをするネタを披露した。

「ボケとかツッコミは専門用語だから。売れてる人が使うにはいいけど、45君にはまだ早いよ」

撃沈。自分なりに答えを見つけたと思っただけあって、ショックだった。それにしても、なんで番号で呼ばれたんだ? 何も悪いことはしていないはずだが。次の授業は、遠藤さんの授業。授業前は、階段に生徒たちが並んで、教室が開くのを待つ。僕の後ろにいた2人が話をしていた。そのうちの1人である山岸は、最近コンビを解散したばかり。

「解散したんだって?」

「そうなんだよ」

「誰かイイ人いるの?」

「今はまだいないかなぁ」

「アイツは?」

「笑いの感覚が違う」

1人が僕を指さして、山岸は僕を拒絶した。なぜか告白をしていないのにフラれた気分になった。授業が始まって、山岸がネタを見せると、遠藤さんは何がしたいのか意味がわからないと言った。次は僕の番だ。

「うん。いいね! やりたいことはわかるよ。クオリティは成長が必要だけど、考えてることは良いと思うよ。頑張ってね。福田くん」

最高の気分だった。今の遠藤さんの発言は、山岸も聞いている。どうだ! 見たか! 何が笑いの価値観が違うだ! お前なんかコッチから願い下げだ! もし組んでほしいと言われても、断ってやる! そう意気込んでいたものの、結局このあと組んでほしいとは言われなかった。仕方がない。アイツにもプライドがあるんだ。僕は1人で舞い上がっていた。

1つだけわからなかったのは、ダメ出しのときに遠藤さんが、“福田くん”と言ったこと。特に良い行いをした覚えもない。この学校に通うようになってから、今までのルールが当てはまらなくなってきた。がしかし、何度か授業を受けているうちに、共通点が見つかった。

それは、授業でダメ出しをされた時は“45”と呼ばれて、褒められると名前で呼ばれるということだ。

「45」は、次回5/20(金)に更新予定です。お楽しみに!!

〇福田健悟はかくしてNSC22期生に合格した!

「1日に2回も警察呼ぶコンビニある?」若手芸人の普通じゃない日常 | 「45」 | WANI BOOKS NewsCrunch(ニュースクランチ)

お笑い芸人・福田健悟が綴る、自伝的ファンタジー小説。フリーで活動していた福田が、いよいよ意を決して吉本の門を叩く。果たして、その面接の結果は…!?

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福田 健悟

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