杉田水脈議員の辞職だけでは解決しない「女性差別」の構図

杉田水脈議員の辞職だけでは解決しない「女性差別」の構図

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2020/10/19
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日本でもベストセラーになった『82年生まれ、キム・ジヨン』の映画が公開されている。日常の中の性差別をわかりやすく言語化した作品は、女性が抱えているモヤモヤを明確にしてくれる。

いま日本とアメリカで並行するかのように、女性の権利を奪う、または軽視する勢力が活発化しているように思う。

日本では、杉田水脈議員の性暴力被害者に向けられた「女性はいくらでもうそをつけますから」という発言により、彼女の辞職を求める署名が13万6000も集まった。それに対し杉田議員は、自身のブログで謝罪したつもりでいるらしいが、巷の怒りは収まっていない。

先日は、自民党の野田聖子幹事長代行がその署名の受理を拒否した。「署名には、辞職を求めると書いてあるから」というのが言い分らしいが、国民の声に耳を傾けるのも仕事である人が13万6000人もの声を無視したということになる。

一方、アメリカでは、女性の権利のために戦ってきた最高裁判所判事のルース・ベイダー・ギンズバーグ氏が9月18日に87歳で亡くなった。その直後、トランプ大統領がその後任として、女性の権利、特に母体の危険性や、性暴力・虐待での妊娠をも含むいかなる理由でも中絶を一律に禁止するべきと考えるエイミー・コニー・バレット判事を指名した

それにより、アメリカで大きな波紋が広がっている。女性の身体の決定権は女性自身にあり、政府がコントロールするものではないという定義は、ギンズバーグ判事を含め、これまで女性たちが苦労して勝ち取ってきた権利だからだ。

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女性の権利確立のために闘った、故ルース・ベイダー・ギンズバーグ氏(Getty Images)

「女の戦い」のように見えるが、利益を得るのは誰か

杉田議員も野田議員もバレット判事もみな、過去の女性たちの運動があってこそ現在の地位にいる。それにもかかわらず、他の女性たちの声を軽視し、権利を奪おうとするとは何事か。

でも思う。この「女の戦い」のように見える一連の出来事で利益を得るのは誰なのかと。

メディアでは、上記の女性たちへの抗議運動をする女性の姿ばかりをビジュアル化することで、「女の敵は女」というフレームに納めがちだ。自民党もこういう時は巧みに女性党員を利用する。トランプ政権もスポークスパーソンを女性にし、選挙を目前にして急遽最高裁判所の空席を埋めるために女性を起用するのには、女性の有権者へのアピール等の理由があるからだ。悲しいかな、女はそうやって男の利益のために利用されてきた。

杉田氏の発言は絶対あってはならない。だが、男性議員だって同じように絶対あってはならない発言をたくさんしているのに、13万以上の署名を集めるほどの抗議には発展したことがない。

アメリカでは、トランプ大統領の女性蔑視の発言や、性犯罪で起訴されている事実が公になっているにもかかわらず、彼は今も大統領として君臨できている。加害者の性別により社会の対応が違うのは明らかだ。

それこそがジェンダー問題であるということに、批判に便乗する男性も女性も気づかないのだろうか。いや、気づいていても、自分たちに対する不都合な真実が出てきては困るから、気づかないふりをしているのだろう。『82年生まれ、キム・ジヨン』の本を批判する、男尊女卑社会を温存したい男性たちのように。

杉田氏の発言にしても、彼女をスケープゴートにすれば、同じような発言を過去にしてきた人たちの言葉は都合よく忘れてもらえる。女性が女性を責めるビジュアルを際立たせて使うことで、男性たちからすれば、これは性差別ではありませんと胸を張って言えるのだ。それで利益を得るのは男性であって、女性ではない。

まるで自らの手を汚さない犯罪だ

その性差別の構造は、アメリカの人種差別の構造に似ている。歴史を紐解くと、差別の中に何層ものレイヤ―が作られてきたのがわかる。そのレイヤーとは、有色人種同士を対立させるために白人が刷り込んだ差別意識だ。そうすることで、白人たちは自分たちの差別意識を他人に代弁させ、有色人種は差別をする野蛮な人種のように見せることで、白人は善良な人種というイメージを刷り込んできた。

例えば、アメリカのゴールドラッシュ時代、中国人が仕事を求めてカリフォルニアにやってきた。その時、白人は黒人とタッグを組んで中国人を差別した。その一方、白人は状況に応じて今度はアジア人と組んで黒人やラテン系を差別した。そうやって差別の中に、別のレイヤーを作ることで人種間の関係を複雑化し、相食ませる。そうして構築された社会は、白人優位の社会となる。まるで自らの手を汚さない犯罪だ。

その影響としてアメリカ社会の例を挙げるなら、アジア系アメリカ人、またはアメリカに住むアジア人(日本人含む)の、黒人に対する差別意識はひどいものだ。まるで自分たちも白人とでも言いたげな意識の人も多く、白人が多く住む地域に住み、白人がマジョリティーの学校に子供を入れたら安全だと思っている。実際には、その子どもは少数派のアジア人であることで、いじめられるのが常だった。それでも、自らが差別の対象となってきた歴史の中で植え付けられた劣等感を克服しようという努力のもと、白人からの差別は我慢するしかなかったのだ。

もっとも、アジア系アメリカ人の新しいジェネレーションは自分たちのアイデンティティーで堂々と生きている人が多いように見受けられる。それは、親世代の自己肯定感の低さからくる反動か、それとも、以前よりアジア系のロールモデルが表に出てきた影響か。理由はいろいろあるにせよ、よい傾向だ。

以下に書くことに、杉田議員の問題発言を弁護する意図は全くない。彼女はその発言により、どれだけ多くの性暴力という犯罪の被害者に二次被害を与えて傷つけただろう。その責任は重く、代議士を辞任しても償いきれないほど多くの被害者に精神的苦痛を負わせた。

ただ、辞職してもらうだけでは、根源にある問題は解決しない。逆に、彼女が辞職に追い込まれるのを、自民党の中で彼女が目障りだと思っていた男性議員たちは手ぐすね引いて待っているだろう。それも、自分の手を汚さなくても、彼女の発言に怒った女性たちがやってくれるなら、そんな都合のよいことはない。

この動きをもって「女の敵は女」と印象づけることで、女でありながら男社会で生き抜こうとする杉田議員や野田議員のような女性を男性議員たちは利用し、もともとの根源にある性差別から目をそらせるようにしているのだ。

それでは、女性のエンパワメントを喜ばない人たちの思うつぼである。そうやってジェンダー指数最下位に近い日本のシステム化された性差別がいつまでも継続される。女性の議員数が全く伸びない状況や、男性だからというだけで就職が有利だったり、同じ仕事をしている女性より給料が高かったりする労働環境を存続させないように、私たちは男性議員の発言にもきちんと目を向け、同じように責任を取らせるように抗議する必要があるだろう。

連載:社会的マイノリティの眼差し

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