ベラルーシの移民、ウクライナ緊張にロシアは関与したのか

ベラルーシの移民、ウクライナ緊張にロシアは関与したのか

  • JBpress
  • 更新日:2021/11/26
No image

奇をてらったことをし続けなければならないと思っているのだろうか(9月9日、ロシアを訪問したベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領、写真:ロイター/アフロ)

6月の首脳会談以来、米ロ間ではいくつかの実務者協議が行なわれ、戦略対話やサイバー攻撃問題などでは一定度の前進があったとされている。

だが、ここへ来てウクライナ方面での対立が、急速に再燃し始めた。このままでは、徐々に進み始めた米ロ関係の宥和も水泡に帰す恐れがあると、西側のメディアは指摘する。

2014年以来、ウクライナ政府と半ば独立国と化した同国東部2州の一部との間では、小競り合いが断続的に発生し、2015年の独仏ロによる調停工作も効果を十分には出せてこなかった。

その状況が過去2~3か月の間に、対立する双方の後ろに控える西側・ロシアの間での軍事的な動きへと発展しかねない雰囲気となってきた。

西側メディアによれば、米国防総省・国務省関係者は、米ロ首脳会談後にいったんはウクライナ国境近辺から引き上げたロシア軍が、「再度またその近辺に10万に近い規模で結集し、この冬にかけてウクライナ侵略に乗り出す可能性がある」と述べている。

それをウクライナの高官が、さらに伝言ゲームの拡声器となって喧伝する。

さらには、別途騒がれてきたベラルーシ経由のEUに向けての中東難民・移民問題も、ウクライナ侵略を覆い隠すロシアの陽動作戦に過ぎない、と語られる。

ロシアは9月に、大規模軍事演習「ザーパド2021」をベラルーシほかの演習場で行った。他国からの参加も合わせて、前年をはるかに上回る兵員20万が動員されている。

ウクライナとは目と鼻の先であるから、この種の演習はウクライナ征服簒奪へのロシアとその大統領・V.プーチンの野心が消えていない証左だ、とウクライナには見えてくる。

だが、指摘されているロシア軍の対ウクライナ国境への集結が事実なのか、そうだとしてその意図は何なのかは、しょせんは当事者以外には分らない話である。

我々にできるのは、客観情勢の諸要素から見て、それが有り得るかどうかを占うことが精々である。

その精々を試みるにしても、なぜこの時点でロシアがウクライナ侵略に乗り出さねばならないのかの明確な理由は、西側の報道では明らかにされていない。

プーチンの旧ソ連圏死守の覚悟は分かっても、ではこの時点でウクライナ内に攻め込む契機は何なのか、には触れられていない。

過去2~3か月の一連の動きについては、逆にむしろロシア側から流れてくる諸解釈・解説の方が、納得の行く筋書きを語っているように思えてくる。

それらを纏めるとおおよそ以下のようになるだろう。

●ウクライナのV.ゼレンスキー政権は、国内の経済・政治のいずれでも行き詰まっている。

●この状況で、ウクライナは西側の同国への関心が薄れることを極度に恐れている。西側の支援を失ったなら、今の極端な反ロ政策に同意しない国内の勢力が力を増し、マイダン以来の政権の正統性が失われかねないからだ。

●その恐れは、米のJ.バイデン大統領による「Nord Stream-2(ノルト・ストリーム2)」(独ロ・ガスパイプライン)建設・操業容認、米ロ首脳会談開催、アフガンからの米軍撤退により、いやが応にも強められた。

●米欧のウクライナへの関心を引き戻すためには、再度ウクライナ近辺でロシア軍との戦火を引き起こして、「ロシア=侵略者」を叩き潰す方向へと米国や西側諸国を誘導するしか手が残されていない。

●そのために、ロシアを挑発して彼らが先に攻撃に着手するよう仕向ける。

●反中政策に手一杯のバイデン政権主流派は、このようなウクライナの動きには必ずしも同調できない。

しかし、バイデンは政権内の反ロ派を統御できておらず、彼らはウクライナの意図を利用して(あるいは乗せられて)半ば勝手に対露強硬策を推進しようとしている。

もしプーチンやロシア政権がこのように考えているのであれば、「決してウクライナの挑発に乗ってはならない。だが、それが度を超してくる恐れがあるなら、抑止の手は打たねばならない」というものになるはずだろう。

ロシア軍が本当にウクライナ国境近辺に集結しているなら、それはウクライナが手を出したなら痛い目に遭うぞ、との示威行動になる。

西側を引き込む代償が余りに高いものに付く、という恐れをウクライナに抱かせる抑止効果である。

それでもウクライナがことを仕掛けてくる可能性は排除できない。

その可能性を左右するのは一にかかって米国の判断や動きとなる。しかし、その点で齢80に近付いたバイデンが統治能力を失いつつあるのではないか、との懸念がロシア側には巣食う。

バイデンが正常かつ強固な判断能力を維持できているのかに付いては、以前からあれこれ加齢と結び付けられて西側でも取り沙汰されてきている。

前大統領のD.トランプがコロナ騒ぎの逆風を喰らったところに滑り込んだ経緯もあり、民主党の星、とまで大きな期待を背負っていたわけでもない。

彼への支持率は徐々に下がり始め、最近では現役時代のトランプのそれと大差のないものになっている。

さらに米国内の世論調査の結果が、来年の中間選挙で政権与党・民主党には厳しい向かい風が吹く、と示唆するのだから、本人のやる気にかかわらず彼の2期目ははなはだ不確かなものに映る。

そうなれば、トランプ時代に顕著だったDeep State(ディープ・ステート:闇の政府)なるものの動きが、バイデン治下で引き続き蠢いたとしても不思議ではない。

要は、指導者に頼れないなら、自分たちでやらなきゃ、である。

反中政策優先で冷や飯を食いかねない立場に措かれた反ロ派や、アフガン撤退後の主要任務を対ロ抑止にしか見出せなくなったNATO(北大西洋条約機構)、さらには反ロ攻勢を中間選挙での勝ち点に結び付けたい民主党の一部の思惑などが絡まり合って、バイデンの意向によらず対露強硬策に走り出す可能性もある――。

こうロシアは考える。

米第6艦隊旗艦が黒海に入り、NATO戦略爆撃機がロシアとの国境20キロまでの近接飛行を実施し、ウクライナへは西側から武器の供与が続けられる――最近の自国の外交官たちとの会合でこれ等を指摘しながら、プーチンは危機感を露わにした。

10月には米国防総相がウクライナを訪問し、同国とNATOの関係強化を力説する。互いの要員追放合戦から、ロシアはそのNATOへの派遣代表を引き上げ、意思疎通のパイプを大きく細らせた。

その一方で、9月には黒海、10月には陸上で米・ウクライナの合同軍事演習が行なわれている。露紙によれば、2021年だけでウクライナ領内で8回のNATOを中心とする外国軍を加えての軍事演習が行なわれる結果になった。

そして、ウクライナ東部では、ウクライナ政府軍と反政府軍のどちらが先に手を出しているのかは不明だが、前者がトルコ製のドローン兵器を前線に投入した。

アゼルバイジャンの対アルメニア戦勝利の最大の貢献者とされる兵器であるから、当然ながらこれはロシアの神経を大いに尖らせる。

東部地域での和平を目指したミンスク合意は、政府側・反政府側双方の約束未履行で、実現の目処は立っていない。

独仏ロ間では、ロシアがウクライナ問題の直接の当事者、と主張する独仏と、それを頑強に否定するロシア(あくまでウクライナの国内問題であり、ロシアは直接の当事者ではない)との意見が一致せず、3か国にウクライナを加えた4か国首脳会議開催案は流産の憂き目に遭っている。

緊張が高まっても、あるいはそれだからこそか、ロシアにウクライナとの直接対話を行なう意欲は見られない。

元ロシア大統領のD.メドヴェージェフはロシアの新聞に寄稿し、今のウクライナ政権を相手にする意味はないと断じた。

「蒋政権、相手にせず」張りのこの論では、ウクライナ国内の5~7%程度しかいない民族主義者が米国の援助の下で政権を牛耳り、指導層は私利私欲の無責任、そうなる根本問題は結局ウクライナが自らのIdentity(アイデンティティ:自分が一体何者であるのか)を分からずにいることだ、とこき下ろしている。

確かに、ウクライナの内情を垣間見れば、2019年に大統領に就任したゼレンスキーへの支持率は、2020年に早くも50%割れとなって以来下がり続け、直近の今月上旬の国内世論調査では22%へ落ちている(前大統領のP.ポロシェンコは14.5%、親露派とされるYu.ボイコは11%)。

同じ世論調査で、彼が率いる大統領府の仕事ぶりに72%が不満足と回答している。

経済でも、比較的平穏な時期だった2016~2019年で見ても成長率は年2~3%の水準にとどまり、ロシアの頸木から脱して自由な経済の発展を遂げている、と賞賛するには躊躇される実績でしかない。

この沈滞の打破も狙ったのか、ゼレンスキーは国内の財閥との闘争に踏み切り、法的にその政治的影響力を弱めるべく動いた。

だが、ウクライナの過去の大統領は、財閥と対立することでその地位を失ったケースが大部分で、危険な賭に踏み切っただけ、との指摘もなされている。

どうにも、ウクライナ政権が安定しているとは言い難いようだ。

それだけに、外交分野でのヒットを飛ばしたいという欲求も出てくるのだろう。

ロシアが「相手にしない」と言うならで、ゼレンスキーもミンスク合意を御破算にすることも辞さず、としてこの合意枠組とは別のクリミア奪回に向けた国際会議を招聘した。

問題解決の行方は益々不透明さを増している。

一方、ウクライナからロシアによる陽動作戦と批判されたベラルーシ経由での中東難民問題は、その手口が余りにあからさまなことから、恐らくロシアはその立案なりには加わっていなかっただろう。

確証はないものの、ベラルーシ経由でEUに移動しようという中東難民・移民の数がある時期に急増したことや、その理由についてのベラルーシの説明が説得力を欠くことから、EUの同国向け制裁措置に対するベラルーシ大統領であるA.ルカシェンコの意趣返しと思われる。

この問題にロシアは直接関与しないとの方針を採っていた。反米・反EUの立場で、彼らの対ベラルーシ批判への(結果的にはベラルーシ擁護となる)反駁を行なうのみだった。

だが、ルカシェンコが勝手に対欧ガス輸送問題にまで口を出す(欧州向けガスの通過輸送を止めたらどうなる、との発言)となれば放ってはおけなくなる。

欧州でのガス価格高騰に関連して、その主因が最大の売手となるロシアの策謀にある、といった話に一部のメディアやEUの政治家が騒いでおり、ロシアはそれを単なる雑音にして済ませたいところだった。

それをあえて燃え盛らせるようなルカシェンコ発言である。プーチンも、然様な話は有り得ないと否定宣言を出さざるを得なくなった。

ルカシェンコとの遣り取りで、移民・難民問題も早く片を付けるようプーチンは強く要求したのだろう。

その効き目が多少はあったのか、直近では対ポーランド国境に滞留した移民希望者の一部は、イラクなどへ送り返され始めている。

しかし、過去の20年間を振り返ると、プーチンはその大統領就任以来、ルカシェンコを盟友と思ったことはないように見える。

もしそうであるなら、それをルカシェンコも感じ取っていたはずだ。それゆえに、ガスや石油に始まる様々な経済問題や、ルカシェンコの過去の対西側接近策などで、両国にはしばしば微妙な空気が流れてきた。

2020年の大統領選と、それに発するベラルーシ国内の政権・反政権派の対立騒動で、ルカシェンコにはロシアに頼るしか方途がなくなったが、同国の新憲法制定作業も当初ロシアが勧告したような形では動いていない。

恐らく対ロ依存はルカシェンコにとって当面の方便の域を超えず、最終的にプーチンに服従する積りなどないのだろう。

要は、プーチンはルカシェンコを完全に抑え切れてはいない。

だが、ルカシェンコが西側に抱く強度の反感は、多くのロシア人にも共有されている類いに似る。

それは、ロシア国内の反西側論者・勢力から対外強硬論が噴出した際に、ルカシェンコの場合と同じように、プーチンでも抑え切れないという結果になり得ることを示唆している。

ウクライナ問題は、偶発さえなければ、今回も大事には至らずに小康状態に戻るものと予想される。ロシアが懸念する米のディープ・ステーツも、さすがに正面切っての対ロ開戦にまで踏み切る算段は持ち合わせていないだろう。

米国に対抗してロシアも黒海での予定外軍事演習を、との下からの進言をプーチンは退けた、とも、12月にはオンライン形式での米ロ首脳再会談が行なわれる可能性が出ている、とも報じられる。

会談実現なら、プーチンはどのような懸念や疑問をバイデンにぶつけ、問題解消への道筋を探ろうとするだろうか。

ウクライナ問題への対処も重要だが、その他にもプーチンを苛む難問は山積である。

いまだに下火に向かわない国内のCOVID-19感染者と犠牲者の数は、好調とは言えない国内経済を益々悪化させかねない。

炭化水素価格上昇で国庫は増収となるものの、それは際限なく国内にまたバラ撒かれねばならない。

そうしてカネの流れを増やせば、押さえ込めていないインフレはどうなるのか・・・。

政治的には外交を含めてうまく乗り切れても、国内経済は宿痾として残ったままのようだ。

W.C.

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加