千葉の酒屋が清澄白河で「角打ち」を始めたワケ

千葉の酒屋が清澄白河で「角打ち」を始めたワケ

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2021/10/14
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千葉に本店を置く酒販店いまでやが新たに仕掛ける、アプリ連動型の角打ち型店舗「いまでや 清澄白河」。写真は錦糸町の角打ち型店舗「IMADEYA SUMIDA」にて、いまでや代表取締役社長の小倉秀一氏(右)と専務取締役の小倉あづさ氏(筆者撮影)

1月からほぼ半年以上続く緊急事態宣言もようやく明けたが、アルコールについては制限付きのままだ。コロナ禍でとりわけアルコールがターゲットとされる中、甚大な損害を被っているのが酒造や酒販店。こうした事態を世に知らしめようと、「獺祭」で世界的にも知られる山口県の酒造、旭酒造は2021年5月、「飲食店を守ることもいのちを守ることにつながる」との新聞広告を掲出している。

酒造や酒販店にとって、料理とともにお酒のおいしさを消費者に伝える役割をする飲食店は、取引先であるとともに消費者との接点、マーケターとしても重要だ。その飲食店でお酒が出せなければ、酒造や酒販店は息を止められたような状態になってしまう。彼らは今、どのような生き残り策を講じているのだろうか。

「BtoC対策」が功を奏した

千葉県に本社を置く株式会社いまでやを取材した。

同社は1962年、町の小さな酒屋として出発。二代目の小倉秀一社長が経営を引き継いでから大きく手を広げ、現在は「酒のワンダーランド」をうたう千葉市内の本店のほか、2014年から立ち上げたオンラインショップ、千葉駅改札内の千葉エキナカ、GINZA SIX、錦糸町PARCOなどにショップを展開。

このように挑戦的に経営を拡大してきた同社であるが、やはり長引くアルコール提供制限の影響を大きく受けて、売り上げはコロナ前の2019年の7割に落ち込んだ。しかし社長の小倉氏によると、以前から続けてきたBtoC対策が功を奏し、この程度で済んでいるのだという。

「うちはもともと飲食店への納品が7割以上ですから、大きな打撃を受けました。ただ、昨年の4月にそれまでほとんどなかったECの売り上げが240%に跳ね上がりました。千葉本店の売り上げも昨年に引き続き今年もプラスとなっています。家飲みの需要に支えられているということです」(小倉氏)

BtoC対策の要となっているのが品ぞろえだ。

一般的な酒販店は店舗に卸す業務用ビールが5〜6割を占めるところだが、同社の商品構成は金額ベースで日本酒約33%、ワイン約30%、ビール約13〜14%となっている。日本酒、ワインを中心に総合的に扱う専門店という位置づけを目指しているのだという。

とくに、ここ数年注目され始めている日本ワインについては、すでに18年前より扱いを始めているなど、ジャンルを絞った高付加価値商品でコアな消費者に訴求してきた。

次に同社の特徴として挙げられるのが多様な店舗展開だ。目的来店型の本店、駅ナカ、銀座一等地、ファッションビル内と、さまざまな用途、客層に訴える店舗展開を図っている。

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IMADEYA SUMIDAの酒販コーナー。定番のお酒から、同社スタッフがセレクトしたものまで各種そろえられている(筆者撮影)

とくに2019年にオープンしたIMADEYA SUMIDAは「すみだフードホール」というフードコートの一角に設けられており、料理を楽しみながら一杯やれる“角打ち”が目玉の店として、多くの愛酒家を引きつけてきた。

角打ちは営業する側から言っても、販売のみの店舗に比べ、一杯売りに加えおつまみの利益が見込めることから生産性が高い。客の好みを直接見聞きできるためマーケティングにも有利だ。

アプリと連動した店舗

そして8月5日には、コロナの社会状況での新たな試みとして、角打ちのできる小さな店「いまでや 清澄白河」をオープンした。

同店はさまざまな意味でユニークな店だが、まずサービス面での特徴を挙げると、開店とともにリリースした新ECサイト・アプリ「はじめの100本」と連動していることだ。

これは「はじめの」とあるとおり、お酒の初心者が楽しめるサービス。店舗にそろえているのは、同社従業員が初心者にこそ勧めたい100本のみである。もちろんその店舗でも購入できるが、ウェブやアプリを通じて会員登録するとお酒選びをサポートするサービスが利用できる。

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アプリ「はじめの100本」で、「愛嬌がある」というタグで検索した結果(筆者撮影)

日本酒、ワインなどのカテゴリーでも選べるほか、「親しみやすい」「大人っぽい」といった“お酒の性格”によってタグ付けがされており、感性的な選び方ができる点で新しい試みと言える。また、自身の飲酒履歴や感想を書き込むことができるほか、ほかのユーザーのレビューも参考にすることができる。もちろん店舗に行かずとも、そのままタップし購入が可能だ。

お酒の味の選定基準というと、例えば日本酒なら甘い辛い、スッキリ、どっしりなどがあるが、実のところ、お酒を飲み慣れていない初心者にはわかりにくい。「はじめの100本」ではそうした既存の基準をあえてなくし、難しく考えずに選べるようになっていることがポイントだ。

同アプリのダウンロード数は約2000件、会員数は1488人、また週ごとに100件程度はレビューがアップされているという。

この「はじめの100本」および「いまでや 清澄白河」については、同社専務であり、社長夫人の小倉あづさ氏率いる「マダムイマデヤ」という別会社にて企画、運営を行う。いまでやの関係会社としてブランディングや人材育成を担当する会社であり、「はじめの100本」や「いまでや 清澄白河」にも、ユーザーの裾野を広げるという役割を持たせている。

新事業への思いを、あづさ氏は次のように説明する。

「若い人の酒離れが問題になっていますが、これは今お酒の業界を担っているわれわれの責任。一言で言って、若い人に優しくない業界だからです。専門店でお酒を買うのもハードルが高いし、飲みに行っても、『知識がないと恥ずかしい』という雰囲気があります。若い世代は未来の顧客。最初からいいお酒を知ってもらうために、『はじめの100本』を考えました」(小倉あづさ氏)

ニーズを喚起するのは「ストーリー」

若い人にお酒を知ってもらうと同時に、お酒の価値向上にも取り組んでいきたいという。品質に対し価格が低いのも問題で、かえって酒の価値を低下させているそうだ。低価格であるのは、蔵元などの労働コストが反映されてないことも一因。労働や努力をコストにのせないのは日本人としての美徳ではあるが、職業としての魅力が低下してしまい、若い人への門戸を閉ざす原因になっていると指摘する。

「Z世代と言われる若い人たちは、車やブランド物などにはお金を使わないけれど、自分が価値を認めたものにはお金を使います。ニーズを喚起するポイントとなるのはストーリーであり、ロマンです。お酒は、生まれた土壌や歴史、人など、さまざまな物語を背負っています。以前は“おじさん”がおごって教える文化がありましたが、今はほとんど絶えてしまっています。角打ちの形式がその代わりになるのではと期待しています」(あづさ氏)

その担い手となるのが、新たな店舗、いまでや 清澄白河だ。

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7.5坪と小さな店はほぼカウンターで占められている。ここでスタッフが勧めるお酒やおつまみを楽しみながら、お得意さんや一見さんなどが入り交じり、お酒を仲立ちにしたコミュニティーが生まれていく(筆者撮影)

同店はその立ち上げの経緯からして物語のようだ。同店の入っている建物の“大家”、小島雄一郎氏はリモートワークが増えたことをきっかけに、仕事場としても使える3階建ての住居を新築。ローン返済の一助として1階に“店子”を入れることを考えた。

「どうせなら地域や日本文化の保持に役立つ取り組みにつなげたいと思い、いろいろ調べたところ“角打ち”というお店の形式や、いまでやさんの存在を知りました。興味を持って連絡をとり、あづささんと相談しながら、『はじめの100本』を含めたお店のコンセプトを決めていきました」(小島氏)

このように、「次世代にお酒の文化を伝えていきたい」というあづさ氏の情熱を、大手広告会社に勤務する小島氏の企画力がサポートし、これまでにない形のアプリ連動角打ち店舗が実現した。

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古くは深川と呼ばれた界隈の住宅街に溶け込むように佇む「いまでや 清澄白河」(筆者撮影)

同店が立地するのは、深川という江戸の雰囲気を伝えながらも、ギャラリーやコーヒーロースタリーが点在し、最近ではクラフトビールや日本ワインの専門店など、コンセプチュアルな店舗が増えつつある地域だ。

小島氏は大家として運営を手伝いながら、最も近い客としても、ちょくちょく店舗に顔を出している。アルコールが全面解禁になれば角打ちも本格的に始動し、小島氏がお得意さんとしてお客に一杯ふるまうという場面も見られるようになりそうだ。

このように小島氏がいまでやの運営をサポートしているところも、江戸時代の長屋の大家と店子の関係を思わせる。新しいコミュニティーの生まれる場として、地域の魅力が高まりそうだ。

今後の戦略は?

さて、いまでやでは、こうしたアプリや店舗を新しいツールとしながらECを拡大させつつ、コロナ後に向けて仕込みを開始しているという。社長の小倉氏は次のように語る。

「コロナ前には当面戻りません。業界のほとんどの企業が赤字で、一部撤退も始まっています。当社を始めとして、酒販店は生き残りのための努力をこの1年半続けてきています。アルコールが出せないからダメ、では始まらないので、あの手この手で考えます。当社は飲食店に対して『成功体験共有型営業』を行っています。具体的には、ノンアルコールカクテルやティーペアリングといった高付加価値の商品を提案して、お店のお客さんに喜んでもらう。そうすればお店もうれしい。ハッピーを共有して、1万円、2万円といった小額から取引を始める、というやり方です」(小倉氏)

こうした営業の際に役立つのが、GINZA SIXや錦糸町の角打ち式店舗の実績だそうだ。とくに銀座は家賃コストも高く採算的には厳しいが、業界内での同社の知名度や信頼感アップ、存在感の確保につながっているという。

このように、多面的に事業を行いながら、それを武器に、つねに次の一手を打ち続けているところに、同社の特徴がありそうだ。また、コロナに関係なく続けてきた努力が、コロナを乗り越えるためのベースを作ってきている。このことは、今の時期に業績アップとまではいかないまでも、何とか経営を維持できている企業の共通点と言えるだろう。

(圓岡 志麻:フリーライター)

圓岡 志麻

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