米陸軍の最も重要な戦闘ツール それは武器ではなく「通信網」

米陸軍の最も重要な戦闘ツール それは武器ではなく「通信網」

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2023/09/19

米陸軍は技術変革の真っ只中にあり、工業化の時代からデジタル時代へと文化を移行させつつある。将来の紛争において成功を決定づけるのは誰が情報を統制し最大限に活用できるかだとの信念の下、組織のあらゆる面が再構築されている。

この変革の中心に据えられているのが高速・大容量の通信ネットワークだ。これなくして今後の軍の態勢は機能し得ない。このネットワークは、歩兵、航空兵、砲兵、装甲兵だけでなく、戦術的作戦を支援する後方支援部隊や情報機関まで、陸軍のあらゆる部隊・部局をつなぐ。

米陸軍が「マルチドメイン(多領域)作戦(MDO)」と呼ぶコンセプトにおいて、戦場での成功の可否は、敵より迅速に重要なデータを提供できるネットワークにかかっている。このため、ネットワークを武器の1つとして扱う軍事計画立案者もいる。米陸軍の2021年統合ネットワーク計画がその一例だ。

だが、このやり方では、すでに専門用語や抽象表現にあふれた計画立案プロセスがいっそう混乱するだけだ。より良いアプローチは、ネットワークを戦車やヘリコプターなどの兵器を効果的に使用するために不可欠な実現手段とみなすことである。

米陸軍のネットワークがどのようなもので、近いうちにどうなるのかを詳細に把握する最も簡単な方法は、戦術指揮・統制・通信プログラム執行局(PEO C3T)のウェブサイトを確認することだ。進行中の全ネットワーク計画について、非常に詳細なポートフォリオが掲載されている。

このポートフォリオには、現在資金が投入されているプロジェクト20件余りの概要説明も含まれている。陸軍のエンタープライズネットワークにおけるサイバーセキュリティー面など、他部局が管理するネットワーク関連計画は対象外だが、PEO C3Tの大要を熟読すれば、米陸軍が戦場ネットワークにおいて何を重視しているかがわかる。

ここで重要なのは、陸軍が、分散展開する各部隊に対し、激しい戦闘のさなかでも状況認識、共通の作戦計画、タイムリーな目標情報、多様な通信手段を横断的に提供するに当たり、戦術ネットワークに頼っているということだ。

ネットワークがなければ、個々の部隊は敵軍や友軍がどこにいるのか、特定の脅威を打破するのに最適な兵器はどれかもわからず、攻撃を受けていることを最高司令部にどのように警告すればいいかさえ判断がつかないかもしれない。
このネットワークは、米宇宙軍が地球低軌道に配備を増やしている通信衛星リンクに多くを依存している。最重要情報の一部は、F35戦闘機や各種ドローンなど、他軍種の航空戦力とのLOS通信を介して届く可能性もある。

米国防総省が描くネットワーク化された軍隊の将来像は、いつの日かすべての軍種がシームレスにつながり、戦時には統合された組織として機能できるようになることだ。

だが、現時点では、陸軍は部隊間の連携だけで苦労している。他軍種から必須データを受け取る実験を行ったことはあるが、日常的な慣行になるまではまだ時間がかかるだろう。陸軍は当面、戦術ネットワークを介して現場の兵士全員に次の6つの最重要機能を提供しようとしている。

・アクセシビリティ

どれほど劣悪な状況下であろうと、最低限、すべての兵士がネットワークにアクセスできなければならない。そのためには堅牢な技術はもちろん、使用者が直感的に把握できるシンプルなデザインも必要となる。

・即時性

戦闘の展開が速い場合、情報はすぐに届かなければ役に立たない。地球低軌道上に運輸衛星を配備する理由の1つは、レイテンシ(信号が目的の受信者に届くまでにかかる通信の遅延時間)を最小限に抑えるためである。

・容量

戦術通信の中には、動画など送信に高速な通信速度を要するものがある。したがって戦術ネットワークには、高速でアクセスしやすいことに加え、想定可能なあらゆるデータ・音声通信を伝送できる容量が求められる。

・柔軟性

これらの機能を固定地点から提供するだけでは不十分だ。戦闘において固定設備は標的となりやすい。ネットワークの必須要素は移動可能で、複数のチャネルを利用してリンクを維持できなければならない。

・復元力

戦術ネットワークには、爆弾やロケット砲などの弾薬を用いたキネティック攻撃と、電子信号による通信妨害を主とする非キネティック攻撃の両方に対し、十分な耐久性が求められる。

・セキュリティー

戦術通信は、敵による傍受や情報搾取を避けるため暗号化されている必要がある。米陸軍の計画立案者は、中国などの敵対勢力によるマルウエア攻撃やネットワーク侵入を特に懸念している。
これら6つの設計基準をすべて満たす統合戦術ネットワークの構築は、骨の折れる作業だ。統合戦術無線システム(JTRS)や戦闘員情報ネットワーク戦術(WIN-T)など、適切なリンクを構築する過去の取り組みは技術的制約や機能不足により行き詰まった。

異なる特徴を持つ無線間の通信を可能にするSNC TRAXソフトウエア・アプリケーションのように、問題を軽減する突破口が登場することもある。陸軍のネットワーク刷新計画の大部分は、ハードウエアに代わる俊敏なソフトウエアを生み出すことにある。

米陸軍では、商用製品・サービスを利用してニーズを満たす傾向が強まっている。軍独自のソリューションよりも価格が手頃なことや、関連分野の技術革新の多くが防衛産業以外で起きていることなどが背景にある。

しかし、中国が脅威となる場合、商用技術の活用には限界がある。たいていの商用製品は中国にしっかり把握され、中国で製造されることさえある。そのため、商用技術に大きく依存していては、中国軍の先を行くことはできない。

結局、米陸軍の計画立案者が求めているのは、中国のような敵対国と戦うときに兵士がまず見て、まず行動できるネットワークなのだ。陸軍は「意思決定優位」や「オーバーマッチ」といった用語で望ましい最終状態を説明している。

他の大国に対する持続的な技術的優位性の獲得が実現できるかは定かではないが、柔軟で復元力のある安全な戦術ネットワークがなければ、それは不可能だろう。

forbes.com 原文

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