知的障害のある球児と慶應高野球部員が深める絆 合同練習会で与え合った刺激

知的障害のある球児と慶應高野球部員が深める絆 合同練習会で与え合った刺激

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  • 更新日:2022/06/23
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連合チームの一員として愛知大会に出場する林くん(中央)を全員で激励【写真:編集部】

「甲子園夢プロジェクト」のメンバーと慶應高野球部が3度目の合同練習会を実施

3度の合同練習会を経て、深まった絆がある。「甲子園夢プロジェクト」のメンバーと、慶應義塾高校野球部のメンバーの間に生まれた絆だ。1月に行われたオンライン合同練習会から始まり、3月には慶應義塾日吉台野球場で対面による合同練習を実施。そして6月18日、再び同グラウンドに夢プロジェクトの球児たちを迎えた慶應高野球部員は、ともに懸命に白球を追い、とびきりの笑顔を見せた。

知的障害のある球児も甲子園挑戦の機会が得られるサポートをしようと始まった「甲子園夢プロジェクト」。2021年3月の発足以来、オンラインや対面による合同練習会を重ね、18日の練習会で12回目を数える。関係者を通じて活動を知った慶應高野球部の森林貴彦監督は、プロジェクトの中心となる東京都立青鳥特別支援学校主任教諭の久保田浩司さんらの想いに共感。コロナ禍の影響もあり、まずはオンラインによる合同練習会で互いの理解を深める交流を図った。

3月には念願の対面による合同練習会が実現。この時、慶應高野球部は現3年生の部員が中心となり、夢プロジェクトのメンバーと交流。キャッチボールやノック、試合形式の練習などを行った。甲子園経験もある強豪野球部との合同練習に夢プロジェクトのメンバーは大きな刺激を受けていたが、逆もまた然りだった様子。森林監督はこう言う。

「夢プロジェクトのメンバーの中には野球が好きでも1人で練習するしかない子もいる。コロナ禍もあって、慶應の部員たちは野球をできることは当たり前ではないと気付いたようです。野球は、時間、空間、仲間の3つの“間”がないとできない。いつも野球ができることに感謝する体験になったと言っていました」

今回の合同練習会には、夢プロジェクトから24人、慶應高野球部からは2年生が参加。はじめにそれぞれ1人ずつ、2人一組の練習パートナーを作り、ウォーミングアップ、キャッチボールに取り組んだ。練習パートナーはほとんどが初対面。夢プロジェクトのメンバーの中には会話が苦手な子どもたちもいたが、野球部員たちは積極的に声を掛けたり、耳を傾けたり、そっと手を添えてエスコートしたり、それぞれ工夫しながらコミュニケーションを図っていた。

夢プロジェクトのメンバーも上手くボールを投げる方法や捕球の仕方などアドバイスを受けると、それを体で表現しようと一生懸命にトライ。上手にできてもできなくても野球をすることが楽しくて仕方がないメンバーの姿に、「ナイスキャッチ!」「今の良かったよ!」とポジティブな声掛けを続ける野球部員たちにも自然と笑顔が溢れた。

学生コーチが声を揃える慶應高野球部員への刺激

この日のメインは、2チームに分かれて臨んだ試合形式での練習だ。投手を務めるのは、元ロッテの荻野忠寛さん。それぞれのチームで、攻撃時には夢プロジェクトメンバーが打席に立ち、守備時にはポジションに就く夢プロジェクトメンバーの横で練習パートナーの野球部員がサポート。基本的に慶應高野球部のメンバーはサポート役に徹し、自分でボールを投げたり打ったりするわけではないが、それでもヒットが出たり、得点が入ったりすると、まるで自分のことのように大喜びする。夢プロジェクトメンバーが野球ができる楽しみや喜びを全身で表現する様子は言わずもがな。その光景は、子どもたちが何の制約もなく校庭や公園で野球に興じた原風景を思わせるものだった。

そんな様子を三塁側ベンチから見守っていたのが、学生コーチを務める木本啓志くん(慶大3年)と大谷航毅くん(慶大2年)だ。3月の練習会にも参加した木本くんは「実際に見るまで、知的障害のある人たちがここまで野球ができるなんて思いませんでした。何も知らずに練習を見たら、障害があるなんて気付かないと思います」と目を丸くする。初参加となった大谷くんは、普段は1人で練習している子がほとんどだと聞くと「1人で練習するなんてすごい。技術のレベルが高い子もいるし、何より思いきり楽しそうに野球をしているのがいいですよね」と微笑む。

夢プロジェクトのメンバーたちが秘める可能性に驚かされるのと同時に、2人の学生コーチが声を揃えるのが「今まで知らなかった部員の新たな一面が見られた」という言葉。集合の輪から逆方向へ歩き出す夢プロジェクトのメンバーをそっと追いかけ、軽く肩に手を添えながら元の位置に戻るように促す野球部員の姿に「普段はどちらかというと目立たないタイプ。こんなことができるんだ、と驚かされています。後輩だから、まだ子どもだと勝手に思っていたけど、意外とみんなしっかりしているのかも」と大谷くん。「僕たちにも大きな気付きや学びがある。高校生にとってもいい経験になっていると思います」と木本くんも続ける。

印象的だったのが、練習会を締めくくる円陣を作った時のことだ。今夏の「第104回全国高校野球選手権愛知大会」に連合チームの一員として参加する、愛知県立豊川特別支援学校3年の林龍之介くんが挨拶。この日、連合チームの練習がなかったため、夢プロジェクトの合同練習会に参加した林くんが「なんとかヒットを打って塁に出て、チームの勝利に貢献したいと思います。応援宜しくお願いします!」と健闘を誓うと、そこに集まる全員が「頑張れ!」とエール。夢プロジェクトのメンバーも、慶應高野球部員も、まるで我がことのように目を輝かせていた。

林くんが所属する連合チームは7月9日、小牧市民球場で一宮西高と初戦を迎える。一方の慶應高は同13日にサーティーフォー相模原球場でサレジオ学院と対戦。3度の交流で絆を深め、野球の楽しさを共有する球児たちが、それぞれの夏を迎える。(佐藤直子 / Naoko Sato)

佐藤直子 / Naoko Sato

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