「ユーロ売りブーム」の正体と下落が広がっても投資家が動けなかった理由

「ユーロ売りブーム」の正体と下落が広がっても投資家が動けなかった理由

  • MONEY PLUS | くらしの経済メディア
  • 更新日:2022/05/14

「売り」からも始められるのはFXの大きな特徴の一つです。ただ、本来的に不確実な相場予想に偏り、確実性の高い金利差を無視したことによる「失敗例」について、前回は紹介しました。

今回は、低金利通貨のユーロの売りで「成功」と「失敗」の両方を経験したケースについて紹介したいと思います。

2015~2016年の「ユーロ売りブーム」

欧州統一通貨のユーロ、そしてユーロ圏の中央銀行はECB(欧州中央銀行)ですが、そのECBは2014年に先進国では初めて、政策金利をマイナスに引き下げる、マイナス金利政策を決めました。この結果、ユーロは基本的に円以上の低金利通貨となり、金利差の観点からは、まさに売りに適した通貨となりました。

代表的な低金利通貨の円に対しては、ほとんどの外貨が円より金利が高いため、外貨を売る取引の場合は金利差収益であるスワップ・ポイントは支払いとなるケースが普通です。ところが、ユーロは数少ない例外で、対円での売り取引でも逆にスワップポイントがプラスになり、そうでなくても他の外貨売りに比べたらスワップポイントのマイナスが僅かですから、売りに適していますし、さらにそんなユーロが下落すると、価格変動でも利益が出ることになります。

こうしたユーロ売りのFX取引が、一部の投資家に大きな利益をもたらし、ちょっとしたブームとなったのは2015~2016年でした。2014年12月に150円手前で頭打ちとなったユーロは、2016年6月に110円を割れるまで下落が続いたのです(図表1参照)。

【図表1】ユーロ/円と5年MA(2010年~)

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(出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)

この頃は、米ドル/円も比較的大きく下落しました。米ドル/円は2015年6月の125円から、2016年6月には100円を割れるまで下落したのです。ただ最大下落率で見ると、米ドルはユーロほどではありませんでした。それよりも大きかったのは金利差、スワップ・ポイントでしょう。低金利のユーロは、売り取引のスワップ・ポイントにおいて、明らかに米ドルより有利だったわけです。

私は当時、あるFX会社で投資教育の「学校」の責任者の立場にありましたが、その「学校」で学ぶ多くの方々がユーロ売りの取引を行い、そして大きな利益を出していたことを覚えています。この頃は、まさに「ユーロ売りトレードの天下」といっても良かったでしょう。

「成功体験」が呼び込む「失敗」

ところが、そんなユーロ売りトレードは、2016年後半からうまくワークしなくなりました。一番の原因は、単純にユーロ安からユーロ高に変わったことでしょう。ユーロ/円は、2016年6月の109円から、2018年2月の137円まで上昇傾向が続いたのです。

ユーロ高だったら、ユーロ買いに転換すれば良さそうですが、そうなると低金利通貨のユーロは相対的に不利になります。買うのに適した、ユーロより金利が高い外貨は沢山ありました。その意味では、ユーロ安局面が終わったなら、取引対象をユーロから他の通貨に換えるのがより良い選択なのでしょう。

ただ、当事者にとっては「言うに易く、行うに難し」です。ユーロ売りで成功した投資家は、ついついユーロとの相性の良さを感じてしまいがちなようです。ユーロ売りトレードの成功は、低金利通貨のユーロにとって相性の良い下落局面だったからということで、もちろんそれは頭では理解しているのでしょうが、一方で「成功の記憶」からもなかなか抜け出せない--そういった経験は、FX取引に限らないところでも多くの人にあるのではないでしょうか。

わかっているけど止められない-、そんな主観を諫めるのが難しい場合は、できるだけ多くの客観指標に触れて、状況変化の理解に努める必要があるでしょう。この場合なら、既にユーロが大きく下落する局面ではなくなったことを、客観的に確認することこそが必要だったのではないでしょうか。

図表2は、ユーロ/円について、過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)からのかい離率をあらわしたものです。グラフが上に伸びると、過去5年の平均値よりユーロ/円が上ぶれている、つまり「上がり過ぎ」といった意味になり、グラフが下に伸びた場合はその反対の意味になります。

【図表2】ユーロ/円の5年MAかい離率 (2000年~)

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(出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)

これを見ると、ユーロ/円が150円手前で頭打ちとなった2014年12月前後は、記録的なユーロ「上がり過ぎ」だったことがわかるでしょう。「上がり過ぎ」のユーロは、さらなる上昇の可能性は限られる一方で、下落リスクが極めて高い状態だったと言えます。その意味では、低金利通貨のユーロを売る絶好の状況だったと捉えることができます。

ところが、既に見てきたように、2016年にかけてユーロ下落が大きく広がった中で、ユーロの「上がり過ぎ」も是正されていきました。2016年に入ってからのユーロは、とくに「下がり過ぎ」というほどではないものの、「上がり過ぎ」が是正されたことで、このグラフを見るだけでは、「下がるか上がるかわからない」、そんな状況に変わっていたわけです。

「大きく下がる確率がとても高い」といったユーロ売りトレードに最適な状況が既に終わったということを、客観的に確認することで「成功体験」を諫めるということです。

そんなことは分かっているけれど……と言っているうちは、FXでの「失敗」を繰り返してしまいそうですから、改めて参考にしてみてください。

(吉田 恒)

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