打倒スペースX! ロシアの新型再使用ロケット「アムール」の挑戦

打倒スペースX! ロシアの新型再使用ロケット「アムール」の挑戦

  • マイナビニュース
  • 更新日:2020/10/16
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●目指すは“カラシニコフのようなロケット”、アムールのすべて

ロシア国営宇宙企業「ロスコスモス」は2020年10月5日、再使用ができる新型ロケット「アムール」を開発すると発表した。初打ち上げは2026年の予定だという。

近代化と、再使用による打ち上げコストの低減により、旧式化しつつある現在の主力ロケット「ソユーズ2」を代替するとともに、同じく再使用で商業打ち上げ市場を席巻する米スペースXの「ファルコン9」ロケットに対抗する狙いがある。

しかし、アムールが実現するかどうか、そして市場のシェアを取り戻せるかどうかをめぐっては、課題が山積している。

アムール・ロケット

アムール(Amur)は、ロスコスモスと、その子会社で現在ソユーズ・ロケットなどを製造しているRKTsプログレス(プラグリェース)が開発する新型ロケットである。アムールとは、モンゴルからロシア、中国の国境を流れる大河のアムール川に由来する。

アムールの全長は55m、直径は4.1mの2段式。オプションで、現在ソユーズ2の上段にも使っている「フレガート」上段を3段目に搭載することもできる。

また、米スペースXの「ファルコン9」ロケットのように、第1段機体は垂直に着陸し、再使用することが可能で、これにより打ち上げコストの低減を図っている。このため第1段機体には、格子状のグリッド・フィンと着陸脚を装備している。打ち上げ場所は極東のアムール州に位置するヴォストーチュヌィ宇宙基地が予定されている。

打ち上げ能力は、地球低軌道に使い捨て型で12.5t、第1段を再使用する場合は10.5t。また3段目にフレガート上段を搭載した場合、太陽同期軌道に6t、静止トランスファー軌道に2.5tとされる。フェアリングは直径5.1mで、複数の衛星を同時に打ち上げられるアダプターも装備できるという。

打ち上げサービスの価格は2200万ドルを目指すという。価格をルーブルではなくドルで示しているところに、スペースXを意識していること、そして同社に独占されている商業打ち上げ市場に参入できる、競争力のあるロケットにしようとしているという意図が見て取れる。

ロケットの1段目には、推力980kN級のRD-0169Aエンジンを5基搭載。2段目にはRD-0169の真空型であるRD-0169Vを1基搭載する。ロシアのロケットで、1段目と2段目で同じ型のエンジンを使うのはこれが初となる。

RD-0169は、燃料に液化天然ガス(メタン)、酸化剤に液体酸素を使う。現行のソユーズ2やファルコン9が燃料としているケロシンと比べ、液化天然ガスは安価で経済性に優れ、すすがでないため再使用性にも優れている。さらにエンジンの冷却効率や比推力が高くできるという特徴もある。一方で密度は低いため、タンクが大きくなりがちではあるものの、超低温に冷却することで問題ないレベルに抑えることができる。

また、アムール州ではロシア国有ガス会社のガスプロムによる天然ガス事業が盛んで、ヴォストーチュヌィ宇宙基地からわずか50kmのところには、ガスプロムのガス処理施設があり、そこからパイプラインも出ていることから、燃料の生産、供給、貯蔵もしやすいという。

第1段機体は少なくとも10回の飛行が可能で、将来的には第1段機体は約100回の飛行を可能にしたいという。なお、第1段エンジンは1回の打ち上げあたり、打ち上げ時、降下時、そして着陸時の3回の着火が必要なことから、RD-0169は約300回の再着火能力をもつように設計しているという。また、実際のエンジンを使って300回もの再着火を試験したり、その信頼性を検証したりすることは難しいため、デジタル・シミュレーションや数学的モデリング手法を取り入れ、品質と信頼性を評価、保証するとしている。

エンジンの開発、製造は名門エンジン・メーカーのKBKhAが担当する。同社は2002年からRD-0162と呼ばれるメタン・エンジンの開発を続けており、より大型のRD-0164エンジンの開発構想もあったが、資金難や搭載するロケットの開発中止などにより頓挫。計画を仕切り直し、RD-0162をもとにRD-0169を開発する。

さらに、機体そのものも簡素化され、ソユーズ2と比べ部品数は半分以下になるとしている。これは燃料の液化天然ガスと、酸化剤の液体酸素の温度がほぼ同じで、タンクの設計を簡素化できることが大きいという。これにより製造コストが安くなり、また信頼性も向上し、打ち上げ成功率99%を狙えるとしている。ロスコスモスは「たとえるならロケット版のカラシニコフ(AK-47)になる」と豪語する。

また、打ち上げの自動化、無人化も目指すとし、人的要因によるミスの排除や、人件費の削減を図るとしている。

第1段機体の着陸場所は、ハバロフスク地方のオホーツク海に近い場所など、複数箇所が候補にあがっている。着陸後は、鉄道や大型ヘリコプターのMi-26を使って発射施設まで輸送するという。

ちなみに、スペースXのファルコン9ロケットの第1段機体は、陸地のほか、海に浮かべたドローン船にも着陸するが、オホーツク海の気象条件はドローン船を安定して運用するのに不向きであることから、現時点では船に着陸させることは考えていないという。ただ、天候に強い特殊な船を建造するなどの解決策はあるとしており、可能性のひとつとして検討は行うとしている。

なお、第2段機体の回収や再使用については考えていないという。理由としては、翼やパラシュートなどの回収のための装置を搭載したり、エンジンを再度燃焼させるための追加の推進剤を搭載したりすると打ち上げ能力が落ちること、また1段目に比べ、2段目や3段目ではその影響の度合いがはるかに大きくなることが理由だとしている。ちなみにスペースXも、一時期はファルコン9の第2段機体の回収、再使用構想を打ち出していたが、同様の理由で中止されている。

初打ち上げは2026年の予定で、開発費は700億ルーブルを予定しているという。また、将来的に第1段を大型化するなどし、大型ロケットに発展させる構想もあるという。実現すれば地球低軌道に17t以上の打ち上げ能力をもつとしている。さらに、この機体を複数束ねたり、ブースターとして使用したりする超大型ロケットへの発展や、機体に展開式の翼をつけ、滑走路に着陸して回収できるようする構想もあるという。

●アムールはスペースXに勝てるのか? 山積する課題と、マスク氏からのエール

ソユーズ2を超えて、ファルコン9に追いつけ

ロシアがアムールを開発する背景には、旧式化している現在の主力ロケット、ソユーズ2を代替すること、そしてスペースXのファルコン9ロケットなど、新世代の安価なロケットに対抗するという狙いがある。

現在のロシアの主力中型ロケットであるソユーズ2は、2004年にデビューしたロケットであり、エンジンや搭載機器は改良されているが、その基本的な設計は70年ほど前にまでさかのぼる。実績がある一方で、運用の効率や性能向上の余地などの面で時代遅れになりつつある。

また1990年代には、ソユーズなどのいわゆる“枯れた技術”による高い信頼性と安い打ち上げ価格で、世界の商業打ち上げ市場を席巻したが、近年では打ち上げ失敗が頻発し、信頼性が低下。一方で、ロシアのロケットより高い信頼性をもちながら、第1段機体を再使用することで打ち上げコストを大幅に低減させたファルコン9が登場したことで、力関係は完全に逆転している。

アムールとソユーズ2を比べた場合、推進剤に液化天然ガスを使うことや、第1段機体を再使用できることで、経済性は圧倒的に高い。設計も近代化することで、信頼性の向上が図れる。また、ソユーズ2は地球低軌道に約8.5tの打ち上げ能力をもつが、アムールは再使用する場合でも10.5tであるため、打ち上げ能力も向上する。

一方でファルコン9とは、第1段機体を再使用することで低コスト化を図るという点で同じであり、また、エンジンを逆噴射しながら着陸する点や、グリッド・フィンを装備している点など、再使用のための仕組みや技術も非常によく似ている。

フェアリングの大きさもファルコン9とほぼ同じであり、近年トレンドとなっている複数の衛星を同時に打ち上げられる能力もあるなど、ファルコン9に大いに影響を受け、そして意識したロケットであることは間違いない。

打ち上げ能力に関しては、ファルコン9の半分以下、打ち上げ価格は約3分の1となっている。この点は、ファルコン9ではやや持て余すような、中型~小型の地球観測衛星や静止衛星の打ち上げといった、あえて異なる市場を狙いにいっているものとみられる。

また、燃料に液化天然ガス(メタン)を使用するのは、ファルコン9にはない特徴である。ファルコン9は燃料にケロシンを使うが、前述のように、メタンはケロシンと比べ安価で経済性に優れ、すすがでないため再使用性にも優れるなどの特徴がある。

アムールをめぐる課題

ただ、アムールの開発をめぐっては問題が山積しており、ロシアの次世代ロケットとして活躍できるのか、そしてファルコン9など新世代のロケットに対抗できるのかについては、あまり見通しは明るくない。

ひとつは、ロシアとしての商業打ち上げ市場に対する態度である。ロスコスモスのドミートリィ・ロゴージン総裁は、ロシアが商業打ち上げ市場でシェアを奪還することに対して、たびたび否定的な見解を示している。たとえば2018年4月、タス通信のインタビューでは、「ロケット打ち上げ市場の規模は、宇宙市場全体のたった4%に過ぎない。スペースXや中国などと対抗するための努力を払う価値はなく、シェアを奪還しようとは考えていない」と述べている。

しかし、ロケットの運用の安定化や信頼性の向上を図り、ロケット産業を維持し、そしてロシアの宇宙へのアクセスの自律性を維持するためには、国内の衛星を打ち上げるだけでなく、国際的な市場から打ち上げサービスを受注して打ち上げ回数を稼ぐことが重要である。

そもそも、衛星の輸出や衛星を使ったサービスなどといった他の市場においても、ロシアは欧米の後塵を拝している。商業打ち上げ市場よりさらにニッチな有人宇宙船の分野でも、ロシアはこれまで独占状態だったが、スペースXやボーイングなども独自の有人宇宙船の開発を進めていることから、独占が崩れつつある。こうした状況で、商業打ち上げ市場も完全に手放すというのは、完全な悪手であろう。

もうひとつの問題は、ライバルのさらなる飛躍である。アムールが初打ち上げを行う予定の2026年には、ファルコン9はいま以上に打ち上げ数を重ね、信頼性を積み重ねることになる。さらに、同社の次世代ロケット「スターシップ」は、燃料にメタンを使い、打ち上げコストも200万ドルという破格なものになるとされる。

また、米国の別の民間企業ブルー・オリジンが開発している「BE-4」エンジンも液化天然ガスを使っており、同社の大型ロケット「ニュー・グレン」や、ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)の「ヴァルカン」ロケットに搭載され、2021年から打ち上げが始まる予定となっている。アムールが登場する2026年には、これらのロケットも何機も打ち上がり、一定の信頼性を確立している可能性が高い。さらに欧州や日本でも、次々世代のロケットはメタンを使った再使用型になることが見込まれている。

そのため、アムールがこうした先発優位を切り崩せるような、なんらかの優位性や付加価値を発揮できない限りは、これらのロケットがひしめく市場に参入し、シェアを奪還することは難しいだろう。

そして最後の問題として、ロシアでは現在、複数の新型ロケットの開発が進んでおり、そのなかでアムールの優先順位がどうなるか、そもそも実際に開発が進むかが不透明ということがある。

たとえばアムールを開発するRKTsプログレスでは、新しい大型ロケット「ソユーズ5/イルティーシュ」の開発が進んでおり、中型ロケット「ソユーズ6」の検討も進んでいる。とくにソユーズ6は、アムールとほぼ同じ打ち上げ能力をもつ予定であり、またエンジンや再使用技術などに新規開発要素の多いアムールに比べ、ソユーズ6はRD-180エンジンを使うなど、すでに存在する技術を組み合わせて造られることから、技術的なリスクは低く、実現性は高い。

さらに、RKTsプログレスと同じロスコスモスの子会社で、ライバルとなるGKNPTsフルーニチェフでは、1990年代から「アンガラー」という新型ロケットの開発を続けている。アンガラーはコア機体の装着基数を変えることで、小型、中型、大型、超大型ロケットに変幻自在であり、このうち中型版はアムールと競合する。ソユーズ5、6と同様、再使用はできないものの、すでに2014年に試験飛行を行うなど、実機が存在していることから、やはり技術的なリスクは低く、次世代機として確実性が高い。まだロケットや発射施設の影も形もないアムールより一日の長がある。

ソユーズ6もアンガラーも再使用はできないものの、ソユーズやプロトンといった現行機よりはコストが下がると期待されている。そのため、ロスコスモスがどういった観点や判断基準で、どのロケットの開発を優先するかによって、アムールの実現時期が大きく遅れたり、あるいは計画が頓挫したりする可能性がある。

またそもそも、これまでロシアの新型ロケット開発は、ソ連解体後の技術力の低下や、企業同士の足の引っ張り合いもあって、平穏無事に進んだためしがない。歴史が繰り返されるならば、アムールはおろか、ソユーズ5、6といったロケットすらも造れずに、当面旧式のソユーズ2などを使い続けることになる可能性も考えられる。

敵に味方あり味方に敵あり

以上のことから、アムールがロケットとして成功するには、まずロシアとして商業打ち上げ市場のシェアを奪還するという、明確で統一した目的意識をもつことが必要となろう。それはひいては、ロシアが宇宙へのアクセスの自律性を維持し続けることにもつながる。

また、ソユーズ6もアンガラーも、技術的にはやや古く、再使用もできないことから、その目的を達成するには、アムールのような再使用ロケットの開発に大きく投資し、2020年代中に実用化させることが最低限の必要条件となろう。

そして、その後のことも考えるなら、スペースXのような開発や意思決定のスピード感を取り入れることも重要であろう。つまり、単にロケットの再使用や、その方法、装備だけを真似るのではなく、ロシアの宇宙産業にはびこる悪しき伝統や習慣を断ち切り、スペースXのような、いわゆる「ニュースペース(NewSpace)」の良い部分を取り込むような覚悟が必要であろう。

皮肉なことに、スペースXのイーロン・マスクCEOはTwitterを通じて、アムール開発のニュースに触れ、「これは正しい方向への第一歩だ」と評価するなど、エールを送っている。

もっともそのうえで、「2026年に初飛行は遅い」とし、また第1段機体の再使用だけでなく「完全な再使用を目指すべき」とも指摘し、そしてアムールの大型化構想にも触れ、「より大きなロケットは、スケール・メリットのためにも意味がある。質量あたりのコストを最小化することが重要だ」とも語っている。これは自身が、完全再使用型の巨大ロケットであるスターシップを開発していることを念頭に置いたものである。

ロゴージン総裁は、同じ宇宙企業のトップという立場であるためか、かねてよりマスク氏を強く意識し、Twitterやロシアのメディアを通じてたびたび口撃を行っている。はたして、ライバルのこのアドバイスをどう受け止めるのか。そして活かすことができるのか。それはアムールの成否だけでなく、ロシアのロケット技術、産業全体を大きく左右することになるだろう。

○参考文献

・https://www.roscosmos.ru/29357/

・Roscosmos signs a contract to develop a new carrier rocket - State space corporation ROSCOSMOS |

・Russian deputy PM sees no reason for competing with Musk on launch vehicles market - Science & Space - TASS

・SpaceX - Falcon 9

・https://www.roscosmos.ru/28990/

鳥嶋真也 とりしましんや

著者プロフィール 宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。 宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 この著者の記事一覧はこちら

鳥嶋真也

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