文学賞受賞の言葉「ほんとうは、作家になりたかった」がSNSで話題に。認知症を患う女性が人生を振り返る物語

文学賞受賞の言葉「ほんとうは、作家になりたかった」がSNSで話題に。認知症を患う女性が人生を振り返る物語

  • ダ・ヴィンチWeb
  • 更新日:2022/05/14
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『ミシンと金魚』(永井みみ/集英社)

先日、ある新人作家の文学賞での受賞の言葉が、SNSで話題となった。受賞作は『ミシンと金魚』(永井みみ/集英社)。

その一部を紹介させて頂きたい。

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ほんとうは、作家になりたかった。劇団の裏方をやっていたときも、ほんとうは、作家になりたかった。(中略)ヘルパーをやっていたときも、ほんとうは、作家になりたかった。専業主婦をやっていたときも、ほんとうは、作家になりたかった。引用元:集英社文芸ステーションより

「ほんとうは、作家になりたかった」著者の永井みみさんは1965年生まれ。ケアマネージャーとして勤務しながら本作を書き上げた。本作の応募前の昨年はじめ、新型コロナウイルスに感染し生死の境を彷徨い、その時、作家として死にたかったと心底悔やんだ、と、第45回すばる文学賞の贈呈式で話している。

そんな著者が一体どんな物語を書いたのか。それは、デイサービスで介護を受けるお年寄りのお話だった。

主人公は認知症を患うおばあさん「カケイさん」。自宅では亡くなったひとり息子の妻に頭をはたかれたり、好物のお菓子をちらつかされて遺言状を書かされたり、いびられながら生活しているが、デイサービスではヘルパーの「みっちゃん」たちから優しく接してもらっている。ある時、みっちゃんから「カケイさんの人生、幸せでしたか?」と尋ねられる。そこからカケイさんは人生を振り返り、ひとり語りでストーリーは進んでいく。

女手ひとつ、ミシンで「ブラジャ」を作って生計を立てていたカケイさん。身内に反対されながら、便所で子どもを産んだカケイさん。パチンコが原因で、ひとり息子が自殺した。我慢、後悔、つかの間の幸せ、そしてまた不幸…繰り返される業の連鎖を、案外周囲を冷静に見つめ、時に計算して行動したり。カケイさんはひとつひとつくぐり抜けていく。

読みはじめのうちは、カケイさんは認知症という割に昔のことをしっかり覚えているし、デイサービスのおやつがおいしくない時も、「おいしいですか?」と聞かれたら空気を読んで「おいしい」と答え、意外としっかりしているように感じる。だが読み進めていくと、恋仲ではと噂されるほど仲の良かったデイサービス仲間が亡くなったことを、「そういえば最近見ないな」とすっぽり忘れていたり、とうに亡くなった息子の妻に息子の居場所を尋ね、彼女から何度も怒られていたり、大事なことでも忘れてしまう認知症の描写にハッとさせられていく。最近のことは次から次へと記憶から消えてしまうようだ。それなのに、「どうせなら忘れていたいんだけど(中略)そういうことは忘れない」と、幼くして亡くなった娘の可愛い顔や死んだ日のことはしっかり覚えている。そんな風に記憶から絶対に消えてなくならないこともあるのだろう。

「ほんとうは、作家になりたかった」永井みみさんが介護の現場で見つめてきたお年寄りたちとその人生。もしも認知症になったら、人は亡くなる前の時間、何を覚えていて何を忘れてしまうんだろう。認知症になってもなお、どんなことが心にずっと引っかかるんだろう。それは幸せなことなのか、そうじゃないことなのか。永井さんが作家になってくださったおかげで、それを想像する機会を与えてもらった。

文=きなの。

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