
堂安はユベントス戦を「チームのパフォーマンスは非常に良かった」と振り返った。(C)Getty Images

ユベントス戦、果敢なプレーで身体を張った堂安。(C)Getty Images
イタリアの盟主がフライブルクにやってくる。数年前だったら考えられないシーンだ。だが事実として、フライブルクは昨季6位でブンデスリーガをフィニッシュし、今季ヨーロッパリーグに出場。グループステージを首位で突破した。そして、チャンピオンズリーグからプレーオフを経由して回ってきたユベントスと相まみえた。
ファンのボルテージは最高潮だ。アウェイでの第1レグは0-1で敗れたが、ホームでは公式戦15試合連続無敗中。スタジアムが一つになった雰囲気の中で、チームはいつだって勇敢で、躍動感たっぷりに、一丸となったサッカーを見せてくれる。
ヨーロッパリーグのアンセムが流れ、選手がピッチに入場してくる中、スタジアムにはチームカラーの赤と白で彩られたコレオが出現し、そして「僕らはみんな赤と白の世界で生きている」「僕ら友達みんなが乗船している」と書かれた横断幕で迎え入れる。
キックオフから10秒、最初のボールを巡る競り合いで主将のクリスティアン・ギュンターが激しいぶつかりを見せる。ファウルとはなったが、この試合への意気込みを全身で表し、ファンがそれに呼応するように大きな歓声を上げた。
ユベントスがボールを持つと前線のミヒャエル・グレゴリチュ、堂安律、ルーカス・ヘーラーの3人が勇猛果敢に連続でプレスに行き、ギリギリのところへ全員が身体を張っていく。
ユベントスも試合巧者だ。相手のプレスを上手くいなし、生まれた隙を逃さない。相手選手を引き連れながら動くことでスペースを作り出し、そこへ後ろから選手が代わる代わる飛び込んでいく。右サイドを中心にチャンスを作っては惜しいシーンを生み出す。
27分にはFKからドゥシャン・ヴラホビッチがこぼれ球をゴールしたかに思われたが、これは直前にオフサイドがあったという判定で取り消し。ファンが沸く。みんなが立ち上がる。両手でチームマフラーを掲げる。
41分、連続シュートのピンチでDF陣とGKマルク・フレッケンが必死に守ったと思われたが、VARの判定でDFマヌエル・グルデがハンドの反則を取られてPK。このプレーで2枚目のイエローカードをもらったグルデは退場処分に。1人少なくなったうえ、このPKも決められてしまうという非常に苦しい展開に。
残り45分以上、数的不利でのプレーを余儀なくされたフライブルクだが、攻撃への姿勢を崩さずに戦い続ける。1人少ないはずなのに押し込んでいく。ファンは途絶えることなく声援を送り続け、選手は立ち止まることなく戦い、走り続ける。
限界まで力を出し切った。あと少しでゴールというところまで迫った。しかしゴールは遠かった。終了間際にも、フェデリコ・キエーザにゴールを許し、ジ・エンド。
試合後のミックスゾーンで堂安は、次のように話してくれた。
「残念な結果になりましたけど、チームのパフォーマンスは非常に良かったと思います。勝ちに値するパフォーマンスを見せたと思います」
ニクラス・へフラーも地元記者相手にポジティブな振り返りを口にしていた。
「今日は手応えを掴めるプレーがいくつかあったと思う。攻撃でチャンスまで持ち込むことができたのは大きい」
クリスティアン・シュトライヒ監督は試合後の記者会見で最後まで自分たちへの信頼を失わなかったことを話していた。
「自分個人の望みは、どんなことが起こっても、どんな流れになっても、上手くいかないことがあっても、最後までチームが戦うことだった。今日のチームのプレーはシンプルに素晴らしかった。ゴールさえしたら、きっと信じられないことも起こったはず。ユーべさえ焦りだすほどの何かが」
その何かは起きなかった。でもファンはみんな「何か起きるかもしれない」という期待を胸にこの試合を支え続けた。
堂安はこんなことも言っていた。
「今日の試合に関しては(ユベントスの方が強いというのは)一つもなかった。特にピッチの上で彼らの強さは今日の試合ではわからなかったです」
そう思うだけのチームとしてのパフォーマンスがあった。ファンは負けが決まった後でも鼓舞する歌を歌った。ブーイングなんて一つもない。みんながチームの戦いに誇りを持っていた。
そして、「ここが最後じゃない。また来年ここに来るんだ」という確かなメッセージを感じる。ブンデスリーガではまだ好位置につけている。ドイツカップも残している。フライブルクの戦いは希望とともに続いていくのだ。
20年以上フライブルクを追いかけるベテラン記者がスタジアムを見渡しながらつぶやいた言葉が、僕の中に深く残っている。
「今日のスタジアムの雰囲気は、本当に素晴らしい。私がこれまで見た景色の中で最高のものだったんじゃないだろうか」
取材・文●中野吉之伴