受験生を振り回した「大学入学共通テスト」、結局何が変わり、変わらなかったのか...?

受験生を振り回した「大学入学共通テスト」、結局何が変わり、変わらなかったのか...?

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/02/21
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振り回されっぱなしの受験生

第一回大学入学共通テストが第1、第2日程ともに終了した。鼻出しマスク男などの一部の騒動を除けば、非常事態宣言下での、しかも今回が初めてとなるテストがなんとか無事に終えられたことは幸いだった。

ただ、対コロナのことに紛れて、受験生たちのもう一つの受難のことを忘れるわけにはいかない。センター試験からの衣替えにあたり、特に英語や国語は途中何度も指針が変わり、結局新テストではどのような問題が出るのかよくわからないまま当日を迎えねばならなかったからである。

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〔PHOTO〕iStock

とにもかくにも今年の受験生たちは振りまわされっぱなしだった。

英語の民間試験導入や、いくつかの科目での記述式設問の導入について喧伝された記憶のある方も多いだろう。この新傾向は、各方面からの批判を浴びて「見送り」になった。

国語に関しても非常に大きな変化がもたらされることになっていて、私も何度かこの変化を批判的に伝えてきた。

しかし、結論から言えば、今年の本試に関するかぎり(特例追試はまだだが、受験生の数は極端に少ない)、センター試験からそれほど大きく変わらなかった。いや、ほとんど、目を疑うほど変わらなかった。あれほど物議を醸した、何度にもわたる試行調査は一体なんだったのか。

2019年12月に寄稿した二本の記事で詳述したが(「共通テスト「国語の記述式」が実施された時に起きる、ヤバすぎる事態」「迷走の共通テスト、国語は「記述式」以外にもこんなに問題がある」)、かんたんに復習すると、センター試験から共通テストになるにあたり、以下の改革の三本柱が表明された。

(1)記述式設問の導入
(2)実用文(表・グラフ等を含む)の導入
(3)複数テクスト化(一つの大問の中に複数の文章)

先述のとおり、このうち(1)の記述式設問に関しては「見送り」が本番13カ月前になって正式に発表された。

ただし、これによって新たな問題が生じた。当初、記述式導入のために現代文はセンター試験の2題から共通テストでは3題に増えることになっていた。その増えた1題に(2)実用文を充てようとしてだ。しかし記述式の見送りとともに、問題数も2題に留まることになったため、実用文がどこに入るのか、わからなくならなくなってしまったのだ。

共通一次世代の方もセンター試験世代の方も、現代文は第一問が評論、第二問が小説というのが基本パターンだったのを覚えておられるだろう。しかしそこに実用文が割り込もうというのである。

2題のなかに3種類の文章というのは難問だ。一年ごとにどれか一つをお休みする。あるいは(3)のように複数テクスト化すれば、2題の中に文章は4つ存在することになるので、そこで組み合わせることになるのかもしれない。たとえば、評論と実用文、小説とその評論など。

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こうなると非常にさまざまなパターンが考えられるが、この中のどれになるのかという情報は一切与えられなかった。記述式延期が発表されたときにはすべての試行調査が終わってしまっていたためもあるが、それでもなんらかのメッセージがあってもよかったのではないか。まじめな受験生は考えうるあらゆる組み合わせのパターンを練習したに違いない。

実用文に関しては、対策のための過去問がない。各予備校の模試や緊急出版された対策問題集に頼るしかなかったが、そもそもこうした問題とても、明確な指針のない中で、賭けにも等しい状態でいくつかのパターンに絞らざるを得なかっただろう。

そして、こうして頭を絞った予想問題作成者も、それを必死に解いた受験生たちも、壮大な肩透かしを食らうことになった。お気の毒と言う以外にことばが見当たらない。実用文は出題されなかったのだ。表やグラフも含めて一切なかった。

えっ、ほとんど変わってない…?

第1日程では第一問が評論で、第二問が小説。

第一問には、設問の方で「生徒のノート」という架空の文章が出てくるが、これは契約書などのいわゆる実用文とは違う。しかも、わざわざ「ノート」の体を取らなくとも問は成立している。複数テクスト化のために無理をしたのかもしれない。

そこにさらに別の文章がつくが、これがなんと芥川龍之介の『歯車』の一節である。この度の改革は、文学軽視とも目されてきたが、本番ではむしろ小説が重視された。
第二問は小説で、それに対する評論の一部が付随する。

要は、(3)複数テクスト化はたしかに導入されたものの、長い本文に対するおまけ程度のもので、センター試験の長文読解という方針を崩すものではなく、なにより、複数テクスト化しても、4つの文章のうち評論2つ小説2つと五分五分で、割合としてはセンター試験とまったく変わらなかった。

(2)の実用文はどこへ行ったのか。ここで一回お休みで、第2日程に持ち越されたのかと思った。

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さてでは、一月末の第2日程は……。

第一問が評論1つ、第二問が小説1つ。それぞれ設問に「生徒の話し合い」はついているが、別のテクストはない。つまりはセンター試験となんら変わらない。

いったいどういうことなのだろうか。改革の三本柱のうち、(3)複数テクスト化だけがかろうじてその名残をとどめているが、(1)記述ばかりでなく、(2)実用文という柱も折れたのだろうか。

だとすればこの「改革」とはいったいなんだったのだろう。

作問者に頭が下がる

その検証は改めてしなければならないだろうが、実際の作成者たちを責める気持ちは毛頭ない。実際の試験問題は第1、第2日程ともに良問だった。少なくとも試行調査のどの問題よりも、だ。

ここまで振りまわされた末に、ともすると結局特別な対策をしなかった者が得をするような結果になってしまったものの、しかし、作成者たちが試行調査問題とその実施結果の検証を踏まえて、やはり旧センター試験の方が総合的に見て大学入試問題として適切だと判断したのであれば、英断だと言うべきだろう。

元に戻したら戻したで非難を浴びることは必定で、それを覚悟で舵を元に戻してくれたのだとすれば、頭が下がる。無味乾燥な実用文ではなく、たとえば第1日程の評論は日本の妖怪に関するもので、その先が読みたい、と原典の本が売れているという。こうした、試験のレベルを保ちつつ受験生の知的好奇心をくすぐるような文章を探すのは大変な骨折りだと思う。

方針のこの再転換には、改革を進めた作成委員の分科会長とそこにくみする数名が不祥事で辞任した、ということも関係しているのかもしれない。残った委員たちの志が第一回の問題に結晶している。

とはいえ、これにて一件落着というわけではまったくない。(1)の記述式はもうよほどのことがないかぎり復活しないと思われるが、(2)実用文に関してはなにもアナウンスされていないのである。来年第二回に出題されないという保証はない。アナウンスがないかぎり、来年の受験生たちはまた大きな不安を抱えながら対策に頭を悩ませなければならないのだ。

そしてもう一つ。こちらの方が大きな問題かもしれないが、今回の大学入試改革に合わせて、高校の「国語」でも大きな改革があった。「現代文」というこれまでの科目が「論理国語」と「文学国語」とに分割され、現実的にはそのどちらかしか選択できないという問題である。

この「論理国語」なる科目を具体的にどう扱うかの指針は示されず、各教科書会社は共通テストの試行調査をもとに設計するしかなかったのだ。おそらく「実用文」系に多くのページを割いていると思われる。

もう検定を済ませたこの教科書はもう一切書き換えられない。せめて実際に授業をされる現場の先生方が、この人を翻弄する大改革の荒波に呑まれず、今回の共通テストの作成者と同じように適切に舵をとってくださることを願うばかりである。

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