大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第75回「黙って立ち続けて1世紀半」(1)「日本代表vsオマーン代表の“間抜けの象徴”」

大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第75回「黙って立ち続けて1世紀半」(1)「日本代表vsオマーン代表の“間抜けの象徴”」

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  • 更新日:2021/09/16
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高さ1.5メートル。頭に小さな旗をつけ、ピッチの四隅に立つコーナフラッグポスト (c)Y.Osumi

サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、「ピッチの隅に立つ4人の仲間」。サッカージャーナリスト大住良之が、フットボールの「歴史の証人」について語る。

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9月2日に行われたワールドカップ・アジア最終予選の「日本×オマーン」は、どこか間の抜けた試合だった。思いがけない豪雨に見舞われたせいかもしれない。もしかしたら、私も含めて、どこかで、「苦戦はしても、最終的には勝てるだろう」と、試合を甘く見ていたせいかもしれない。

その「間抜け」の象徴が、1本のコーナーフラッグポストだった。前半26分に遠藤航が出したパスが雨に濡れた芝生でワンバウンドして伸び、懸命に追った原口元気はスライディングしながら押さえようとして止めきれず、そのまま滑ってコーナーフラッグポストに当たった。そしてポストは大きく傾いてしまったのだ。

ゴールキックとなったためか、UAEのモハンメド・アブドゥラ・モハンメド主審はフラッグポストがゴール裏方向に45度近くも傾いたのに気づかず、試合を続けさせた。ようやく彼がこの状態に気づいたのは、なんと12分後。前半38分に原口のパスを受けた長友佑都がゴールエリアに近づいたところを相手の右サイドバック、アムジャド・アルハルティがゴールライン外に出したときだった。日本の左CKである。

鎌田大地が右足でけるのを妨害するように、フラッグポストはゴール裏側に向かって傾いている。モハンメド主審に言われて鎌田はフラッグを抜いてピッチに突き刺し直したが、モハンメド主審は鎌田が突き刺した位置に満足できなかったのか、自ら再度引き抜き、2センチほどずらして突き刺し直すと、急いで中央に戻っていった。

原口が当たって大きく傾いたときから、私は「早く直さなきゃ」と思っていたが、普通なら出てきそうな競技場のグラウンドキーパーが出てくるでもなく(雨が強かったので躊躇したのだろうか)、また、副審のいないサイドだったため誰が直すでもなく、そのまま12分間もプレーが続けられてしまったことは、大奮闘のオマーン・チームを除いて間抜け続きだったこの試合の最大の大間抜けだった。もちろん、フラッグポストが間抜けなのではない。

■サッカー場の「マストアイテム」

サッカーのルール(競技規則)第1条の「8」に「フラッグポスト」の記述がある。

「各コーナーには、旗をつけた先端のとがっていない高さ1.5m(5フィート)以上のフラッグポストを立てる」

日本語訳は表現が穏やかだが、英語板では「must be placed at each corner」となっている。フラッグポストはサッカー場の「マストアイテム」なのだ。もし4本のうち1本でも欠け、設置できない状況であれば、公式戦は開催することができない。試合中にその状況になったら、主審は試合中止を宣言するだろう。

西ドイツで開催された1974年ワールドカップの決勝戦は、ミュンヘンのオリンピックスタジアムが会場となった。1972年のミュンヘンオリンピックで使われた陸上競技場である。試合は地元西ドイツ対オランダ。というより、「フランツ・ベッケンバウアー対ヨハン・クライフ」。当時の世界サッカーを代表する2大スーパースターの激突として大きな注目を集めた。

ちなみに、東京12チャンネル(現在のテレビ東京)が、日本に初めてワールドカップの試合を生中継したのがこの試合だった。実況・金子勝彦、解説・岡野俊一郎、ゲスト・二宮寛の3人が、巨大なミュンヘン・オリンピックスタジアムの最上部の放送席から初めてワールドカップの興奮をリアルタイムで深夜の日本に伝えた、歴史的な試合である。

だが、ベッケンバウアーとのコイントスに勝ったクライフが即座に「ボール」を選び、いよいよオランダのキックオフで世紀の一戦スタートと世界中が固唾を飲んだとき、思いがけない「大間抜け」が発覚した。コーナーフラッグポストが設置されていなかったのだ。

■フラッグポストが6本あったワールドカップ決勝

決勝戦に先立って「クロージングセレモニー」が行われた。大会中にチームバスとして使われた16台の大型バス(チームカラーで塗られ、チーム名がドイツ語で大きく書かれていた)がピッチ周囲のトラック上を「行進」し、その後には数百人のブラスバンドがピッチ内を行進しながら演奏した。こうしたアトラクションのため、ゴールこそ設置されたままだったが、フラッグは外されていたのだ。

だがイングランドのジャック・テイラー主審はあわてない。選手たちと余裕の表情で話しながらフラッグポストが設置されるのを待った。巨額のテレビ放映権料で縛られ、キックオフ時刻を秒単位で決められている今日のワールドカップでは、考えられない光景だった。しばらくすると数人の係員が6本のフラッグポストを持って走ってくる。6本?。そう、この大会では、ルール上で「任意」となっているため、今日ではほとんど設置されることのないハーフライン外の2本のフラッグポストもきちんと設置されていたのだ。

最後にバックスタンド側のハーフラインフラッグが設置され、テイラー主審が大きくキックオフの笛を吹く。そう、そのわずか1分半後に彼が2回目の笛を吹くとき、それが西ドイツのウリ・ヘーネスがクライフを倒し、オランダにPKを与えるものになるとは、このときには誰も知るよしがなかった…。

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