恒大集団の経営危機で見えてきた習近平の「神格化」シナリオ

恒大集団の経営危機で見えてきた習近平の「神格化」シナリオ

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  • 更新日:2021/10/15
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今年9月、陝西省の楡林市を視察する習近平主席(写真:新華社/アフロ)

(譚 璐美:作家)

9月20日、中国の不動産最大手の恒大集団(エバーグランデ・グループ)が資金繰りに行き詰まり、世界の金融市場が大きく揺れた。1996年設立の恒大集団は、今や負債総額が約3050億ドルにのぼり、今年末にかけての複数の社債利払いが履行できるかどうか不安視されている。10月4日には、中堅開発業者の花様年控股集団(ファンタジー・ホールディングス・グループ)が、満期を迎えた2億600万ドル(約230億円)の外貨建て社債の支払いを履行できなかった。

西側国では、「いよいよ中国経済の崩壊が始まった」と見る向きが多いが、これはやや短絡的すぎる見方かも知れない。中国のことは、政治的観点から全体像を把握しなければ真相がわからない。経済より政治を優先させる国だということを、まず肝に銘じるべきだろう。

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不動産開発事業の失敗は地方政府の責任に

リーマン・ショック以後、中国政府は借金による巨額の景気刺激策を発動し、その後数年間、加熱する投資と与信の拡大が、中国経済をけん引してきた。けん引役の中心にあったのが旺盛な不動産市場だった。中国の不動産は国有であるため、「決して弾けないバブル」という神話が生まれて、いざとなれば国家が助けてくれると、誰もが楽観視していた。

だがここ数年、中国の投資収益は急落し、GDPの伸び率も失速した。不動産ブームは住宅価格を押し上げ、社会格差を広げた。同時に官僚の汚職が増え、治安も悪化した。そしてコロナ禍で、住宅価格はさらに上昇した。

中国政府は不動産バブルを制御しようと、「三条紅線(3つのレッドライン)」の規制を導入して、不動産開発業者の債務に制限を課した。恒大集団の短期資金が回らなくなったのも、それが原因だ。目下、経営危機に見舞われている不動産会社は、10社以上あるとされる。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル電子版によれば、9月24日、中国政府は地方政府に対して、恒大集団の経営破綻に備えるために、弁護士、会計士らのグループを組織して恒大集団が手掛ける事業の財務状況を調査し、同社の不動産開発事業を引き継ぐ準備を進めるよう指示した。

なぜ、地方政府なのか。それは不動産開発事業の裁量権が地方政府に委ねられているからだ。逆に言えば、不動産開発事業の失敗は地方政府に責任があり、中央政府の失策ではないということだ。

「脱貧困」も地方に課せられたノルマ

これまで地方政府は不動産開発によって地方財政を潤してきた。農地を潰し、工場誘致や大型マンション建設など、大規模プロジェクトを完成させれば、それだけで地方財政の収入に組みこむ仕組みになっている。だからゴーストタウンが出現しても構わなかった。しかし今回、もし地方政府が恒大集団の事業を処理しきれなければ、失敗の責任を負わされ、トップのクビが飛ぶことは必定だろう。

地方政府の足かせになっている要因が、もうひとつある。2020年春、習近平国家主席が打ち出した「脱貧困キャンペーン」だ。

2020年5月28日、全国人民代表大会閉幕後の記者会見で、李克強首相は「中国人民の年間の可処分所得は平均3万元(45万円)だが、平均月収が1000元(1万5000円)前後の中低所得層が6億人いる」と発言し、改めて中国の経済格差の実態を鮮明にした。

地方政府が貧困層を「撲滅」できたカラクリ

一方、習近平は、2020年を「小康社会(ややゆとりある社会)」を実現するために、2020年のGDPを2010年の2倍に増やす数値目標を掲げて、1人当たり年収2300元未満の絶対貧困人口をゼロにすると宣言した。

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『中国「国恥地図」の謎を解く』(譚璐美著、新潮新書)

そして今年2月25日、習近平は北京市で開催された「脱貧困」式典で重要講話を行い、「脱貧困キャンペーン」に全面的な勝利を収めたと高らかに宣言した。曰く、「農村の貧困人口の9899万人が全て貧困から脱却した」「832県・12万8000村の貧困県と貧困村が、全て貧国リストから外され、地域的貧困と絶対的貧困が撲滅された」。そして、習近平が共産党トップに就任した2012年の中国共産党第18回党大会以後、年平均1000万人余りが貧困から脱却して「歴史的な奇跡」を遂げたと豪語し、「共同富裕」を今後の目標に掲げた。

だが、どうやって? 昨夏には大豪雨があり、全国の3分の1が大洪水に見舞われた。家や農作地を失った被災者が4500万人以上にのぼり、流民になった人も少なくない。それなのに、僅か1年で、どうやって6億人の中低所得層の収入を増大させ、貧困層を撲滅できたのか。そこには地方政府のカラクリがある。

「脱貧困キャンペーン」の高い数値目標を割り当てられた地方政府は、地方財政の中から巨額資金を投入して貧困層の収入を膨らませ、統計数字を水増しして中央政府に報告したのだ。そうした嘘の数値の合算が、「歴史的な奇跡」を生み出した。無論、貧困層には一年限りの豊かさであり、来年以降は元の木阿弥だ。

地方政府は中央からの圧力で、せっかく「脱貧困キャンペーン」の目標値達成のために巨額の地方財政を投入したのに、今また恒大集団の不動産開発事業を引き継ぐよう求められているが、財布はもうカラッポだ。これでは財政破綻に直面するところも少なくないだろう。もっとも、習近平にとっては想定内の事態で、むしろ恣意的に不動産バブルが弾けるようお膳立てをした節すらある。

GDPの目標達成などは習近平の真の狙いではない

2018年、習近平は憲法を改正して国家主席の任期制限を撤廃した。2022年の共産党大会で再選されて、異例の第三期目続投に向かう見込みだ。そうなれば、目下、「ポスト習近平」と目されている次世代のリーダーの副首相の韓正、胡春華、上海トップの李強、重慶市トップの陳敏爾らの出世は頭打ちとなり、政治局常務委員の中からも、ダブつく存在が出てくる。今後求められるのは、さらに若手の40~50代のリーダーたちだ。

今年末までには、おそらく地方政府の中から、恒大集団の事業を処理しきれず、お手上げ状態で中央政府に泣きつくところが出てくるだろう。習近平は、必要だとおもう地方政府を支援しつつも、トップを引責辞任させて、ダブつく次世代のリーダーたちを「天下り」させるのではないか。

今後、中国経済が失速することは明らかだろう。だが、習近平の目指すものは、GDP目標の達成ではない。自ら掲げた「共同富裕」政策と理想の国家体制の「再構築」だ。つまり、1960年代の文化大革命時代のような中央集権体制と、自己の「神格化」である。

習近平は、共産党総書記や国家主席を続投するのに留まらず、もう一段高みを目指しているだろう。それは毛沢東の地位だった党中央委員会主席(党主席)の復活だ。しかも、死んだ後も永遠に崇められる「神」の存在になることだ。すでに『毛語録』に倣って編纂した『習語録』は、7000万人以上いる中国共産党員の必読書なった。今年から、小学校の教科書に「習おじさん」の愛称が登場するようになった。「神格化」へ向けたシナリオは、着々と進んでいるのである。

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今年7月、香港で2年ぶりに開催された香港ブックフェア。香港国家安全維持法が施行されてから初めての開催となったため政治的な書籍の出品は激減したが、それに代わるように『習近平 国家運営を語る』は平積みされていた(写真:REX/アフロ)

狙うは世界の支配権

今、習近平が掲げる「2025年経済開発計画」は、中央集権体制を最先端技術で補完するものだ。高度なAIシステムやロボットなどの最先端技術を駆使し、数億台の監視カメラで国民の行動を監視する。暗号資産(仮想通貨)を排除し、中国人民銀行(中央銀行)がデジタル人民元を発行して、金融を一元管理する。経済のデジタル化とAIシステムによって得られるビッグデータは、強固な国家形成の基盤になると同時に、世界で中国が支配的地位を確立する大構想を実現するための重要な要素だ。

米国のエコノミストによれば、中国の不動産・建設業はGDPの2割を占めるが、近年の成長率の実に4割を担っており、これが崩壊すれば、今年8%と予想されている中国のGDPを3~4%引き下げ、世界経済に多大な影響を与えることになる、と予測する。リーマン・ショックの再来ほどではないが、2022年の波乱要因になるはずだ、とも言う。

世界が金融市場に目を奪われている間にも、中国では、習近平の「神格化」が進み、強権体制が着実に構築されつつある。世界の支配権を握ろうと野望を抱く中国の外交戦略に、もっと留意すべきではないか。

譚 璐美

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