じつは車輪を持つ生物が存在していた

じつは車輪を持つ生物が存在していた

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/06/10
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車輪はデコボコ道でも走れる

よく言われる疑問の1つに、「なぜ生物には車輪がないのか」というものがある。ただし、車輪を持つ生物がまったくいないわけではない。それについては後で紹介するけれど、ほとんどの生物が車輪をもっていないことも、また事実である。なぜ、ほとんどの生物には車輪がないのだろうか。これに対する答えとしては、「車輪はデコボコ道が苦手だから」というのが一般的である。

たしかに車輪をもつ自動車は、舗装された平らな道ならスムーズに走れる。しかし、地面はいたるところ、デコボコだらけだ。車輪はこういうデコボコが苦手なので、ほとんど進化しなかった、というわけだ。でも、この意見は少し変な気がする。

デコボコが大きいと車輪が進めないのは事実だが、少しぐらいのデコボコなら、車輪でも進むことができる。理論的には、半径より小さい段差なら、車輪は乗り越えられる。だから、デコボコに対して車輪が相対的に大きければ、車輪は進むことができるのだ。

そのため、道路がなくても車輪で走れるところは結構ある。たとえば、タイヤの直径が1メートルもないジープで、道路のないサバンナや砂漠を走ることは可能だし、火星の探査車だって、車輪で移動しながら、道路のない火星の表面を調査している。たしかに車輪で走れないところも多いだろうが、あらゆるところで車輪がまったく使えない、ということはないはずだ。

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タイヤの直径が1メートルもないジープも、デコボコのサバンナや砂漠を走ることができる photo by gettyimages

回転構造があまり見られない理由はなんだろう

そう考えると、一部の地域で、車輪を持つ生物が進化したって、よさそうなものである。コアラのように食性が限られていて、一部の地域にしか住んでいない生物はたくさんいる。それなのに、どうしてサバンナにだけ棲んでいる車輪をもつシカは、進化しなかったのだろうか。

しかも、生物がすんでいるのは陸上だけではない。海を泳ぐものも、空を飛ぶものもいる。それなら、デコボコは関係ない。スクリューやプロペラを持つ生物が進化すれば、ちゃんと泳いだり飛んだりできるのではないだろうか。

さらに言えば、移動手段が1つである必要もない。車輪以外の移動手段があってもよいわけだ。

カブトムシは空を飛ぶ。でも地面を歩くこともできる。カブトムシは空を飛ぶ翅も、地面を歩く肢も、両方持っているからだ。一方、エビは泳ぐ。でも海底を歩くこともできる。泳ぐための肢(腹部についている腹肢)と、海底を歩くための肢(胸部についている胸脚)を、両方持っているからだ。

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エビは泳ぐための腹肢と、歩くための胸脚、両方を持つ photo by gettyimages

だから、肢と車輪を両方進化させた生物がいたって、よさそうだ。デコボコした場所は肢で歩き、平坦なところは車輪で疾走する。そんな生物がいたら、繁栄しそうに思える。ローラースケートのように、足に車輪をつけるのも、よいかもしれない。これなら、車輪で越えられないような大きな石は、跨げばよいのだ。それなのに、いくらサバンナを見渡しても、車輪で走っていく生物が1匹もいないのはなぜだろう。

以上の話をまとめると、地上でもあまりデコボコがなくて車輪で走れるところはあるし、水中や空中ならそもそもデコボコがないのでスクリューやプロペラが役に立ちそうだし、車輪に加えて肢もあればデコボコがあっても大丈夫だ、ということになる。どうやら「地面がデコボコだから車輪が進化しなかった」という意見には、あまり説得力はなさそうだ。

また、車輪が進化しなかったことに関しては、デコボコとは関係のない別の意見もある。それは、車輪が進化する途中の中間形が想像しにくいという意見である。もし、半分しかできていない車輪が何の役にも立たなければ、そういう中間形を経由して車輪が進化することはできない。だから車輪は進化しなかったのだ、というわけだ。しかし、少数ながら、実際に車輪を進化させた生物がいるのだから、この意見は却下してもよいだろう。

車輪を持つ生物たち

それでは、実際に車輪(などの回転構造)を持つ生物を、いくつか見てみよう。
回転構造を持つ生物としてとしては、大腸菌などの細菌が有名だ。細菌は、べん毛をスクリューのように回転させて、水中を移動するのである。

ところで、地球の生物は、原核生物と真核生物の2つに分類できる。真核生物の細胞では、細胞質基質(細胞の中の液体部分)の中に核があり、DNAは核の中にしまわれている。一方、原核生物には核がなく、DNAが細胞質基質の中に直接漂っている。ちなみに、私たちヒトは真核生物だ。

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原核生物と真核生物の細胞。真核生物の細胞では、DNAが細胞質基質中にある核にしまわれているのに対し、原核生物ではDNAが細胞質基質中を漂っている illustrations by getyimages

大腸菌などの細菌は原核生物だが、真核生物の中にも回転構造を持つものがいる。たとえば、シロアリの腸内に住む単細胞の真核生物であるデベスコビナなどの鞭毛虫(べんもうちゅう)である。

デベスコビナは細長い細胞だが、その先端部分がクルクルと回るのである。先端部分の中には核やゴルジ体(細胞小器官の1つ)があり、それらも一緒にクルクルと回る。面白いのは表面の細胞膜で、先端部分とその他の部分の間に、切れ目はないらしい。流れない液体と流れる液体が接しているような感じで、連続的につながりながら、先端部分だけが回転するようだ。

細長い細胞の中には棒のような軸が通っており、この軸の先端に核やゴルジ体がくっついている。この軸が回転する結果、それに伴って核やゴルジ体や先端近くの細胞膜が、回転するらしい。

さらに、2018年に山口大学の沖村千夏、岩楯好昭らは、車輪を持つ細胞を、真核生物である魚類で報告している。

参考:山口大学〈車輪細胞見つけた!〜新しい細胞移動のメカニズム〜〉http://www.yamaguchi-u.ac.jp/weeklynews/2018/_7156.html

それは魚の表皮にあるケラトサイトという細胞で、表皮が傷つくと、傷ついた場所に移動して修復する働きがある。餃子のような形をしていて、具が入っている方が後ろ、薄いヒダの方を前にして進む。このケラトサイトの移動速度はかなり速く、私たちヒトの表皮にあるケラチノサイトという細胞の10倍以上の速さで移動するらしい。

ケラトサイトの餃子の具の部分は細胞体と呼ばれ、ラグビーボールのような形をしている。ラグビーボールの縫い目のところは、アクチンとミオシンというタンパク質から成るストレスファイバーという繊維構造になっている。このラグビーボールが回転することによって、ケラトサイトは移動するのである。つまり、このラグビーボールが車輪なのだ。

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移動する細胞「ケラトサイト」の模式図(山口大学の資料を参考に作成)

このように生物は、車輪などの回転構造を進化させることがある。しかし、これらの回転構造は、すべて細胞レベルの小さなものだ。だから物質の輸送を、拡散というメカニズムで行うことができる。拡散とは、原子や分子の熱運動が原因で物質が動くことである。短い距離なら、物質は拡散によって自動的に広がっていくので、小さな生物の体内における物質の輸送は、たいてい拡散で十分なのだ。

しかし、私たちのように大きな生物が大きな車輪を持つとなると、話しが違ってくる。

大きな生物に車輪がないわけ

大きな生物は、拡散によって体の表面の皮膚から、酸素や栄養を取り入れるのは無理なのだ。拡散によって酸素や栄養が届くのは、皮膚の近くだけである。体の中の方までは届かないので、中の方は死んでしまう。それでは困るので、体の大きい動物では、体の中の方まで酸素や栄養を届けるための仕組みが必要になる。それが、心臓や血管である。

心臓が拍動することによって、無理やり血液を体内に送る。そして体中の細胞に、酸素や栄養が含まれている血液を届けるのである。私たちの体は、どこを針で刺しても、血が出る。それは体中の細胞に、血液が届けられている証拠である。

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心臓の拍動で送られる血液によって、体の深部に至るまで酸素や栄養が届けられる

したがって、私たち大きな動物には血管が必要である。しかし、回転構造に血管をつなぐことはできない。そのため、大きな回転構造はできないのだろう。回転構造は小さなものに限られるのだ。

ところで、比較的大きな生物で回転構造を持つものとしては、ウンカという昆虫の仲間の幼虫が知られている。ウンカの幼虫はジャンプするときに、非常に速く肢を動かす。そのとき、両肢の動くタイミングが合っていないと、まっすぐに飛ぶことができない。そのため右肢と左肢それぞれの付け根近くに歯車があって、お互いに噛み合うようになっている。こうしておけば、両肢の動くタイミングがきっちりと揃うので、まっすぐにジャンプすることができるのだ。

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ウンカの幼虫 photo by ngettyimages

上は歯車の回転する様子をとらえたもの

ただし、ウンカの幼虫の歯車は、360度を超えてクルクルと回転するわけではない。回転する角度は、せいぜい数十度だ。そして数十度回るたびに、逆回転して元に戻る。そのため、歯車構造は体の他の部分と分離しているわけではなく、繋がっている。だから、酸素や栄養の輸送を拡散だけに頼る必要はないのである。

大きい生物で車輪が進化しなかった理由は、地面がデコボコしているからではなく、おそらく拡散で栄養を運べないからだろう。

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