「ゲーム・オブ・スローンズ」新作が奪還した満足度

「ゲーム・オブ・スローンズ」新作が奪還した満足度

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2022/09/23
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「ゲーム・オブ・スローンズ」スピンオフ作品も満足度の高い血みどろの物語が展開されている。写真は後半戦の主役レイニラを演じるエマ・ダーシー。「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」U-NEXTにて独占配信中(写真:© 2022 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.)

Netflix、Amazon プライム・ビデオ、Huluなど、気づけば世の中にあふれているネット動画配信サービス。時流に乗って利用してみたいけれど、「何を見たらいいかわからない」「配信のオリジナル番組は本当に面白いの?」という読者も多いのではないでしょうか。本記事ではそんな迷える読者のために、テレビ業界に詳しい長谷川朋子氏が「今見るべきネット動画」とその魅力を解説します。

エンタメの歴史を塗り替えた「力量」

テレビ界最高峰のエミー賞で史上最多59賞受賞歴を持つドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」待望の新作が現在、U-NEXTで配信中です。タイトルは「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」。8月22日の配信開始以降、血みどろの最新話が毎週月曜に更新されています。全10話の前半戦を終えたところで公式スピンオフ作品としては、あの最低評価を超える満足度です。

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あの最低評価とは、「ゲーム・オブ・スローンズ」のラストを飾った最終話のこと。全8シーズンにわたって、他のファンタジードラマとは一線を画した残虐性と欠点だらけの登場人物が複雑に絡み合う物語は最大限に夢中にさせてくれますが、唯一の欠点とも言えるのが結末でした。

生き残る者も死にゆく者も一緒くたにした唐突な終わり方だと感じただけに、少々残った消化不良を解消する1つの役割が新作「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」にはあるのかもしれません。シリーズを象徴する“鉄の玉座”をめぐった血肉の争いを再び描きつつ、新作は「ゲーム・オブ・スローンズ」より約200年前を舞台に、ドラゴンの血を引き、プラチナ・ブロンドの髪を持つ無敵の名家「ターガリエン家」に焦点を当てています。

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シリーズを象徴する“鉄の玉座”をめぐり、新作はドラゴンの血を引く無敵の名家「ターガリエン家」に焦点を当てる(写真:© 2022 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.)

前作同様に両作の原作者でテレビプロデューサーのジョージ・R・R・マーティンが製作総指揮に入るなど、オリジナルの制作陣が一部残って引き継いでいることから、シリーズの統一感は損なわれていません。物語の世界へと誘うオープニングの映像からしておぞましく、重厚で格式高いテーマソングが流れます。暗すぎる照明もそのままです。海外ドラマの王者HBOの力量を冒頭から確認することができます。

テーマは国を滅ぼす「家父長制」

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残虐性極まりない出産シーン前のターガリエン家の国王と王妃(写真:© 2022 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.)

第1話から「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」全体のテーマである家父長制が強烈に伝わってくる作りです。女性君主を許さない体制が最終的に国を滅すのではないか。繰り返しこれが問われていきます。揶揄するかのように用意された、残虐性極まりない死を伴う出産シーンは目を覆いたくなるほどです。男児誕生に固執し、血で血を洗うことの愚かさがここから始まっていきます。

その物語の中心人物にあるのが、女王レイニラです。ターガリエン家の女王と言えば、前作で登場したデナーリスの自信満々のイメージが色濃く残るなかで、レイニラは地味目。華やかさに欠けて物足りなくも感じますが、若き日を演じた若手女優のミリー・オールコックは確かな演技力を見せています。後半からは演技派のエマ・ダーシーへと変わります。

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少女時代のレイニラを熱演したミリー・オールコック(写真左)は地味目だが、演技力は確かなもの(写真:© 2022 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.)

シリーズで欠かせない存在にある「王の手」と呼ばれる宰相職の娘アリセントも重要な役どころです。前作で最も美しい悪女サーセイを彷彿とさせるポジションになります。こちらもダブルキャストとなり、後半は映画「レディ・プレイヤー1」を代表作に持つオリヴィア・クックが演じます。

また誤った判断を繰り返してイライラさせるリーダー気質ゼロのレイニラの父で国王は、パディ・コンシダインが、そしてレイニラの叔父にあたるトラブル・メーカー役のデイモンをマット・スミスが演じています。マット・スミスは一番のはまり役かもしれません。数百年も七王国を統治したという設定のターガリエン家の完全さと不完全さをよく表しています。

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王の弟でトラブル・メーカー役のデイモンをマット・スミスが好演(写真:© 2022 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.)

残念なのが、この4人以上に濃いキャラクターが待てど暮らせど現れないことにあります。七王国を舞台に魅力的な登場人物が次から次へと増える「ゲーム・オブ・スローンズ」と比べてしまうと、これも物足りない点にあります。

一応それには理由がありそうです。プロダクションノートによれば、「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」は「複雑なシェイクスピア風家族劇」を目指したとのこと。要するに、あえて人物を家族間に絞って、心の内をじっとりじわじわと描いているのです。壮大さは失われていませんが、スピンオフ作品として差別化しているのかもしれません。

スタイルの違いは全10話の中で何度かタイムスリップが起こる点にも見ることができます。第1話と第2話は1つの時代、第3話、第4話、第5話は3~4年後、そして第6話以降で10年後が描かれます。時間軸が飛ぶことによって、視聴意欲が削がれやすくもありますが、毎話ごとに見せ場を作って期待を持たせるのは憎い演出です。

製作費は1話あたり約28億6000万円

期待が高まった初回はU-NEXTの海外ドラマの中で初週視聴ランキング第1位を記録しています。全米では1話の視聴者数が2000万人を超え、ストリーミング配信が展開されているアメリカとヨーロッパを合わせた視聴者数はHBO史上最多となりました。勢いに乗ってシーズン2の制作を発表し、肝心の視聴者数もさらに数字を伸ばした2週目の結果がアメリカのニールセンから発表されています。

その後はAmazonのプライム・ビデオからジャンルが被る「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」が配信開始され、世間ではひとまとまりで話題になってもいます。ライバル作品ながら互いに思わぬ相乗効果を得ているのではないでしょうか。

両作品の話題の1つにあるのが製作費です。Amazonのプライム・ビデオで640億円を超える超大作が登場しなければ、「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」はファンタジードラマとして世界最大規模になっていたのかもしれません。1話あたり2000万ドル弱(28億6000万円)と言われています。

なお、前作の「ゲーム・オブ・スローンズ」は2019年に公開された最終シーズンが1話あたり約1500万ドル(21億5000万円)と推測されています。これに対して初めのシーズンは1話あたり600万ドル(8億6000万円)ほどだったので、前作と比べて初めから大盤振る舞いというわけです。

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撮影は欧州の3カ国で行われ、最大2000人のスタッフが参加。製作費は1話あたり2000万ドル弱と言われる。写真は後半戦でアリセント役を演じる人気女優のオリヴィア・クック(写真:© 2022 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.)

撮影はイギリス、スペイン、ポルトガルの3カ国で行われ、最大2000人のスタッフが参加したこともわかっています。スピンオフ作品として考えると相当な扱いです。エンターテインメント業界の歴史を塗り替え続けたシリーズとして、製作したHBOの高いプライドを感じます。

HBOにとって、攻め時のタイミングでもあります。9月13日に発表された最新の第74回エミー賞ではHBOドラマがNetflixやディズニー、Appleを凌いで、強さを示していたところです。ルパート・マードックをモデルにした「メディア王 〜華麗なる一族〜」が作品賞ら3部門を受賞し、ほか主要部門の賞をHBOドラマが制覇していました。

「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」はそんなHBOの今の勢いを感じることもできる作品です。前日譚ですから、前作を飛ばして見始めても支障はありませんが、「ゲーム・オブ・スローンズ」からハマると、HBOが長年築いた意地まで味わえて、満足度はより一層高いかもしれません。

(長谷川 朋子:コラムニスト)

長谷川 朋子

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