“負けヒロイン”からの下剋上。にじさんじ・森中花咲の転機と成長譚

“負けヒロイン”からの下剋上。にじさんじ・森中花咲の転機と成長譚

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  • 更新日:2022/05/14
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(C)ANYCOLOR, Inc.

現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一社であるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。

メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ1年ほどはエンターテインメントのフィールドで、アーティストとして日の目を見る者も増加している。

ここ数回では「元二期生」のメンバーにスポットを当ててきたわけだが、今回取り上げるのは、当世代きってのシンガー&タレントである森中花咲だ。

2018年3月15日にMirrativで初配信を行ない、元二期生のシークレット枠としてデビューした彼女。もともとは元1期生とほぼ同時期ににじさんじからのデビューが決まっていたとのことだが、運営会社であるいちから社(現:ANYCOLOR社)の田角陸社長が出したアイディアで、元二期生のシークレット枠としてデビューとなったという経緯がある。

元一期生の勇気ちひろと非常に仲が良いというのを筆頭に、元一期生から後輩に至るまで、非常に多くのメンバーとコラボ配信・ゲスト出演などを通して関わりを持っており、いま現在では彼女と関わりを持っていないライバーが少ないレベルではないだろうか。

にじさんじ内大会・公式イベントなどにもこれまでにも数多く参加し、生配信・歌動画なども合わせて「彼女と関わったことのある日本人のライバー」の数は80人前後を数える。これに加え、海外所属のライバーやにじさんじ以外のストリーマーやVTuberを含めれば、100人近いタレントと絡んできたことになる。

元々は内気で人見知りであったというが、いちど声をかけて同僚らと共に遊んでみたところ、一気にコラボ配信の頻度が増えていったという森咲。自身がアイディアを出して積極的に絡んでいき、表の配信活動だけでなく、裏のプライベートでも共に遊びに行く友人も徐々に増えていった。

「かざちゃん」の愛称で親しまれる彼女自身いわく、「人が好き・友達が特に好きだから、別に苦でもなくやってきてる」という。その変化に人間味を感じるのは筆者だけではないだろう。

緑髪のショートカットと瞳にタレ目が特徴的で、キュートな見た目と人懐っこい性格で愛されやすい彼女。とはいえ元々内気で人見知りな性格や気質を表すように、口喧嘩や舌戦には滅法弱く、同僚やリスナーに何度となく舌戦を仕掛けても言いくるめられることもよくみられる光景だ。

強烈なツッコミやコメントにショックを隠せずにいられない素直さや、芸人らしい振る舞いではなくあくまで自然体な姿で臨んでいるスタンスも、彼女が愛される由縁であろう。

彼女がこうしてことごとくイジられる姿を指し、自他ともに「負けヒロイン」と言われるようになっていった。

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彼女がここまで多くの人達と絡むことができたのには、単に「素直さ」「愛らしさ」「人が好きという気質」というだけではなく、ほかにも理由が絡んでいるようにみえる。

まず、彼女が自認するように「オタク」であったことは重要であろう。もともと少女マンガが好きだったことも影響して、徐々にガールズラブ系の作品も好きになっていった彼女は、『うたの☆プリンスさまっ♪』をきっかけにして乙女ゲームにもハマるなど、その嗜好範囲の広さ・寛容さがうかがい知れる。

アニメにも強い愛着があり、いちばんに愛しているといえばディズニー作品だろう。「ライバー以外の仕事に就くとしたらディズニーキャスト」と豪語しており、ゲームプレイ中でも普段の雑談中でもディズニー関連の話題をほぼ必ずあげているほどだ。

これまでにもにじさんじ所属のタレントとディズニーランドへ足を運んだことを何度となく報告したり、ディズニー専用の雑談枠を設け、2021年3月7日にはドーラ、花畑チャイカ、ジョー・力一の4人でディズニーソング3Dライブを行なったほどの熱量だ。

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ハリー・ポッター関連も同じように好きということも踏まえて語弊を怖れずにいえば、真っ当なる女性オタクとしてのベースが森中花咲にはあるように見える。リスナーや同僚らにも受け入れやすい、それどころか彼らを理解するに十二分なセンスを持ち合わせていたのは見過ごしてはいけないはずだ。

もう一つあげるとすれば、にじさんじとしてデビューする前までゲームにあまり触れることがなく、不慣れであったという点にある。苦手意識からデビュー後1年ほどは雑談配信、歌配信、ちょっとした企画配信で乗り切っていた。

一見すればこれは弱点であろう。そのことについて、彼女は以下のように語っている。

「元々あたしがこれまでやってきたゲームといえば『ポケモン』シリーズくらい、それ以外はやったこともない、ただのディズニーが大好きな女の子だったの。『ゲーム配信をしてもいいですよ』となったとき、アプリのテスターとして入った自分としてはよく分からない状態だった」

「そもそも自分は雑談・企画・コラボの3つしかやってこなかったけど、ゲーム配信を求める声がにじさんじどころかVTuber全体にも増えて、ゲーム配信をする人が増えてきたのをみて、『これは時代にノらんとだめだ!』と思ってやり始めたのが『Minecraft』だった。そしたら1年後くらいには、それまでキツかった画面酔いがしなくなってた!」

こうして2019年初めにゲーム配信をスタートした彼女は、『Minecraft』『Getting Over It』『みんなのリズム天国』『どうぶつの森』といったゲーム配信の定番タイトルから、『モンスターハンター:ワールド』『ARK: Survival Evolved』を難なくプレイできるまでゲームスキル・勘を養っていくこととなる。

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2022年現在、森中花咲のゲーム配信と言えば『Apex Legends』だという人も多いだろう。多くの人気大会・スクリムに参加し、愛するキャラクター・バンガロールを操る彼女の姿を見つけることもあるはずだ。

雑談好きなところからもうかがえるトーク力、熱心なオタク・スピリット、ゲームスキルがおぼつかないという点を打ち消そうとするゲーム配信へのチャレンジと向上心、「コラボした相手に楽しかったと思ってほしい」と口にだすほどに相手想いな気質などを備えた彼女には、にじさんじ内外のタレントと数多くのコラボが巡ることになり、公私をともにする友人も増えた。

森中と公私を共にする友人と言って忘れてはいけないのは、御伽原江良の存在だろう。歌への愛情も強く、多くの動画・配信・イベントでその歌声を披露していた森中は、同じくディズニー好きでありプライベートで非常に仲の良かった御伽原とコンビを組み、petit fleursとして2020年春にNBCユニバーサル・エンターテイメントよりメジャーデビューをはたした。

アルバム『premiere fleurs』やライブをこなしたpetit fleursとしての活動、ゲーム配信にも慣れ、大所帯となったにじさんじのなかでも存在感を放っていた彼女。

そんな彼女の転機は、2021年上半期に訪れた。

2021年6月までの前半期は、それまでのバーチャルタレント・VTuberシーンとは比べ物にならないほど、人気タレントの脱退・卒業・引退が相次いだ時期であった。

2021年1月8日にイラストレーターのMika Pikazoが手掛けていたピンキーポップヘップバーンが引退したのを皮切りに、電脳少女シロが所属する「.LIVE」で活動していたアイドル部1期生のうち、牛巻りこ、木曽あずき、北上双葉、金剛いろは、八重沢なとりが4月30日をもって卒業となった。

さらに、ホロライブを引っ張りつづけ同事務所の海外人気におおきく貢献した「会長」こと桐生ココが7月1日に、にじさんじからはそのウィスパーボイスと抜群のスタミナを活かした長時間ゲーム配信で多くのファンを産んだ鈴原るるが6月30日に、そしてpetit fleursで活動を共にしていた御伽原江良が3月10日に、相次いで事務所から卒業。それぞれの新天地・進路へと向かっていったのだ。

終わるはずのない夢が次々潰え、交わした約束が露と消えていく、そんな悲しみに暮れるファンが多く生まれたことを昨日のように思いだす人もいるだろう。

そんなシーンの大きな変わり目に、森中花咲はとても象徴的な1枚のアルバムを出した。2021年5月26日にリリースされたソロアルバム『下剋上』である。

御伽原江良がにじさんじを卒業した直後、彼女は配信内でこのように話している。

「本来だったらユニットを組んでいる前提で動いているので、ユニットが終わったら『終わり』なのよ。わたしはいまの活動をする前、とあるオーディションに受かっていてデビューが決まっていたけど、プロジェクトそのものが無くなってしまったのを経験しているの」

「いちからに入って活動する前からそういうことを知っているから、いまのNBCユニバーサルさんのプロデューサーには感謝しかない、本当に優しいなと思う。今後どうしようかという話し合いの時には、辞めてもいいし、続けてもいいしと、選択肢を2個も用意してくれたことに感動してしまった」

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3月13日の時点ではこのように感謝の言葉を述べ、10日後の3月23日にはNBCユニバーサル・エンターテイメントからソロデビューすることが告知された。ソロアルバムがどのタイミングから制作がスタートしたかは定かではないが、急ピッチで進んでいったのは想像に難くないだろう。

アルバムをスタートするリード曲「下剋上」は、本アルバムのムードと方向性、加えて森中花咲のスタンスを知ることができる1曲だ。

森中花咲『下剋上』ミュージックビデオ

ヒステリックでも戦い続ける“下剋上”の決意表明とも取れるこの歌は、「森中花咲は負けヒロイン」とファンや同僚らから持たれているこれまでのイメージを覆しにいくことを宣言し、1人のVTuberが1人のシンガーとして成長したことを強く印象付けた。さらには2021年上半期における卒業・引退ラッシュへのアンサーのように響いてしまうほどの強度を持ったのだ。

「下剋上」を作曲した作曲者・てにをはを筆頭にして、ボカロPとして活躍する40mP、Chinozoに加え、アニソンシーンでも名を馳せる中塚武、烏屋茶房、やなぎなぎといったソングライターらが本作に携わっている。

10歳や15歳などのふだんの幼い姿からアーティストとして活動するために22歳の姿へと変わった森中花咲を、いままでの配信活動で見せていたような可愛らしさだけではなく、強いバイタリティ、アンダードッグな精神性、ナイーブな葛藤をも表現しうる1人のチャレンジャーのように、このデビューアルバムは捉えてみせたのだ。

森中花咲 1st Album『下剋上』全曲クロスフェード

2022年2月12日にはVRプラットフォームのVARKにて自身初となるVR LIVE『下剋上』を開催。5月上旬には長期に渡ったゴールデンウィークのなかで開催された『YouTube Music Weekend』にも参加し、この日のライブを特別編集した映像を届けた。

「強者を叩く」という下剋上の字義は、彼女というフィルターを通して「見返してみせる」「タフに生き抜く」というメッセージへと変換された。多彩なイメージを背負った彼女が今後どのような岐路に立ち、なにを選んでいくことになるのか。その背中は小さくも、大きく見えてくる。

森中花咲-YouTube Music Weekend特別編

草野虹

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