総務省の肝煎りで各社の対応が進む「eSIM」は本当に普及するのか(佐野正弘)

総務省の肝煎りで各社の対応が進む「eSIM」は本当に普及するのか(佐野正弘)

  • Engadget
  • 更新日:2021/05/04
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ここ数年来スマートフォンに詳しい人達から高い関心が寄せられていた、端末に内蔵されたSIM「eSIM」を巡る動向。そして最近、そのeSIMを巡る動向が激しくなっていることから、改めて国内でのスマートフォンに関するeSIMの現状と今後について確認しておきたいと思います。

eSIMはアップルの「iPhone」シリーズやグーグルの「Pixel」シリーズが積極採用したことにより、国内でもスマートフォンで利用できる環境は整いつつありました。ですが携帯大手3社がスマートフォン向けのeSIM対応に消極的で、肝心のeSIMが利用できるサービスがなかなか提供されず不満を抱いていた人も多かったかと思います。

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▲iPhoneは2018年の「iPhone XS」シリーズ以降からeSIMに対応。SIMカードとeSIMのデュアルSIM構成となっている

ですがここ1、2年のうちに、ようやくeSIMに対応するサービスが国内でも増えつつあるようです。中でも積極的に取り組んでいるのがMVNO大手のインターネットイニシアティブ(IIJ)の「IIJmio」で、2019年7月にデータ通信専用の「ライトスタートプラン(eSIMベータ版)」を開始して以降、eSIM対応サービスの提供に力を入れています。

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▲IIJmioは2019年7月より、スマートフォン向けeSIM対応サービス「ライトスタートプラン(eSIMベータ版)」を開始して以降、eSIM対応サービスの提供を本格化させている

そしてもう1つ、eSIMに積極的な対応を進めているのが楽天モバイルです。同社は2020年4月の本格サービス開始時点からeSIM対応を特徴の1つに打ち出しており、現在はeSIMとeKYC(電子本人確認)を活用した「AIかんたん本人確認(eKYC)」で、オンラインで全ての手続きが済み、本人確認後すぐサービスが利用できる仕組みも整えています。

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▲eSIMに力を入れる楽天モバイルのオリジナルのスマートフォン「Rakuten BIG」「Rakuten Hand」などは、いずれもSIMスロットがなくeSIMのみを搭載している

それでも携帯大手3社がeSIMの対応に動かず、限定的な利用にとどまっていましたが、2021年に入るとその大手がeSIMに対応する動きを加速させているようです。実際2021年3月17日には、ソフトバンクが「ワイモバイル」ブランドでeSIMによるサービス提供を開始していますし、同日にサービスを開始したソフトバンクの「LINEMO」、そして2021年3月23日に開始したKDDIの「povo」といったオンライン専用の新プランもeSIMへの対応を打ち出しています。

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▲ワイモバイルのWebサイトより。ワイモバイルはいち早くeKYCを導入していたこともあり、いち早くスマートフォン向けのeSIM対応が進められた

なぜ大手がeSIM対応を急に進めたのかといえば、ひとえに総務省の影響といえるでしょう。携帯電話会社の乗り換えを促進して大手3社による市場寡占を崩したい総務省は、かねてオンライン上の手続きだけで乗り換えができるeSIMの導入に積極的に動いており、総務省が2020年10月に公表した「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」でも「eSIMの促進」を取り組みの1つとして掲げています。

そうしたことから携帯大手もeSIMへの対応を進めるに至ったといえますが、それでも大手3社の“虎の子”ともいえるメインブランドに関しては現在もeSIM対応が打ち出されていませんし、NTTドコモに至ってはオンライン専用の「ahamo」でさえ、eSIMへの対応をしておらず消極的な姿勢が目立ちます。

またIIJ以外のMVNOもeSIMに対応する動きが見られないのですが、こちらは正確に言えば「導入したくてもできない」状況といえます。そもそもeSIMに対応するには、SIMに遠隔で情報を書き込む「リモートSIMプロビジョニング」(RSP)という機能への対応が必要で、MVNOでそれに対応しているのは自社でSIMを発行できる「フルMVNO」のみ。IIJはフルMVNOだからこそeSIM向けサービスの提供ができたわけで、そうではない多くのMVNOは、回線を貸す携帯電話会社がRSPをMVNOに開放しない限りeSIMに対応できないのです。

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▲総務省「スイッチング円滑化タスクフォース」第3回会合のテレコムサービス協会MVNO委員会提出資料より。eSIMは基本的に抜き差しができないので、遠隔でSIMの情報を書き換えるRSPに対応する事業者でないとeSIM向けサービスの提供ができない

先のアクションプランを受けて総務省で進められていた有識者会議「スイッチング円滑化タスクフォース」の内容を振り返りますと、携帯大手がeSIMへの対応に消極的な理由として挙がっていたのが、eSIM特有のセキュリティに関する問題です。例えばNTTドコモは2020年12月8日に実施された同タスクフォースの第2回会合で、「eSIMベンダが乱立する状況にあり、セキュリティリスクを担保できない可能性がある」としています。

これはどういうことかといいますと、SIMカードは携帯電話会社が調達するベンダーを選べることから自身の責任で安全性を担保できるのに対し、eSIMは端末メーカーがベンダーを選ぶ仕組みなので、携帯電話会社が安全性を担保できないということ。それゆえセキュリティに問題があるeSIMを搭載した端末で利用されると「クローンSIM」、つまりSIMを複製されてしまう恐れがあるので慎重な対応が必要だと主張していたのです。

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▲「スイッチング円滑化タスクフォース」第2回会合のNTTドコモ提出資料より。eSIMは携帯電話会社側がベンダーを選べないので、SIMカードと同様のセキュリティ担保ができないと主張していた

ですが第3回の会合では、テレコムサービス協会MVNO委員会がNTTドコモが主張するeSIMベンダーの乱立を否定し「SIMベンダーが信用できないことを理由に利用者利便性を損ねるということについては、我々は正当な理由ではない」と主張。また第4回会合に登壇した大日本印刷からは、eSIMの管理番号を読みだすことでベンダーなどを取得でき、それを基にセキュリティ上問題のあるeSIMでは利用できない仕組みを実現できるのではないかとの意見もありました。

そうした一連の議論の末まとめられたタスクフォースの報告書案を見ますと、携帯大手の消極的な意見ははねのけられ、スマートフォン向けのeSIM対応は「新型コロナウイルス感染症の収束を見据えつつ、できるだけ早期に導入する必要があること」として2021年夏頃を目途に導入することを明確に求めています。また同時にMVNOに対するRSPの開放も求めており、その時期についても、携帯各社がeSIM向けサービスを提供するのと同じタイミングですべきとしています。

では、携帯各社が気にしているeSIMのセキュリティはどう判断されたのかといいますと、携帯各社とMVNO、さらには業界団体のGSMAやeSIMベンダーと協力して、SIMカードと同等のセキュリティを確保する仕組みを導入すべきとしており、既存の枠組みで十分対応できると捉えられているようです。またオンラインで完結する仕組みを提供する上では「eSIMサービスの提供に際してeKYCによる本人確認を可能とすることが適当である」とし、安全性確保のため本人確認にeKYCを活用することも打ち出しているようです。

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▲「競争ルールの検証に関するWG」第16回会合資料より。先のタスクフォースの報告書では、携帯各社にeSIMの早期導入を求めるだけでなく、MVNOも同じタイミングでサービスを提供できるようRSPの開放も明確に求めている

そうしたことから携帯3社は、メインブランドでも今夏中のeSIM対応が避けられなくなったといえます。またMVNOの対応は準備が必要なためもう少し遅くなるかと思われますが、今年の後半から来年にかけては多くのサービスがeSIMに対応する可能性が高いといえそうです。

ただ、eSIMに対応したからといって、それが多くの人に使われるかというのは別問題です。そもそもeSIMを使ってオンラインだけで回線契約するには、eSIMやeKYCの仕組みを知り、スマートフォンの操作に慣れている必要があるなど一定のリテラシーが求められます。またeSIMの設定の際は、一般的に携帯電話会社から発行されたQRコードをスマートフォンで読み取る必要があり、QRコードを表示する端末が別途必要なことからスマートフォン1台だけで対応するのが意外と難しいといった課題もあったりします。

実際、先のタスクフォースではKDDIやソフトバンクなどから、リテラシーの影響で利活用が進まないことが課題になってくるのではないか、との意見も出ていました。それゆえまとめ案には、利用者に分かりやすい情報を提供し、サポートの充実を図るべきであるなど、eSIMに関する利用者の理解や認知を促進する取り組みも必要とされています。

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▲「スイッチング円滑化タスクフォース」第2回会合のKDDI提出資料より。eSIMは一般的にQRコードの発行と読み取りが必要で、複数のデバイスが必要になるなど、実際に利用するには一定のリテラシーも求められる

ただ、利用者のリテラシーに起因する問題は、個々人のリテラシーを高めなければ解決しない問題でもあり、そこに向けての具体的な解決策が記されていないのが気になるところ。総務省はeSIMを、乗り換えを促進して大手の寡占を崩す切り札の1つと見ている印象を受けるのですが、自身のリテラシーを高めてオンラインで手続きするよりもショップでの手厚いサポートを強く求める消費者は依然として多いだけに、総務省の思惑通りeSIMの利用が進むかについては疑問も少なからずある、というのが正直なところです。

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佐野正弘(Masahiro Sano)

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