大相撲「緊急事態宣言下での初場所開催」を安易に批判する前に

大相撲「緊急事態宣言下での初場所開催」を安易に批判する前に

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/01/13
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初場所開催への批判が殺到している

1月10日から大相撲初場所が予定通り開催されている。

だが、年末年始で新型コロナウイルス感染者が爆破的に増加し、初場所の開催される両国国技館のある東京都では緊急事態宣言が発令されている。今回は観客を入れての開催ということもあり、観客の移動に伴う感染リスクに加えて館内での感染リスクも考慮せねばならない。

相撲関係者の間でも感染が相次いでいる。荒汐部屋、九重部屋、友綱部屋、宮城野部屋では力士の感染が発覚しており、各部屋全ての力士が出場を控える事態となった上に、何より衝撃が走ったのは横綱白鵬の感染である。

新型コロナウイルス感染を受け、初日を前に関取16人を含む65力士が休場という前代未聞の状況だ。65名の休場がいかに多いかということは、初日の開始時間が1時間遅らせて9時50分であったことからも、その影響をうかがい知ることが出来る。

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〔PHOTO〕gettyimages

物議を醸しているのは、感染がここまで拡大しているにもかかわらず、予定通りの本場所開催、しかも観客を入れての開催ということである。声の大きな意見は概ね批判的なもので、もはや賛否両論という次元ではなく、無観客での開催や開催そのものの中止を求めるものが大多数だ。

確かに大相撲はコンタクトスポーツであり、また部屋で寝食を共にするという性格上、感染リスクが高いことは事実だ。ひとたび感染者が出ると部屋の関係者全員が濃厚接触者になる可能性が高く、事実、先の4部屋については全ての力士が出場できない事態になっている。誰かひとりが感染すると、多くの力士が影響を受けかねないというのは、大相撲ならではのリスクと言えるだろう。

また、忘れてはいけないのが、大相撲では既に1名、力士を新型コロナウイルス感染によって失っているということだ。

昨年5月、髙田川部屋所属の力士・勝武士(しょうぶし)が亡くなった。国内では初の20代での新型コロナウイルス感染による犠牲者ということ、また生前糖尿病を患っていたということもあり、基礎疾患がある他の力士たちに同様の事態が起こる可能性も考えられる。そのため力士は皆、慎重にならねばならない。

だから開催を懸念する声が挙がること自体は致し方ない。とはいえ、大相撲に於ける感染リスクの相対的な高さは、私自身各所で記事にしているが、広く認識されているという手応えは今のところない。というのも、本場所開催を否定する理由として、これらのリスクに言及する方がほとんど見られないからだ。

考えられる理由はただ一つ

そこで、一つの疑問が生じる。

なぜ、ここまで初場所開催に批判が集まるのか?

例えば、同じく年明けのスポーツイベントとしては、新日本プロレスが東京ドームで1月4日・5日に開催されているし、全国高校サッカーも春高バレーも行われている。だが、彼らに対して開催を中止するような批判的な声は聞こえてこない。

新日本プロレスは2日間で2万人あまりを動員しており、高校サッカーでも準決勝と決勝以外は観客を入れている。春高バレーは無観客での開催だ。感染者が出た学校は試合が出来ないということだが、この点に関しては、1人の感染で部屋全体が出場できないリスクを負う大相撲とそう変わらない。

確かに、これらのスポーツイベントと大相撲の本場所開催は注目度に差がある。同じ議論が発生するところまでには至らないということは分かる。

しかし、新日本プロレスは東京ドームという規模での開催であり、高校サッカーも春高バレーも高校生の大会だ。観客の多さという点では東京ドームの方が断然リスクが高いし、これから受験などを控える高校生の感染リスクという別ベクトルのリスクも見逃せない。

つまり、これらのイベントについても、本来、開催の是非を論じるべき点があるにもかかわらず、彼らはスルーされ、大相撲だけが批判を集めているということになる。

考えられる理由はただ一つ。

相撲協会に信頼が無いからだ。

もはや説明するまでもないが、2010年前後に発生した数々の不祥事で大相撲の人気は地に落ちた。その後、力士や協会の努力もあり人気はV字回復するも、良く言えばおおらか、悪く言えば杜撰な体質は変わらなかった。

そして、日馬富士暴行事件から、いわゆる「貴の乱」が起き、数々の不祥事が噴出する中で、貴乃花が半ば追放されるような形で協会を去ることになった。体制は変わらず、改革は進むこともなく今に至っている。

こうした不祥事の数々を多くの日本人が覚えている。相撲ファン以外は大相撲をあまり観なくなっているので、力士や大相撲に対するリスペクトという意識も無い。昔から不祥事自体は散発的に発生しているが、大相撲の体質的な問題や改革に言及されなかったのは、リスペクトが悪い方向で作用していたからだと言わざるを得ない。

現在では、何かが起きれば必ず悪い方に捉えられてしまう。それが大相撲の実情である。

最初から色眼鏡で見られている分、是々非々が通らず、否定のバイアスが掛かってしまうことは事実だろう。だからこそ本場所開催の是非について、リスクと開催を是とする要素を考慮しなければならないと私は思う。

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〔PHOTO〕Gettyimages

相撲協会の不出来と、初場所開催の是非

ここで整理すべきは、本場所を開催するにしても、観客・力士・関係者の感染を招かずに済ませられるか、という問題である。

この点に関しては、過去に実績がある。

新型コロナウイルスが蔓延して以降、本場所は4回開催されており、そのうち3回は観客を入れての開催だが、酒類の提供を行わず、観客数を通常の約半数に絞るなどの対策により、今のところ観客への感染は確認されていない。私個人も国技館で観戦しているが、観客のマナーの良さに感銘を受けたものである。

また、本場所中、力士・関係者の間で感染が拡大することも、今まででは無かった。つまり、ここまでは、本場所開催において感染対策で実績を残しているということだ。

もちろん感染状況は過去と現在では異なるため、これまでのノウハウがそのまま通用しない可能性もあるにせよ、一定の成果が出ているということは客観的事実として評価せねばならない。

さらに、場所直前にPCR検査を実施することにより、陽性者ならびに濃厚接触者は出場しないという処置を取っている。そのため、陽性者と濃厚接触者から感染が拡大するリスクは無いということである。

以降の問題としては、直前のPCR検査で発症していなかった力士・関係者から陽性者が出るリスクと、場所中に感染者に接触するリスクをどうするか、ということを考慮する必要がある。

ちなみに、関係者に聞いた話によると、現在、大相撲関係者は非常に厳しい対応が迫られており、外食・コンビニ・通院は全て控えるよう伝えられているとのことである。さらには、外部の者と会うのは論外というレベルまで求められているのだ。

大事なのは、無観客開催もしくは中止を主張するにしても、現在どのような状況で、ポジティブな要因とリスクが存在しているかを考慮することではないかと思う。

相撲協会に対して良いイメージが無いことは重々承知している。相撲ライターという立場でも、この点については返す言葉が無い。だが、イメージに引きずられてネガティブな意見を主張し、結果として、財政的に大相撲を追い込むことになるのは耐え難い。

初場所を開催すれば、その営業収入は10億円以上にのぼる。開催規模の縮小・中止となれば、それだけの大打撃をもたらすということも知っておいて欲しい。

もちろん利益を優先することによって関係者・観客を危険に晒す結果になってはいけないが、雰囲気で世論を誘導した結果、1200年にも及ぶ伝統文化が死に絶えてしまっては元も子もないと、強く思うのだ。

相撲協会の不出来と、初場所開催の是非は分けて考えるべきだと、私は言いたい。

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