小田急電鉄の新しい通勤型電車、5000形を評価 - デビューから約1年

小田急電鉄の新しい通勤型電車、5000形を評価 - デビューから約1年

  • マイナビニュース
  • 更新日:2021/02/22
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小田急電鉄の最新通勤型電車5000形が、2020年3月26日にデビューしてから約1年になる。2019年度に投入された10両編成1本に続き、2020年度に10両編成4本が新製され、快速急行、急行から各停まで幅広く運用されている。

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現在の主力車両である3000形が346両も在籍しているのに対し、5000形はまだ50両だけであるから、日常的な利用客にとって、あまりなじみがない電車かもしれない。しかし実際に見ると、なかなかインパクトのある外観をしている。

車体は一般的なステンレス無塗装だが、やはり前面の第一印象は強い。平面的な3000形などと比べて、シャープなラインが効いている。とくに前照灯と一体的に設けられた装飾灯が、新型車両であることをアピールしている。最後部の車両になると、ここが赤く光り、尾灯の代わりとなる。最前部でも白く光り、夜間などは遠方からでも5000形だとすぐにわかるのだ。

小田急電鉄の通勤型電車のエクステリアは、ステンレスもしくはクリーム色に青色の帯が標準。だが、5000形の場合、濃いめの太い青帯(インペリアルブルー)に薄めの細い青帯(アズールブルー)を添え、変化をつけている。大相撲の番付表などに見られる「子持ち罫」と同じ目立たせ方だ。見慣れていればこそ、かえって細かい違いが気になる、うまい演出だと思う。鉄道としてのアイデンティティは守りつつ、すれ違っただけでも「あれは他とは違う電車」とのイメージを与える。

最近の電車では、ホームドアで遮られるケースを考えて、側面の帯を窓の上部に配する例が見られる。東京メトロ丸ノ内線に投入された2000系が典型的な例であろう。しかし、小田急5000形の帯は窓の下。一方、車両番号とシンボルマークは、ホームドアが閉じていても見られる高い位置に入っている。地下鉄とは違い、走っている姿を沿線で見せることも重視しているものと見受けられる。
○■オレンジの座席にインパクトあり

5000形は8000形以来となる全幅2,900mmの拡幅車体を採用し、側面が直線状の3000形・4000形と比べて、かなり幅広に見える。可能な限り車内の空間を広げ、混雑を緩和する狙いがあるのだ。代々木上原~登戸間の複々線化が2018年に完成し、列車増発によって小田急小田原線のラッシュにゆとりを感じるようになったが、5000形の投入で、その効果をさらに広めようとしているのか。

インテリアは他の小田急電鉄の電車とは一線を画している。車内に入ってすぐに違いを感じさせる。まずポイントとしては、オレンジ色(ブラントオレンジ)のロングシートがある。活力を感じさせる色として採用されたそうだ。座席自体は、JR東日本のE235系などでも見られる、1席1席を区切って、背ずりと座面もセパレートになっているタイプだが、色ひとつで印象は大幅に変わる。

床面はフローリングのような木目調。本物の木材ではないが、オレンジ色の座席に「目を覚ます」効果があるとすれば、こちらはヒーリング効果。バランスを取っている。昭和40年代までは多くあった、床が木材の落ち着いた旧式車両を思い出す。

反面、吊り手の色が薄く、あまり目立たない点が気になった。これは座席と同じブラントオレンジを淡くした色だ。JR東日本の山手線用E235系などでは、非常ブレーキがかかった場合や、さらに大きな事故に直面した場合に備え、とっさにつかめるように吊り手を目立つ色とし、持ち手の形自体も大きくしている。小田急5000形も同様に、非常事態の際に吊り手を認識しやすいように、この色を採用したそうだ。日常的なインテリアとしての調和も考慮した結果と受け止めておこう。

○■広い空間を感じてもらう工夫

車体の幅が拡大され、車内空間が広くなったことを生かして、車内の凹凸は極力排し、より広々と感じる設計にしたという。空いている区間で車内を見渡してみても、従来の小田急電鉄の通勤型電車との違いは大きい。その効果をさらに高めているのが、強化ガラスの多用だ。

ロングシートの袖仕切りは、乗降扉の脇に立つ人との干渉を避けるために大型化する傾向があり、小田急5000形も同様。ただし、袖仕切りの約半分をガラスとして、車内の見通しを確保したところは、工夫された点であろう。

荷物棚も強化ガラス製。最近は使う人が減っていると言われる設備だが、ガラスだと座っていても自分の荷物を確認できるから良い。荷物が置かれていなければ、天井まで見通せ、広さを実感できる。

車両間の貫通扉もガラス。これは東京メトロ10000系あたりから始まった設備だが、隣の車両まで見通せ、かつ車両間を吹き抜ける風も防げる。これらにより、車体の特徴をさらに生かした空間作りが行われているわけである。

なお、貫通扉のガラス面にはシールなどで装飾を入れ、衝突防止としているが、5000形の場合はシンボルマークと四角い模様だけ。ここは沿線地域の文化を感じさせるもの、たとえば小田原提灯や江ノ島のイラストでも良かったのではないか。小田急といえば、終点(正確には乗り入れ先)の箱根のイメージが強い。途中区間のイメージアップの一助として、普段使いの通勤型電車で、ささやかながらでも掘り起こしをやると良いと思った。

強化ガラス製の設備はかなり高価で、コストを考えると採用したくても採用できなかった例があったと、関東のある大手私鉄で聞いた経験がある。それをふんだんに使ったわけで、最近の流行とはいえ、この電車にかける意気も感じた。
○■静かな走行音は小田急の「売り」

小田急電鉄は高架複々線化事業を推進する際、沿線の騒音問題と直面。訴訟も起こった。それもひとつのきっかけとして、「静かな電車」であることには、他社以上に心を砕いている。線路の下に敷くバラストも、小石のような騒音を吸収するタイプを多用。レールジョイント(接合部)のないロングレールとも相まって、複々線区間を3000形の急行などで走ると、音楽が実に聴きやすい。

5000形も、その静けさを受け継いでいる。新宿~唐木田間を急行で往復したが、音が最も気になったのが、ポイントの通過時であった。これはやむをえまい。加速時のモーター音はまったく耳障りにならず。高速走行中や減速時に、どこかから聞こえてきた金属的な音が少し気になった程度だった。

全般的に5000形は、これまでの小田急電鉄の通勤型電車とは異質な存在である感覚のほうが強かった。今後、量産されて旧型車を次第に置き換えてゆくであろうが、やはり「次の世代の電車」であると思わされた。

土屋武之 つちや たけゆき 1965年、大阪府豊中市生まれ。鉄道員だった祖父、伯父の影響や、阪急電鉄の線路近くに住んだ経験などから、幼少時より鉄道に興味を抱く。大阪大学では演劇学を専攻し劇作家・評論家の山崎正和氏に師事。芸術や評論を学ぶ。出版社勤務を経て1997年にフリーライターとして独立。2004年頃から鉄道を専門とするようになり、社会派鉄道雑誌「鉄道ジャーナル」のメイン記事を担当するなど、社会の公器としての鉄道を幅広く見つめ続けている。著書は『鉄道員になるには』(ぺりかん社)、『まるまる大阪環状線めぐり』(交通新聞社)、『きっぷのルール ハンドブック 増補改訂版』(実業之日本社)、『JR私鉄全線 地図でよくわかる 鉄道大百科』(JTBパブリッシング)、『ここがすごい! 東京メトロ - 実感できる驚きポイント』(交通新聞社)など この著者の記事一覧はこちら

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