アスベスト被害者の救済制度 「抜本改正」求めオンライン集会

アスベスト被害者の救済制度 「抜本改正」求めオンライン集会

  • アジアプレス・ネットワーク
  • 更新日:2021/10/14

アスベスト(石綿)に曝露して中皮腫などを発症した被害者に対する救済制度の抜本改正を求め、10月7日オンラインで集会が開催された。そこで指摘されたのは希少がん治療の現実や救済の格差が拡がる現状だ。(井部正之)

No image

中皮腫を含む希少がん治療の厳しい現状を語る国立がん研究センター中央病院の後藤悌医師

◆希少がん治療薬少ない理由とは?

患者や家族らでつくる「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」が主催したもので、国会議員や被害者、家族ら約80人が参加した。

集会ではまず2人の医師がアスベストを吸うことで発症する希少がんで、予後が悪いことで知られる中皮腫(肺や心臓などの膜にできるがん)の治療について講演した。国立がん研究センター中央病院の後藤悌医師は「希少がんの治療成績はほかのがんより悪い」とデータを示し、治療の選択肢が少ないことをその理由に挙げる。治療薬が「中皮腫は4つあるだけほかの希少がんに比べても多いほう」というのが希少がん治療の実状という。

後藤医師は中皮腫など希少がんの抗がん剤治療薬の種類が少ないことについて、「(肺がんなどに比べ)患者が少ないので製薬会社にとって投資に見合わないため世界的に研究が進まない」と説明する。一方で医師主導の進めるにも「承認申請用の臨床試験に数億円掛かる」など実施が困難という。

No image

中皮腫治療薬の使用時における限定条件撤廃を求める兵庫医科大学付属病院の長谷川誠紀医師

兵庫医科大学付属病院の長谷川誠紀医師は、「中皮腫治療薬の使用条件が限定されている。(治療薬の1つ)ニボルマブは最初に抗がん剤を使う人しか使えない。手術前・手術後の補助にも使えない。再発しないと使えない」と指摘。続けて「効きそうなのに使わせてもらえない。限定条件を撤廃して、みんなが使えるようにしていただきたい」と訴えた。

その後登壇した中皮腫患者で「家族の会」の右田孝雄さんは、「中皮腫で毎年1500人が亡くなっています。1日4人の計算です。(肺がんなどを含めると)アスベスト関連の患者さんはもっと亡くなっていることになります」と現状を話す。

現在の石綿健康被害救済法による救済制度では、申請時に亡くなっている場合、葬祭料と救済給付調整金で計約300万円の支給である。生存の場合、療養手当として約10万円(月額)のみ。認定後に死亡した場合、療養手当分が減額され、葬祭料約20万円しか支払われないこともある。

◆広がる救済の「すき間」と「格差」

これが労災の場合、休業補償は約230万円(給付差額日額8000円の場合)で療養手当の約2倍、通院費や介護補償のための給付もある。亡くなった場合にも遺族補償や就学援護費なども支給され、待遇に大きな差がある。

建設現場でアスベストを吸った労働者の場合、5月の最高裁判決に基づく新たな給付金制度が導入され、今後労災に加えて国の賠償金と同等の550万~1300万円が支払われることになる。国に賠償責任があるため当然なのだが、その結果、建設以外の被害者との間に「救済の格差が広がっている」という。

右田さんらが実施した中皮腫患者へのアンケート調査でも40~50歳代で家計収支が100万円以上減少し、生活が困窮している場合が多かったとして、「働き盛りの世代が所得が大きく減少している現状を如実に表しています」と指摘する。

しかも「すき間なき救済」を掲げて成立したはずの救済制度にもかかわらず、労災認定の時効(死後5年)により、のちにアスベストによる被害とわかっても認定されない事態が起きつつある。これまで「時効救済」として5年ごとの時限措置が講じられ、期限切れのたびに延長されたが2016年3月27日以降は対象外。すでに半年あまり救済の「すき間」が生じている。それ以前に亡くなった場合についても2022年3月27日以降は請求権がなくなってしまう。

一方、肺がんなどの認定基準が労災よりも厳しいなどの問題により、認定数が低く抑えられ、その結果救済のための基金が約800億円だぶついたことから原因企業などの拠出金が引き下げられているのだ。

こうした状況に触れつつ、右田さんは「我々のいのちはそんなに安くない」と述べ、「家族の会」の緊急提言として、(1)一律約10万円(月額)の療養手当などの見直し、(2)治療研究促進のための「石綿健康被害救済基金」の活用、(3)時効救済制度など関係制度の「請求権」延長──を挙げた。

国が「規制権限を適切に行使しなかった」として断罪されたのは今回の建設被害者の訴訟が2度目である。とくに今回国の違法期間は1972年から2004年までと長い。大阪・泉南地域の石綿紡織工場における労働者らが国を訴えた訴訟では1958年から1971年までが違法とされた。

◆「補償に近い制度」への転換必要

国賠訴訟では国の規制権限不行使が「著しく不合理」である場合に違法と判断される。若干の不合理では違法と認められない。つまり、工場における被害はもとより最大のアスベスト消費先である建材の使用に関連する被害について、1959~2004年まで国の規制権限不行使が違法と最高裁に認定されたのは、いずれも重大な規制の不備が存在したということだ。

アスベストによる健康被害は曝露から数十年後に起きるため、現在の被害者はほとんどが国の規制が不十分と認定された期間に吸わされた人びとである。

しかも日本に輸入されたアスベストの用途は約8割が建材である。その結果、現在でもアスベストによる労災認定の半数超である500人超を建設業が占める状態が続く。救済法の認定者は労災で認定されない労働者などがもっとも多く(当然建設業が多い)、それに次ぐのが原因のはっきりしない人びとだ。原因不明の曝露には、兵庫県尼崎市のクボタ旧工場周辺をはじめとする環境被害とみられる人びとも含む。

これまで国は救済法について「民事上の賠償責任とは離れた救済を行う」ものだとして、加害責任に基づく「補償」ではなく、あくまで「救済」だと強調してきた。しかし加害責任が次々国賠訴訟で確定している現状は制度制定時と大きく状況が異なる。紡織や建設といったアスベスト産業の中心における規制が「著しく不合理」だった以上、その周辺などにおける原因がはっきりしない被害者も含めた救済制度をより補償に近い仕組みに転換させるべきとの提言は専門家からも出されていることだ。

救済法は改正5年で見直すことが位置づけられており、今年がその期限だ。「家族の会」は国に対し、「早急に委員会を設置して検討すべき」と訴える。「救済」だからとの言い訳はもはや通用しない。

井部正之

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加