アーティストへの収益還元率100% 音楽配信仲介サービス「TuneCore」の快進撃

アーティストへの収益還元率100% 音楽配信仲介サービス「TuneCore」の快進撃

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2021/06/11
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今、音楽業界は大きな変貌を遂げつつある。

コロナ禍であらゆるエンターテイメント業が打撃を受ける中、配信音楽市場はその規模を着実に伸ばしている。日本レコード協会の発表によると、国内の2020年音楽配信売上の合計は783億円(前年比111%)。特にストリーミング配信は急速な拡大を続けている。

配信から誕生したヒット歌手の存在も記憶に新しい。2019年にリリースされた瑛人の「香水」はSNSを中心に人気を博し、2020年上半期には各種チャートを席巻した。

音楽事務所やレーベルに所属していないと楽曲を出せない時代から、アーティスト自らが楽曲を世界に配信できる時代へ──。これを可能にしたのが、アメリカ発のディストリビューション(音楽配信仲介)サービス「TuneCore」だ。

「日本のアーティストには世界を向いてほしい。そのためにも、アーティストがフェアに戦える土壌を提供したい」。TuneCore Japanの代表を務める野田威一郎はそう語る。

野田は、米国TuneCoreと自ら代表を務めるWanoとのジョイント・ベンチャーとして、2012年にTuneCore Japanを創業。日本でのサービスを開始した。わずかな手数料で配信の事務手続きを代行し、楽曲の原盤権譲渡は不要、配信の収益100%還元というこれまでにないアーティストファーストのサービスを展開。2020年度の収益還元額は71億円を突破した。

さらにこの3月には、中国の音楽配信市場に一早く参入。中国大手配信サービスTencentとNetEaseへの楽曲提供をスタートさせた。

CDから配信へという大きな変わり目を経て、これから音楽業界はどのように進化してくのか。TuneCore Japanが考える音楽の未来について、野田に語ってもらった。

──配信から生まれた瑛人さんの大ヒットなど、最近の音楽業界の変化を野田さんはどのように見ていますか?

最近、瑛人さんのようなインディペンデントなアーティストが、次々とヒットチャートの上位に入ってきています。これは音楽業界が「動いた」ことを示す、象徴的な出来事なのではないかと思います。

CD売り上げがピークだったのは1999年ころ。それから現在までの約20年間は、オリコンランキングの上位は一部のアーティストの楽曲でほとんど固定化されていました。ヒットするジャンルや担い手が凝り固まっていたんです。

健全な産業の場合には、常に新しい風が入ってきて、イノベーションが起きて、また新しい動きが生まれていくはずなのに、長い間ほとんど入れ替わりが起こらなかった。インディペンデントや新人のアーティストが世に出にくい状態が長い間続いていました。

それがここにきて大きく動いている。TuneCore Japanを設立してから8年以上が経過した今、配信という仕組みが普及し、定着し、みんなの「当たり前」になったんだなと改めて感じています。

──日本において、CD主体から楽曲配信にシフトするまでには、どんな段階があったのでしょうか?

やはり一夜にして変化したというわけではなく、徐々にCDから配信へと段階的にシフトしていきました。

日本国内でiPhoneなどのスマートフォンが登場したのが2010年頃。当時は楽曲のダウンロードサービスや着メロ配信をするサービスはいくつかありましたが、CDが強かったのでなかなか移行が進みませんでした。

僕らが会社を設立した2012年になると、海外ではストリーミング(逐次再生の聴き放題)に徐々に移行していきましたが、日本はまだCDやダウンロードが主流。プラットフォームも少なくて、アーティストが楽曲を配信できたのは、iTunesやAmazon Musicくらいでした。

そして、「ストリーミング元年」と言われるのが2015、16年あたり。AWAやLINE MUSICなどが登場して、日本でも聴き放題サービスが本格的に普及し始め、2017年頃からはユーザー数も急速に拡大しました。僕らは2018年頃を「ストリーミング成長期」と捉えていて、TuneCore Japanというサービスへの手応えもこのあたりのタイミングで大きく変わったと感じます。

SNSを通じてアーティストや楽曲を知った視聴者が、ストリーミングサービスで検索して曲を聴く。その収益がアーティストにもきちんと還元される。ストリーミングサービスのユーザーの分母が増えて、こういった新しい仕組みがやっと機能し始めたのは、実はここ3年くらいのことなんです。

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──アーティスト側から見た場合、配信が主流になることによる変化はどのようなものがありますか?

配信が主流になっても、いきなりアーティストが直接iTunesなどに楽曲提供できるようになるわけではありません。ほとんどの配信ストアでは、アーティスト個人が直接、配信契約を結ぶことはできないんですよ。アーティストは、音楽事務所やレーベルを介さなければ、楽曲配信できない仕組みになっています。

つまり、ライブをやって、業界の誰かの目に止まって、事務所に所属して……という、売れるためのゲートをくぐり抜けたごくわずかな「選ばれたアーティスト」だけが、メジャーなプラットフォームを使える仕組みだった。それを変えるために始めたのが、アーティストの代わりに配信手続きを行うTuneCore Japanというサービスです。

僕はよく「音楽配信の民主化」という言葉を使うのですが、世界中の誰もが自分の楽曲を配信できるようにしたいと考えているんです。才能あるインディペンデントのアーティストたちが、メジャーアーティストと言われる人たちと同じ土俵で楽曲を配信し、正当な利益を受けることができる、そんな世の中を目指してやってきました。

さらに、楽曲の原盤権を譲渡しなければならない事務所やレーベルが多いなか、TuneCore Japanでは、原盤譲渡不要、配信収益の100%還元できるように最初から設計しています。

それでも、2012年の開始当初は「配信じゃ儲からない」と言われていました。ストリーミングの市場規模が小さかった頃は苦戦もしましたが、独立精神が旺盛なアーティストはすぐ使い始めてくれたんです。楽曲に自信のあるアーティストだったら、絶対に僕らのサービスを使ってくれるはずだという期待はありました。

それから9年たった今では、配信収益の還元額は、2020年度で71億円、累計だと171億円になりました。瑛人さんや川崎鷹也さん、Tani Yuukiさんなど、TuneCore Japanを使ってたくさんのアーティストが、みなさんを感動させている。新しい「売れ方」で、世に認められるアーティストが、まだまだたくさん出てきてほしいなと思っています。

──「音楽配信の民主化」を通じて、どのようなことを実現させたいと考えているのでしょうか?

世界中の人たちに日本のアーティストがつくった楽曲を届けることを目指しています。ここで僕が言う「届ける」は、「普通になる」ということ。文化を届けて浸透させることが最終ゴールだと思っています。

日本の音楽を世界の人が聞いても「何これ」って思うのではなくて、K-POPみたいに、日本の曲が日本以外の国のレストランで流れていても、それが当たり前になってほしい。

これを実現させるためには、まずアーティスト自身が世界を向く必要がありますよね。そして、それを可能にする環境をつくるためには、大前提として、アーティストがフェアに戦える土壌を用意するのが先。透明性を見せるという点においても、僕らのサービスが果たせる役割が重要になると思っています。

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野田威一郎氏

──3月から中国大手配信サービスTencentとNetEaseへの楽曲提供もスタートしました。その狙いと、今後の展望について教えてください。

中国の音楽配信市場は、今急速に伸びています。音楽配信市場としては、昨年で世界第7位、ストリーミングの売上げを見ると日本(5位)を抜いて世界4位。世界に届けるという僕たちの目標を達成するためにも、非常に重要な地域だと考えています。

中国では、iTunesやApple Musicなどのプラットフォームを使える人はごく少数で、ほとんどの方たちがTencentやNetEaseが運営するローカルの配信サービスを利用しています。2015年ころまでは、いわゆる海賊版のような違法配信も多い状況でした。

僕らがTencentやNetEaseが運営するプラットフォームに楽曲提供をスタートしたことで、日本のアーティストの曲が正式な権利を持った曲として、中国のみなさんに聞いてもらえるようになった。そう言う意味で、今回の参入の意義は大きいと思っています。

この中国市場への参入をきっかけに、多くの国へアプローチしていきたいですね。

それと同時に、よりアーティストが使いやすく、ニーズに対応したサービスに進化させていきたい。

最近声が高まっているのが、プロモーションに対するサポートへの期待です。曲を配信できるようになれば、ファン層を広げていきたいと考えるのは当たり前のことですので、そのお手伝いも叶えられたら。

日本のアーティストが世界に活躍の場を広げ、さらにその収益をきっちりアーティストに還元する。世界で活躍するアーティストが継続的に活動するためのサポートを続けていきたいと思っています。

野田威一郎(のだ・いいちろう)◎1979年東京生まれ。慶應義塾大学卒。アドウェイズに入社し、メディアディビジョンマネージャーとして上場を経験。2008年に独立し、インターネットサービスでクリエイターを支援するWanoを設立。2012年にTuneCore Japanを立ち上げ、サービスを開始。

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