あと1週間で夫婦生活が終わる。最後に、男が女に渡したモノとは...

あと1週間で夫婦生活が終わる。最後に、男が女に渡したモノとは...

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  • 更新日:2020/08/07

結婚相手を見つけるのは、決して容易なことではないだろう。

仮に運良く生涯のパートナーに出会えても、結婚生活が常に平和とは限らない。他人同士が夫婦になるのだから。

だけどもしも、AIがあなたにぴったりの相手を選んでくれたなら…?

ここは、2030年の東京。深刻化する少子化の打開策として、なんと政府は「お試し結婚制度」の導入をした。

3ヶ月間という期間限定で、見ず知らずの男と「お試し夫婦」生活を送ることになった真帆の運命は…?

◆これまでのあらすじ

健吾に「元カノとヨリを戻していい」と心にもないことを言ってしまった真帆。お試し夫婦の期限が迫っている。果たして二人の結末は…

▶前回:「他の女と会って、妻を不安にさせる男なんて…」夜23時、女が耐えきれずに取った行動とは

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健吾とお試し夫婦生活を始めて、来週でちょうど3ヶ月が経つ。

このまま仲良くなれると思った温泉デート。その直後に元カノが現れて、わかりやすく邪魔をされた。

あんなふうに同性に詰められたことがないから、ダメージが大きい。

もし、私たちの関係がこのまま平行線だったとしたら、結婚ではなく、お試し夫婦終了という結果が待っているだろう。

元カノの唯香とヨリを戻していいよ、と言ったのは私だ。

それなのに、健吾はこうやって仕事が何時に終わるかわからない私を駅で待っててくれた。

「やっぱり、もうこんな時間だし何か買って帰ろうか」

成城石井に入ったものの、お惣菜が目に入り健吾はそう言った。

「うん。私この、キャロットラペとチーズとワインがあれば満足」

「え!それ、僕も好物だ。野菜不足の時は『CRISP SALAD WORKS』のサラダか、ここのキャロットラペ頼り」

「私も好き。ヒップスターが」
「いつも、ヒップスターを」

ーあ、また。

お互いの目を見て驚いた後、同時に微笑む。

私は、この瞬間が大好きだ。同じ種類のサラダが好きだというだけで、バカみたいに運命を感じてしまう。

「もう〜、怖い怖い」

健吾は笑いながらカゴに総菜を入れていく。ただの買い物なのに、新鮮で特別で楽しい。

健吾は、わかっているのだろうか。来週には、このお試し夫婦期間が終了して、離れて暮らすか婚姻届を出すかのニ択になることを。

「真帆さん、今まで本当にありがとう」

会計を終え、帰路の途中にポツリと健吾が言う。

私は、その言葉の意味をこの時理解していなかった。

「今までありがとう」と告げた健吾。その言葉の本当の意味とは…?

翌朝、国から送られてきた婚姻届を広げてみる。

有名なイラストレーターがデザインしたそれは、お試し結婚専用のようだ。

私は、ほぼ無意識でペンを取り、"妻になる人"の欄に自分の名前を記入していた。そして、専用の封筒にそっとしまう。

「真帆さん、おはよう」

絶妙なタイミングで、健吾がリビングにやってきた。

「おはよう!あのね、これ作ってみたの。私、料理上手くないから味は保証できないけど...」

人生で数えるくらいしか作ったことのない、お弁当を差し出す。

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私なりの健吾へのお礼のつもりだった。

フミヤに振られて衝動的に申請したお試し結婚だったが、人とこんなに真剣に向き合ったことはなかった。

たしかに、健吾はAIが選んだ相手だ。

ロマンチックな出会いとはかけ離れている。政府の少子化対策の施策の一部なのだから。

だけどそんなのどうでもいいくらいに、私は少しずつ健吾のことが好きになっていた。

気が合うだけじゃない。

仕事で落ち込んだ夜は、晩酌に付き合ってくれたり、料理が苦手な私の代わりに、家で食べる時はほとんど手料理を振る舞ってくれた。

プライベートは干渉しないという約束だったのに、結局は気になって、それが原因で衝突したこともあった。

そんなことを全てひっくるめても、健吾には感謝しかない。これは、そのお礼なのだ。

「え!大変だったでしょう。何時に起きたの?嬉しい…」

健吾は、決して上出来とは言えないお弁当を素直に喜んでくれた。

そして、こう続けたのだ。

「それと...唯香とのことだけど、本当に申し訳ない。できれば早く解決したいから、今日の夜、時間作れるかな」

「うん。じゃあ仕事終わったら連絡するね。って、もうこんな時間だ。先に出るね!」

朝イチの会議を思い出し、行ってきますの挨拶もそこそこに、急いで靴を履いて家を飛び出した。

『今夜の待ち合わせの場所、家の近くの店を予約しておいたよ』

ー!!!

健吾からの連絡に、驚愕して声を上げそうになった。震える指で店のリンクをタップし、頭を抱える。

仕事が終わり、地図を見ずに辿り着いた店には、健吾と唯香がすでに来ていた。

そして、もう一人も会話に参加していた。客ではなく、店主が。

「フミヤ...」

そう、ここは彼の店なのだ。どういう経緯で会話に加わったのかはわからない。だが、フミヤは健吾に容赦なく詰め寄っていた。

「僕、聞きましたよ。あなたが元カノと一晩過ごしたって。お試し婚してる身で、そういうことするのって、どうなんすかね」

「ちょっと...フミヤ」

思わず駆け寄って止めようとするが、それより先に健吾が堂々と言い返す。

「あの日は、唯香が落ち着くまでバーで話して、かなり遅い時間になったから、そのあとは会社近くのビジネスホテルに泊まったんだよ。もちろん一人で」

気の強い唯香が何も言わず俯いているということは、きっと事実だ。それにほっとしている自分がいる。

「僕と真帆さんは、あなたと会う前から仲良くしてました」
「そうなの。前に住んでたマンションのお隣さんで...」

事情を説明しようと、私はすかさずフミヤの言葉にかぶせる。だがフミヤは話すのをやめなかった。

「僕が、真帆さんもらっちゃいますよ?」

「ちょ、ちょっと待って。私はフミヤと付き合えないよ」

慌てて本音を言ってしまった。フミヤは数秒間の沈黙の後で、苦笑しながら頭をかいている。

「…ですよね。すぐに返事もらえなかったんで、本当は気づいてました。あーあ、フラれちゃったか」

すると、唯香が怖い顔をして声を荒げた。

「ちょっと、すぐ引き下がらないでよ!あなたが真帆さんと付き合ってくれたら、丸く収まるでしょう?」

健吾と真帆の「お試し」期間がいよいよ終わりを告げる。そして二人が出した結論は…

「勝手なこと言うなよ」
「勝手なこと言わないで」

まただ。示し合せたように、健吾と私の声が重なる。

「ちょっと、そろそろ僕に話させてもらえますか?」

健吾が落ちついた声で、仕切り直した。

「まず、唯香…。どんな理由があっても音信不通にするなんて、最低なことをしたと思っている。本当にすまない。だけど、もう君に恋愛感情はないし、やり直すつもりはないんだよ」

「そんな...」

「付き合っている時は真剣に将来を考えていたし、今回も誠実な対応をしようと思った。だけど、それが結果的に大事な人を傷つけてしまった」

ー大事な人...それって、もしかして。

胸の奥がキュっと締めつけられる。

「真帆さん、ここで僕たちのことを話す必要はないから、帰ろう」

健吾が強引に手を引き、私を外へ連れ出した。そして、そのままスタスタと無言で歩き出す。

しばらくそのまま歩いていたが、健吾は何かを話す様子もない。

「ちょっと健吾さん...健吾さんってば。っ健吾!」

思わず呼び捨てにする。

「あ、ごめん。普通に緊張して歩き続けてしまった」

「緊張?」

健吾はジャケットのポケットから、見覚えのある封筒を取り出す。あれは、今朝慌ててテーブルの上に置きっぱなしにしてきてしまった婚姻届だ。

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「ねぇ、真帆さん。唯香とヨリ戻していいよって言ったの、あれ嘘だよね?」

「はい...心にもないことを言いました…」

今度は、正直に答えた。すると健吾は安心したようにため息をついてから、婚姻届を広げた。

"夫になる人"の欄に、健吾の名前が書き足してある。

「え!?これって...」

「恋愛結婚する気がないとか、偉そうなこと言ってたけど、気づいたら真帆さんのことがすごく大きな存在になってた。

お風呂上がりの無防備な姿とか直視できなかったし、いつからかわからないけど、好きになってました」

健吾の突然の告白。私もそれに応えるように、言葉を選びながら素直な思いを口にする。

「私も、言おうと思ってた。気づいたら、そばにいて欲しい存在になってて...」

口から心臓が飛び出しそうなほど、ドキドキしている。

「健吾さんが好きです」

これが恋だというのなら、今までのは違ったのかもしれない。そんなふうに思える程に。

「3ヶ月で決めるのって無理だろって思ってたけど、たぶん半年後も1年後も同じ気持ちだと思うんだ」

真面目で慎重な健吾が、男らしく覚悟を決めてくれた。

「だから、正式に夫婦になりましょう。結婚してください」

「...はい」

公園のベンチで、足が浮くような感覚に陥った。

短い間に心が掻き乱され、それでもやっぱり健吾のことが好きだと気が付いた。

でも今朝までは、自信がなかった。この生活は幕を閉じると思っていた。

国がお膳立てしてくれた出会いだ。ロマンチックではないかもしれない。

だけど、私は健吾が好きだ。

それで十分。

健吾は私を優しく抱きしめる。胸に顔を埋めると、初めてのことなのになんだか懐かしい匂いがした。

Fin.

▶前回:「他の女と会って、妻を不安にさせる男なんて…」夜23時、女が耐えきれずに取った行動とは

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