
初めての小説『むき出し』が話題の兼近大樹さん。チャラ男キャラで知られるが、意外にも読書好き。芸人になってから読んだ同業者のエッセイの中でも、先輩であるブラックマヨネーズ・吉田敬さんの本をよく開くという。
「レギュラー番組が一緒になったので、吉田さんの本を読み直したいなと思っていたら、新しくこれが出ていたので買ったんです。そしたらもう、オモロくて。前作エッセイからの10年間の間にたぶんいろんなことがあったからか、面白さも文章力もすげぇ育ってるなと感じましたね。先輩ですけど(笑)、これはエグいぞと。
実は吉田さんのことめちゃくちゃ好きなんですが、あの人のキャラ的にも好き好き言いにくいんですよ。陰気な感じがして(笑)」
『黒いマヨネーズ』
共演する『ホンマでっか⁉TV』では、横並びに座ってその姿を見ている。この本には、そんな兼近さんならではの特殊な再読の楽しみ方があった。
「吉田さんってエッセイで書いたキラーワードを、番組でも使ったりするんです。だから、“あ、これなんか知ってる!”ってワードが出てきたら、帰ってから本を開いて答え合わせしています。ちょっとニュアンスわかりやすく話してますやん!みたいに(笑)」

本に惹かれる理由は、「笑い」と直結している。ただ、「共感するところは意外とないかな」と、兼近さん。
「日頃から自分をさらけ出している人だから、本の中でもやっぱり、今の時代にそぐわないこともバンバン書く。でもこの人だから、成立しているというか。コイツ変なこと言ってるわ、そんなわけないじゃん、と思って読んでます(笑)。
吉田さんの本には“怒り”が多い。笑わせてやるぜ、ってサービスじゃない気がするんですよ。本当はそうだったとしても、そこが透けていないのが、強くてオモロいんですよね」
中でも印象に残ったのは、長く同居していた祖母に名前を忘れられ、泣きながらブチ切れて以来、疎遠になってしまったエピソードだという。祖母がそれを気にしながら死んでいったことを、吉田さんは後に知る。
「面白さと感動のいい感じの喜劇。これが作り話でないのが刺さりましたね。ところで前に何かの番組で、俺はしゃべらなくても番組が盛り上がってたら振られるまで前に出ずに終わることがあるって話したことがあったんですが、その時に吉田さんがめちゃくちゃ頷きながら“わかるわ〜”って言ってて。
あんだけオモロいことバンバン差し込んどいてわかるんかい!と。どれだけオモロいことを秘めて我慢してるのか、底知れなさに震え上がりました」
このエッセイには、そんな底知れない「オモロさ」が、より深く、細かく、叩きつけられているのかもしれない。
「俺がエッセイを書くとしたら、『ピンクのケチャップ』ですかね(笑)。でも、この本読むとオモロすぎてやる気が失せるんだよなぁ〜(笑)」
Information

『黒いマヨネーズ』吉田敬/著
時に怒り、時に涙しながら、世に吠える58編のエッセイを収録。ギャンブル、酒、エロ、日常と妄想が縦横無尽に綴られる。前作エッセイから10年後となる2019年の作。幻冬舎よしもと文庫/¥737(写真は単行本)。
profile
兼近大樹(お笑い芸人)
かねちか・だいき/1991年北海道生まれ。お笑いコンビ〈EXIT〉として活動。『霜降りミキXIT』などに出演中。2021年10月、上京して芸人となった主人公・石山の過去を辿る初の小説作品『むき出し』を発表。
twitter:@kanechi_monster
Photo: Kazuharu Igarashi / Text: Asuka Ochi / Styling: Sayuri Yahaba / Hair&make: Maaya Togashi (Ari·gate)
No.953 掲載

百読本
2021年12月15日 発売
100回読みたい本、ありますか?多種多様な本を何冊も読むこともいいですが、お気に入りの1冊を何度も読むという読書の楽しみ方もあるはず。年末恒例の BRUTUSの本特集。テーマは「百読本」。フワちゃん、平野啓一郎、神田伯山、兼近大樹(EXIT)、岸本佐知子、藤岡弘、 総勢......22名の著名人に、ことあるごとに読み返し、人生をともに歩んできたとっておきの本の話を聞きました。他にも、何度も読める絵本やビジネス書の構造分析や、翻訳の違いで楽しむ海外文学の名著案内など、ジャンルごとのコンテンツも。今年は“深めて濃くする読書”を提案する本特集です。
BRUTUS編集部