【特集・SAKESTAY】井川直子さんが巡るイタリアンと日本酒ペアリングの旅/群馬県・川場村

【特集・SAKESTAY】井川直子さんが巡るイタリアンと日本酒ペアリングの旅/群馬県・川場村

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  • 更新日:2023/01/25
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北群馬の食材を、それらがはぐくまれた水と、山の薪木による炎で作りあげるイタリア料理店「ヴェンティノーヴェ」。同じく土地の米と水、麹だけで醸される「土田酒造」の日本酒。つまり、すべてが風土の食卓。

関東ローカルの里山は イタリア・トスカーナだった

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群馬・川場村のイタリア料理店「VENTINOVE」。夕方早めから食事を始めると、ダイナミックな窓の外に刻々と暮れゆく空の色、広葉樹や針葉樹が混じる山の表情まで味わえる

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たとえ遠くへ行かなくても、観光名所や大自然などなくても、心動かす食とお酒があれば旅になる。いや、私にとってそのセットはむしろ、なくてはならない旅の動機だ。

12月。群馬県は川場村という、予備知識ゼロの村へと向かったのも、そこにイタリア料理と日本酒が、「ヴェンティノーヴェ」と「土田酒造」があるからだった。

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沼田市の職人によるテーブルと椅子に、イタリア現代作家の照明が調和する。春は山桜、夏は新緑、秋は紅葉、冬は雪景色も楽しみだが、葉の落ちた枝々が作り出す造形も美しい。全16 席、個室あり

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かつて東京・西荻窪で9年。トスカーナの精肉店でも修業したオーナーシェフ・竹内悠介さんの肉料理や手打ちパスタ、妻・舞さんのふわりと心和む接客で愛された「トラットリア29」が、建物解体のため2020年に閉店。

昨年10月、夫妻はシェフの故郷で、新たにB&B付きのリストランテ「ヴェンティノーヴェ」を建てたのだ。

そこが、日本酒蔵の敷地だった。地元の縁で出会った土地だと言うけれど、「土田酒造」と言えば全量純米、全量生?(きもと)に振り切った酒造りで話題の蔵である。

シェフの料理は、川場村でどう変わったのだろう。「土田酒造」の日本酒がイタリア料理と出会ったら、どんな化学反応が起きるのか。上越新幹線に乗る理由は、これで十分。

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建物の設計は建築家・布施茂さん。ジュエリーデザインの仕事も持つ舞さんの、美大時代の恩師でもある。ソリッドでありながら里山に溶け込む佇まいは、リストランテへと向かうアプローチから期待を高めてくれる。最初は雑草の生い茂る荒れた土地だったが、これから建物周りの風景も再生させていく

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東京駅から約1時間、小さなコーヒーを飲みきった頃に上毛高原駅へ着く。川場村はさらに車で30分。

目の前に見える谷川岳の向こう側はもう新潟で、連日大雪らしいけど、群馬側は拍子抜けするくらい暖かい。

「土田酒造」は仏閣にも似た造りの、大きな蔵だった。脇から伸びる遊歩道の緩いカーブをたどるうち、冬の澄んだ空気が胸に満ちていく。

高い空、やわらかなすすき野原。里山の風景の中、モダンな一軒家の「ヴェンティノーヴェ」は、薪の焼ける匂いを纏って佇んでいた。

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竹内シェフは東京のイタリア料理店を経て渡伊。エミリア= ロマーニャ、マルケ、トスカーナで約3年半修業。帰国後は青森「ダ・サスィーノ」でも働き、2011年に独立した

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薪ストーブの暖かなフロアで迎えてくれる竹内夫妻は、西荻窪時代と変わらぬ穏やかさ。変わったのは、それ以外のすべてだ。

テーブルから山の中腹へとつながるような、圧倒的な開放感。オープンキッチンのシェフは山の木が生む熱と炎で料理を作る。石の窯と、そして竈(かまど)である。

「今夜の食材はこんな感じです」

カウンターに並んだ食材を見て、一瞬、トスカーナかと思った。推定8キロをゆうに超えようかというビステッカ(骨付きのサーロイン)、大きなトピナンブール(菊芋)、ロマネスコやカーボロネロまである。

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薪火のやわらかな熱で温めるように焼き、炎で仕上げる

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キャベツとネギと蒟蒻しか思い浮かばなかった私は、群馬に謝らなければならない。チーズも、パンやパスタに使う小麦粉まで地元でまかなえるとは。

イタリアのポルチーニだって羨ましくないほど、そこの山を歩けば香り立つ茸が採れるのだ。

ただしワインだけは群馬で見つからずイタリア産。だが、その代わり地元のシードルもあるし、なによりお隣「土田酒造」で造りたての日本酒がよりどりみどりなのである。

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上/平飼い有精卵と地粉、リコッタチーズを合わせた“裸のラビオリ”ニューディ。白麹由来の爽やかな「Tsuchida 12」は、ケールの苦みやビーツの土っぽい香りを引き立てる下/地元のターメリックを練り込んだキタッラ。花びら茸などいろいろな茸と自家製サルシッチャ、ドライトマトのソースで

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前菜のニューディは、ラビオリの中身に、深煎り落花生の香ばしさ、有機栽培ビーツの土っぽい香り、ケールの苦みが重なる1皿。

舞さんが合わせてくれたのは、キリリと冷えた「Tsuchida12」。なんというみずみずしい酸! ワインと同じ12度の軽さは体に楽ちん、それでいて生?原酒ならではのコクも味わえるちょうどよさ。

野菜の個性的な味や香りが、いっそう生き生きと迫ってくる。地元産ターメリックを使った手打ちパスタ、キタッラのスパイシーな香りには3年熟成の「カン・ツチダ」。

50℃の燗は独特の熟成香を放ち、ターメリックの香りとおもしろいほど仲よくなった。ぬる燗になると、今度は丸いうまみがスパイスを包み込むようだ。

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赤城牛のビステッカは、米を削らずに米の味を引き出した「シン・ツチダ」と。赤身の力強いうまみも受け止める包容力

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しかし肉料理にはどうだろう? ビステッカの赤城牛は、日本では珍しい一貫肥育。「ヴィンティノーヴェ」では食べたい分量を自己申告すると、シェフが塊肉から切り分け、薪火で焼きあげる。

育ちから料理まで手塩にかけられた赤身肉の、深い滋味よ。これはさすがに赤ワイン? と思いきや、米を90%も残した「シン・ツチダ」はそのうまみを存分に湛えた厚み、ふくよかな酸で肉を迎えたのだった。

合う、と言うより、呼応するような痛快さ。これまでの日本酒は、特有の糖度と高アルコールが、西洋の食中酒としてはハードルになっていた。

海外では食後酒だと誤解されることもあったほどだが、「土田酒造」の日本酒に、そのイメージは完全にない。

「杜氏と一緒に、料理とお酒の関係を作っていくことがここならできます。僕らにとっても刺激になる」

少量ずつ仕込み、さまざまな日本酒にチャレンジする酒蔵だから、仕込む酒も変われば、シェフの料理も、ペアリングも変化していくだろう。

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上/夫妻のセンスが心地いい部屋は1室、4名まで。浴室はシャワーだが「川場村は温泉だらけなので、ぜひ」下/朝食もシェフが作り、舞さんがもてなしてくれる。フルコースの翌朝には、優しいお粥が嬉しい。おかずは野菜のくたくた煮や豚肩ロースのアリスタといった家庭的なイタリア料理と、シェフのお母様お手製、郷土漬物など

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さあ、動けないほど食べて飲んでも、ベッドは2階だ。ゴロンと寝転べば、冴え冴えと輝く星が見えるというおまけも付いてきた。

明日の朝食は軽めのお粥だそうだから、お昼は地元の蕎麦にしようか。いや、地粉のうどんもいいし、もつ煮込みも名物らしいぞ。などと帰り道のごはんを妄想しながら、おやすみなさい。

VENTINOVE

ヴェンティノーヴェ
TEL/非公開
住所/群馬県利根郡川場村谷地2593-1(土田酒造敷地内)
営業時間/15:00~19:00LO
定休日/月、火
コース11000円~、宿泊(夕・朝食付き)35000円~ 予約はHPより

【Column】VENTINOVEで飲み比べも!生?造りの土田酒造

「土地」というアイデンティティを、多様に表現

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右から、代々の銘柄「誉国光 白ラベル生?」(1580 円)、古きよき生?をモダンに表現した「土田生?」(1850 円)、新しい土田酒造の顔「シン・ツチダ」(1900 円)、自然栽培米の「Tsuchida 壌」(5500円)

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蔵の一角に、「ぐんまの米」と書かれた米袋が積まれていた。地元の酒米ではなく飯米、ごはんのお米だ。特級や銘柄ではなく、自分たちの土地の米を、土地の水で醸す。米の個性を丸ごと受け入れる。自然の在るがままを表現する、というその思想は、ナチュラルワインにも通じる。

土田酒造は1907年創業。今年で116年を迎えた酒蔵だが、かつては日本の大多数の酒蔵と同じ、大量生産の日本酒だった。酒造りの変革を始めたのは、6代目の土田祐士さんが蔵元となった2007年からだ。ちょうど前年入社、2012年には27歳の若さで杜氏に就任した星野元希(げんき)さんとともに、自分たちがうまいと思う酒を目指した。

現在ではすべて純米、無添加。法律で認可されている乳酸までも加えないのは、決して当たり前のことじゃない。材料は米・米麹・水・酵母。古式の生?造りでは、蔵に棲む酵母など菌や微生物の力で醸す。そのスペックを基本に、例えばタイ米由来の中長粒米を採用した酒、90%精白という“磨かない”玄い米を溶かしきる酒など、彼らはあらゆる挑戦を次々と仕掛けるのである。

「何度も失敗しますが、でも悪いことじゃない。失敗して初めて、理由や仕組みがちゃんと腹に落ちるから」今期から始まった挑戦は、木桶造り。吉野杉ではなく、やはり地元の杉で組んだ木桶だ。林業に力を注ぐ川場村の村長が、酒樽に適した杉材を探し出したという。新たな課題は、彼らにとって「楽しみ」らしい。

土田酒造
つちだしゅぞう
TEL.0278-52-3670
住所/群馬県利根郡川場村川場湯原2691
営業時間/10:00?16:00(最終入館15:30)
定休日/木
蔵見学あり。併設のショップでは試飲、購入が可能。黒粕ソフトクリームも評判

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