「何かを決める集団には多様性が必要 問題解決能力の低い政府が生まれるわけ」ブレイディみかこ

「何かを決める集団には多様性が必要 問題解決能力の低い政府が生まれるわけ」ブレイディみかこ

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  • 更新日:2023/11/21
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作家、コラムニスト/ブレイディみかこ

英国在住の作家・コラムニスト、ブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。

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中東情勢に注目が集まる今、英国内で粛々と続いているものがある。英政府の新型コロナウイルス対策に関する独立調査委員会だ。当コラムでその公聴会について「しつこい」と7月に書いたが、あれからもコロナ禍当時の閣僚や官僚が続々と呼び出され、責任を追及されている。

先日、元内閣副官房長のヘレン・マクナマラが、女性官僚が「突如として目に見えない存在にされた」という当時の首相官邸のムードについて暴露した。会議では、彼女が何か喋っていても割り込まれたり、無視されたりしたという。そのために、ロックダウン中のDV被害者への対策や、医療関係者用の個人防護具のサイズが女性には大きすぎる懸念、妊婦のケアや出産時の不必要な制限のルールなど、特定の課題が見過ごされたと主張した。子どもの学校の保護者たちとSNSで繋がっていた彼女は、政府と一般の人々のずれを感じていたという。

会議のテーブルにつくのが男性ばかりになれば、女性の視点が含まれなくなり、見過ごされる問題が増える。女性の意見が重要なのは、男性と女性の脳が違うからではなく、経験に基づく「気づき」が違うからだ。

米国のテッパー・スクール・オブ・ビジネスの教授が率いた研究では、ある集団の問題解決能力は、その集団に属する個人のIQよりも、その集団に何人の女性が含まれているかに関係しているという結果が出ている。いくら個々人の頭脳が優れていても、似たような経験しかしたことがなければ、同じような課題や解決策しか思いつかない。

何かを決める集団には多様性が必要なのだ。これは、単にいろいろな層の代表が含まれないと公平ではないという人権上の問題だけでなく、多様性がないと集団の問題解決能力が落ちるというシビアな事実を含む。パンデミックなどの一大事では、政府は問題解決能力を最大限に発揮せねばならないのに、均一な集団では能力が劣化する。

閣僚写真に同年代の男性がずらり並ぶ国もある。前述の調査に則れば、それは問題解決能力の低い政府だ。戦争、物価高と一大事が続く時代、政府の多様性はサバイバルの条件として捉えられるべきだ。

ブレイディみかこ(Brady Mikako)/1965年福岡県生まれ。作家、コラムニスト。96年からイギリス・ブライトンに在住。著書に『子どもたちの階級闘争』『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』『他者の靴を履く』『両手にトカレフ』『オンガクハ、セイジデアル』など

AERA2023年11月27日号

ブレイディみかこ

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