高い買い物ほど「直感で」決めたほうがいい理由

高い買い物ほど「直感で」決めたほうがいい理由

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2022/05/14
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高い買い物をするときには、あまり悩まず、直感的に自分がピンときたものをそのまま選んだほうがよいそうです。それはなぜでしょうか? (写真:buritora/PIXTA)

心理学という学問の研究対象は、私たち人間です。
心理学で明らかにされている法則や公式のようなものは、身近なケースとして「ああ、そういうことってよくあるよな」「なるほど、だから私はよく間違いをしちゃうのか」と、体験的に理解できるものが少なくありません。
『人と社会の本質をつかむ 心理学』は、そんな心理学の基礎から発展までを学べる1冊です。本稿では同書より一部を抜粋しお届けします。

災害時にパニックが起きるときと、起きないとき

自然災害や大事故が起きたとき、その場に居合わせる人たちは、みなパニックになってしまうと考えられています。

けれども、実際には、そんなにパニックは起きません。災害に巻き込まれても、わりと理性的で、冷静に行動するようです。

アメリカで同時多発テロ事件が起きたとき、旅客機が突っ込んだ世界貿易センタービル内部で働く人たちは、あまりパニックを起こさなかったと言われています。静かに列を作って非常階段を粛々と降りていったという証言もあります。

では、どういうときにパニックが起きるのかというと、どれくらい時間的に切羽詰まっているか、ということが関係しています。時間的に余裕があると、人は落ち着いていられるのです。

スイスにあるチューリッヒ大学のブルーノ・フレイは、歴史上、最悪の海難事故と言われているタイタニック号と、ルシタニア号での事故を比較しています。

タイタニック号は、1912年4月14日に沈没し、1517名の死者を出しました。ルシタニア号は、1915年5月7日に沈没し、1198名の死者を出しています。どちらも同じような豪華客船で、死者の数も似たようなものでしたが、この2つの事故には、大きな違いが見られました。

タイタニック号の乗客は、あまりパニックを起こさず、比較的理性的に振る舞いました。子どもは大人よりも14.8%も多く生き延びました。「女性と子どもは優先的に脱出させるべき」という理性が働いて行動したためです。

ところが、ルシタニア号では、大人のほうが多く脱出し、子どもは大人より5.3%少ないという悲しい結果になりました。また、タイタニック号では、女性は男性より53%も多く救出されたのに、ルシタニア号では女性のほうが多かったのですが、わずかに1.1%だけでした。ようするに、ルシタニア号では、大人の男性が、女性と子どもを放っておきながら、われ先に脱出したことがわかります。つまり、パニック状態に陥っていたのです。

沈没までの時間に大きな差

フレイによると、ルシタニア号でパニックが起きたのは、沈没までの時間のせい。

タイタニック号は、浸水がゆっくりで、沈没までに2時間40分もかかったのです。時間があったので、人は正常な理性を取り戻すことができたのだろう、とフレイは推論しています。一方、ルシタニア号のほうは、沈没までにわずか18分。こういうときには、自分だけが助かりたいという利己的な衝動で人は行動してしまうようです。

災害や事故では、人はパニックになりやすいと思われていますが、実際にはそうでもありません。本当に時間的に危機が差し迫っているのでなければ、わりと理性的に行動できるようなのです。

私たちが、消費者として買い物をするとき、シャンプーなどの安い日用品を買うときには、何も考えずに適当な商品をさっさと選ぶのに、自動車やマンションなどの高額な買い物をするときには、じっくりと考えて、考えて、考え抜こうとするのが一般的です。

けれども、心理学的に言えば、そういうやり方は大間違い。

むしろ逆に、日用品のほうはしっかり考えて、高い買い物をするときには、直感的に、あまり悩まず、自分がピンときたものをそのまま選んだほうがよいことを知っておくとよいかもしれません。

なぜかというと、そのほうが後悔しないから。

高い買い物をするとき、熟慮に熟慮を重ねると、かえって迷いが生まれ、購入した後で、「本当に自分は正しい選択をしたのか?」「やっぱりほかのほうがよかったのかも?」と悩むことになります。それが大きな後悔を生み出すのです。

高級家具店と日用品店で調査

オランダにあるアムステルダム大学のアプ・ディクステルホイスは、高級家具店にやってきたお客さま27名と、日用雑貨店にやってきたお客さま27名に、購入後に声をかけて、何を買ったのか、買う前にどれだけ悩んだのかを聞きました。さらに連絡先を尋ねて、数週間後に、「あのときの買い物にどれくらい満足していますか?」と聞いてみました。

ディクステルホイスは、どれくらい悩んだのかを中央値で、高い人と低い人にわけ、「悩んだ人」と「悩まなかった人」に分類し、それぞれの後悔の大きさを比較してみたのです。

すると、高級家具店で買い物をした人では、「悩まなかった人」のほうが満足度は高く、日用雑貨店の買い物客では、「悩んだ人」のほうが、「いやあ、いい買い物をした」と満足度が高くなることが明らかにされたのです。

安い日用品を買うときには、「こちらの商品のほうが10円安い」とか、「こちらの商品のほうがカロリーは低い」というように、じっくり考えてよいのです。むしろ、そうしたほうが買い物後には、ものすごく満足できるでしょう。

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ところが、高額な買い物のときには、そういうことをしてはいけません。

「なんとなく、これ!」とパッと選んでしまったほうが、購入後にも後悔することがありませんから、ぜひそうしてください。

悩めば悩むほど、どれを選んだらよいのかがわからなくなりますし、「隣にあったもののほうがよかったかも?」「セールを待ったほうがよかったかも?」と大いに悶々とした気分を味わうことになってしまいますよ。そういう気分を味わいたくないのなら、とにかく直感で選んでしまったほうがいいのです。

心理学のお勉強をしていると、こういう知識も得ることができますし、「買い物上手」にもなることができるのです。まことに有用で、便利な学問だと思いませんか。

(内藤 誼人:心理学者、立正大学客員教授、アンギルド代表取締役社長)

内藤 誼人

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