岸井ゆきのを「ゲスかわ女優」と呼びたくなるムロツヨシとの共演作『神は見返りを求める』

岸井ゆきのを「ゲスかわ女優」と呼びたくなるムロツヨシとの共演作『神は見返りを求める』

  • 日刊サイゾー
  • 更新日:2022/06/23
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こんなにも「ゲスかわいい」と思える女優には、そうそうお目には掛かれないだろう。吉田恵輔監督のオリジナル脚本作『神は見返りを求める』で底辺YouTuber・ゆりちゃんを演じる岸井ゆきのは、女の持つゲスな一面をたっぷりと見せてくれる。それでいて、そんな彼女のゲスさに、スクリーンを観ている観客は堪らなく魅了されてしまう。岸井ゆきののことを「世界一のゲスかわ女優」と呼びたい。まぁ、呼ばれても本人は迷惑だろうが。

ゲスさは言い換えれば、人間臭さでもある。本来は平凡で不器用な女の子・ゆりちゃんを増長させ、ゲスさをぐいぐい引き出すことになってしまう主人公・田母神を演じるのはムロツヨシ。吉田恵輔作品への出演は、犯罪映画『ヒメアノ~ル』(16)以来となる。ムロツヨシもまた、人間のゲスな部分をごく自然に演じられる稀少俳優だ。

独身の男女ふたりが、YouTubeのコンテンツづくりに悪戦苦闘しながら、心の距離を近づけていく。どちらも独身かつ恋人もいないので、普通なら恋愛関係に発展するところだろう。だが、そこは吉田恵輔作品ゆえに、ありがちなパターンには陥らず、予想外の展開が待っている。観客は笑いながらも、意外な物語の果てに新しい男女の関係性を目撃することになる。

この物語は、田母神尚樹(ムロツヨシ)の回想として始まる。河合優里(岸井ゆきの)はコールセンターでオペレーターをしながら、YouTuber・ゆりちゃんとして活動していた。不器用で、センスもないため、ゆりちゃんのコンテンツはどれも痛々しい。再生回数も当然のように伸びない。そんなとき、ゆりちゃんは「神」と出会う。ゆりちゃんが「神さまだ」と崇めるのが、イベント会社に勤める田母神だった。

合コンで酔い潰れたゆりちゃんを介抱したことがきっかけで、田母神はゆりちゃんの相談に乗るようになる。男性の多くは、 若い女性からの「相談したいことがあるんですが……」という言葉にドキドキするのではないだろうか。以来、休日はゆりちゃんのYouTubeの撮影や編集を手伝うようにな る田母神だった。ゆりちゃんが田母神の人の良さを利用しているのか、田母神が手伝いにかこつけて懇意になろうとしているのか、そこはお互いさまである。

車を出して、撮影用の着ぐるみなども手配する田母神だったが、相変わらず再生回数は伸びることはなかった。それでも2人っきりで行なうファミレスでの打ち合わせや反省会は楽しかった。いつまでも、こんな日々が続けばいいのに。田母神は遅い青春を堪能していた。(1/3 P2はこちら

再生回数が伸びないことに焦ったゆりちゃんが、ネット上で炎上騒ぎを起こしてしまう。頼れる男・ 田母神の出番である。ゆりちゃんの自宅にお邪魔し、謝罪動画を撮影・編集する田母神。その後ろでは、ゆりちゃんが下着姿となり、「こんなことでしか、返せないから」と田母神に抱きつく。

「俺は見返り欲しさにやっているわけじゃないから」

半裸状態のゆりちゃんに、優しく上着を掛ける田母神だった。紳士を気取りながらも、ちょっと惜しいかなという顔を垣間見せる田母神は、ムロツヨシにしか演じられない役だろう。また、下着姿のゆりちゃんの靴下がくたびれて、生活感が漂うものになっているところに、吉田恵輔監督ならではのフェティッシュさを感じさせる。フェティッシュさは名監督の必須条件だ。

ゆりちゃんから最上級の敬意を勝ち取った気でいた田母神だが、男女の関係性は日々刻々と変化する。田母神の同僚・梅川(若葉竜也)の紹介で、人気YouTuberのカビゴン(吉村界人)とチョレイ(淡梨)に出会ったゆりちゃんは、彼らの番組にゲスト出演。上半身裸になったゆりちゃんの体当たりボディペインティングは話題となり、大いにバズることに。

ゆりちゃんが一躍人気者となり、田母神は気が気ではない。一流デザイナーの村上アレン( 栁俊太郎)が撮影や編集を担当するようになり、センスのいい、オシャレな動画に変わっていく。注目度が上がるにつれ、ゆりちゃんもどんどん洗練され、別人のように美しくなっていく。だが、外見的な美しさと反比例して、ゆりちゃんの性格はえげつなく変わってしまう。

田母神はすっかりオジサン扱いされ、 打ち合わせにも撮影現場にも居場所がない状態だった。「あれだけ、俺が愛情を注いでやったのに……」。かわいさ余って、 憎さ100倍。田母神は暴露系YouTuber・ゴッディとなり、ゆりちゃんの非道ぶりを告発する。

田母神の下心ありの善意を踏み台にして、のし上がっていくゆりちゃん。計算高い、女のしたたさを岸井ゆきのが存分に見せてくれる。『 おじいちゃん、死んじゃったって』(17)でセクシャルなシーンに挑んでいた岸井だが、本作では衣服だけでなく、ひとりの女性の内面までもさらし出してみせる。ここまで身も心も裸になれる女優は、そう多くはない。

吉田恵輔監督は10代の頃から続けてきたボクシングを主題にした『BLUE ブルー』(21)、 6月11日に亡くなった河村光庸プロデューサーとのタッグ作『空白』(21)、どちらも高い評価を受けている。良質のシリアスドラマや社会派ドラマも生み出す吉田監督だが、やはり『さんかく』(10)や『犬猿』(18)などのコメディ作品が抜群に面白い。人間のダメな部分への、深い愛情を感じさせる。また、映画離れが進む若者たちに人気のYouTubeの世界に、映画表現で真っ向勝負している姿勢もカッコいいではないか。

再生回数を求めて、より過激路線へと走っていく即物的なネット社会を題材に、数値では計れないものを逆説的に見せてくれるところが、本作の面白さだろう。(2/3 P3はこちら

お互いにネット上で激しくディスり合うようになるゴッディとゆりちゃん。だが、ゴッディこと田母神は、一時は自分が好意を抱いた相手をののしり続けることの虚しさに気づき、ネット上でのやりとりを止めてしまう。ゴッディからのリアクションがないことに、一抹の寂しさを覚えるゆりちゃんだった。

念願の人気YouTuberになったゆりちゃんにとって、 田母神は「神」ではなく、すでに「疫病神」となっていた。それでも、優しかった頃の田母神のことが彼女の脳裏の片隅には残っていた。

結局、この物語は下世話な神さま・田母神の一方的な「片想い」として終幕することになる。だが、とても美しい「片想い」の一生が描かれている。片想いは両想いになることで成就するが、田母神の想いはあくまでも片想いとして完結する。

岸井ゆきののブレイク作となった『愛がなんだ』(19)、NHK総合で今年1~3月に放映された『恋せぬふたり』と同様に、恋愛とは異なる感情で繋がった男女の姿が本作には描かれている。両想いにはない、片想いだからこその美しさをこの作品からは感じることができる。

『神は見返りを求める』
監督・脚本/吉田恵輔
出演/ムロツヨシ、岸井ゆきの、若葉竜也、吉村界人、淡梨、栁俊太郎
配給/パルコ 6月24日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開
©2022「神は見返りを求める」製作委員会
kami-mikaeri.com

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