池上彰と的場昭弘が語る なぜいまこそ「社会主義」なのか?

池上彰と的場昭弘が語る なぜいまこそ「社会主義」なのか?

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  • 更新日:2021/06/11
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池上彰さん(左、撮影/写真部・東川哲也)と、的場昭弘さん(撮影/写真部・掛祥葉子

資本主義社会の限界がささやかれる昨今、その未来を探る手掛かりとして「社会主義」が注目を集めています。なぜ今、「社会主義」なのでしょうか? 『いまこそ「社会主義」』(朝日新聞出版)の共著者である池上彰さんと的場昭弘さんに聞きました。(※本記事は、朝日カルチャーセンター主催で2021年5月に行われたオンライン講座「いまこそ『社会主義』」の内容の一部を加筆・編集したものです)

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■ソ連、東欧、中国のものとは異なる「社会主義」

――まずこのご本の狙いをお話しいただけますでしょうか。

池上:資本主義の行き詰まりについて議論するときに、それに代わるオルタナティブなものとして社会主義を考えてみようということです。その際にソ連、東欧、中国の社会主義とは違う、「いわゆる」という意味でカギカッコを付けています。

的場:副題の「現代を読み解くための補助線」のほうがより意図を表していると思います。資本主義の問題と限界を明らかにし、併せて社会主義の欠点も指摘しながら、ソ連型だけでなく東欧、中南米などさまざまな社会主義のあり方についても議論をしました。

池上:マルクスの『資本論』に依拠しながら、いかに資本主義が非人間的なものであり、資本家さえカネの奴隷となっているかを論じましたが、あのあと斉藤幸平さんの『人新生の資本論』が出て、問題意識が一致している部分がある、と思いました。

彼と対談したときに、資本主義をひっくり返すのに「(共産党のような)前衛党は必要ですか」と尋ねたら「必要ない」と言います。「それぞれのコミュニティがしっかりしていくことが大事だ」とおっしゃっていて、本書で的場先生が指摘なさっていたアソシエーションの問題にも通じるところがあるなと感じました。

私が「コミュニズムではなくコミュニティズムですね」と言うと、「そういうものに近い」というご返事でした。

的場:斉藤さんの登場には私も喜んでいます。彼はベルリンの壁崩壊ごろの生まれで、新自由主義に囲まれて育った世代で、大学ではマルクス主義など皆無だったはずです。

池上:アメリカではバーニー・サンダースやエリザベス・ウォーレンなどが大統領選の民主党候補として若者の支持を得ていましたが、アメリカの若い世代には社会主義へのアレルギーはなくなっています。

的場:彼ら民主社会主義者の支持を得て、バイデンが大統領になりましたが、トランプの一国主義、ユニラテラルから、ヨーロッパとも協同するマルチラテラルへと舵を切りました。人権と民主主義を旗印にして、ロシア、中国と対抗していこうというわけですが、日本はアメリカ追随の虎の尾を踏みました。

似たような状況が、1989年7月にフランスで開かれたアルシュサミットでもありました。フランス革命200周年ということもあって、人権がテーマになり、その年4月に起きた天安門事件に対して非難宣言を出すことになりました。日本はそれに乗ることに躊躇し、中国の改革に期待する、といった文言を入れ、賛成しました。

いまだに人権と民主主義をめぐって、日本が欧米と中国の媒介項になる、という道はあると思います。なにしろ150年、西洋とは違う資本主義と民主主義を発展させてきた日本ゆえの立ち位置がありますから。

■コロナ禍で生協への加盟者が激増している

――新型コロナと新自由主義の関連についても触れておられますね。

池上:新自由主義が広がって、小さな政府を推進する過程で、日本では保健所が激減しました。公立病院の統廃合も打ち出されましたが、新型コロナでストップしています。そのまま進んでいたら、どうなっていたか、ということです。ベッドを減らしたら補助金を出す、ということで予算が付いたわけですが、去年の11月、実行に移そうしていたことが判明しました。驚くべきことです。

的場:EUはそれぞれの国のナショナリズムを前提としながら、雇用を守り、維持するためにスタートしました。しかし、社会主義国が崩壊したことで、目標がズレて、フランス社会党でいえば、エリート主義、能力主義に傾斜していきました。要するに、労働者を裏切ったわけです。それを糊塗するために人権と民主主義を持ち出し、東欧の国を抱き込んでいく。実態は自国の工場を賃金の安いブルガリアやルーマニアに移し、結果、自国の雇用を失なっていきました。

池上:フランスの哲学者トクヴィルがアメリカ独立後しばらくして、現地を見て『アメリカの民主主義』を書きます。アメリカの民主主義を成り立たせるものは何か、と考え、教会などの中間組織に注目します。日本でそれに当たるものは何か。圧倒的な力をもつ国家への対抗軸となるもの。私たちの生活を守る、という意味で生活協同組合があり、コロナ禍で生協への加盟者が激増したといいます。それに労働者を守るという意味では労働組合があります。

的場:新自由主義優勢のなかでも、協同組合は世界の全雇用の実に10パーセントを生み出していて、アメリカの協同組合の数は世界1位で、4万以上にのぼるのです。協同組合方式というのは、どっこいしっかり人気があって、根付いています。商品が確かで安全である、ということが信頼になっています。

池上:もう一つ、私が注目しているのは、宇沢弘文さんの「社会的共通資本」という考え方です。医療崩壊のリスクを目の前にして、宇沢さんの未完の思想が思い出されました。問題は、人のいのちを大事にする社会システムをどうつくっていくのか、ということです。

アメリカの最新世論調査で、コロナ禍でリモートワークした人は、「出社」のような元のスタイルに戻りたくない、と答えています。給料は多少下がるかもしれませんが、家族と一緒にいることができ、衣服代もそうかかりません。お金儲けより命が大事――そこをスタート地点にしていかないといけないな、と思っています。

的場:リトアニアに芸術家たちが勝手に独立宣言したウジュピス共和国があります。41項からなる憲法があって、世界のいろいろな言語で書かれています。「15.誰にも幸せになる権利がある」一方、「16.誰にも幸せにならない権利」もあります。「4.間違いを犯す権利」も認められています。最後の39~41は「勝つな」「やり返すな」「でも降参するな」です。共同体を捨ててもいいし、求めてもいい。根源的な自由を追い求める共同体です。

それは夢物語かもしれませんが、ルソーやモンテスキューが社会契約を基にした民主国家を考えたのは、絶対王政の時代でした。現実にひれ伏してしまえば、理想論で終わってしまったはずです。イギリス、フランスで始まった国民国家がいまや世界の主流ですが、誰もそうなるとは予想だにしませんでした。この国民国家だってあと300年経って残っているかどうか分からない。国家が解体して、地域共同体が主となっている可能性もあります。

コロナ禍を経て世界がどうなるか、見極めていきたいと思います。

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