スノーピーク34歳社長「不倫辞任」は適正なのか

スノーピーク34歳社長「不倫辞任」は適正なのか

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2022/09/23
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スノーピークの社長を辞任した山井梨沙氏(右)と、父親で今回、会長兼社長となった山井太氏(撮影:中原美絵子)

「当社代表取締役社長執行役員である山井梨沙から、当社及びグループ会社の取締役の職務を辞任したいとの申し出がありました」

新潟県三条市に本社を置くアウトドア用品メーカー、スノーピークが9月21日に発表したトップ交代人事が波紋を呼んでいる。

34歳で創業家3代目の山井梨沙氏が「既婚男性との交際及び妊娠を理由として」、社長を辞任。同日開かれた臨時取締役会において、会長であり創業家2代目の山井太氏が梨沙氏に代わって社長を兼務することになった。

スノーピークは山井太氏の父、山井幸雄氏が前身となる金物問屋を1958年に創業。社内起業の形で1988年に山井太氏がテントをはじめとするオートキャンプ用品の製造へ本格的に乗り出した。以来、高級品に強みを持ち、「スノーピーカー」と呼ばれる熱狂的なファンを作ってきた。

32歳で東証1部上場企業の経営者に

山井梨沙氏は2020年3月末に当時32歳でスノーピークの社長に就任。東証1部上場企業の社長としては飛び抜けて若く、それも数少ない女性経営者の1人として注目を集めてきた存在だ。その山井梨沙氏が突如として不倫を理由に辞任を発表したのだから、大騒ぎになっても無理はない。

社長の辞任自体は良くあることであるし、スキャンダルが引き金になることも珍しくはない、近年は不倫疑惑が週刊誌報道などで明るみとなって、著名な企業の経営者が辞任に追い込まれるケースが見られ始めている。

しかしながら、今回のスノーピークのようにメディア報道もされていない時点で、会社自らがスキャンダルを表明するというのは、かなり珍しいケースであると言える。

先手を打って情報発信を行うこと、トップが不祥事の責任を取ることは、リスクマネジメントにおいて有効なやり方である。しかしながら、今回の場合は、知られていないスキャンダルを自ら世の中に広めてしまったという側面もある。

あえて公表したのは、ひょっとしたら近々メディア等で暴露されることを想定して先手を打ったのかもしれない。この先、会社側から発表されていること以上のスキャンダラスな事実が報道されたとしても、すでに辞任している人物に対して、メディアや市民は過度に叩こうとはしないだろうし、大きく話題にすることもないだろう。

単に辞任を発表するだけでなく、不都合な理由までを表明したのは、その先に待っているスキャンダルの暴露を想定していたシナリオを疑ってしまう。

経営者の情報発信のジレンマ

スティーブ・ジョブス以降、経営者が対外的に情報発信をしていく動きは加速している。

経営者みずからが情報発信することは、企業広報面で有効であることはもちろん、企業ブランドの強化、顧客や地域社会との関係構築、投資や従業員の獲得といった、多方面に影響を及ぼす。

経営者がメディアに出演したり、イベントや講演会で多くの人に語りかけたりすることはこれまでも多々あった。それは経営者の余技のようなもので、経営者の仕事の一環とは見なされていなかったが、現代においては、情報発信は経営者の重要な任務であり、情報発信力のある経営者が高く評価されるようになっている。

スノーピークにおいても、2代目社長であり、山井梨沙氏の父である山井太氏の時代から、社長自ら経営理念を語り、顧客とコミュニケ―ションを取ってきた。それによって、ファンが形成され、彼らの購買意欲がスノーピークの収益を支えてきた。

山井梨沙氏は32歳の若さで就任した女性社長として注目を集めていたのみならず、父・山井太氏から受け継いだ経営理念やコア事業であるアウトドアに関する熱い思いを語り、それを実行することで、多くの期待を集めていただけに、日頃からの山井梨沙社長の情報発信力の高さが裏目に出た事例ともいえるだろう。

スノーピークの件に限らず、経営者による情報発信はリスクと背中合わせだ。どんな立派なことを語ろうとも、不都合なプライバシーが明るみになれば、逆効果になりかねない。

一方で、経営者の本質はその名の通り、「経営を行う者」である。

経営手腕の是非や、企業経営に関わる不祥事によって責任が追及されることは正当だ。汚職、ハラスメント、人種差別、性加害といった行為は言語道断である。アメリカではセクハラ防止の観点や社内の秩序を乱すなどという理由から、管理職以上の社員が上下関係にある従業員と恋愛が禁じられている企業がある。インテルやマクドナルドなどでCEOがそれを理由に解任されたケースはある。

ただ、不倫のような私的な問題によって経営者としての責任を問うべきかについては議論の余地があるだろう。アマゾンのジェフ・ベゾス、テスラのイーロン・マスクは大々的に不倫報道がされてきたが、それによってCEOを辞任するには至っていない。

不倫でなくても社内恋愛は許されず、私的な関係であれば不倫や浮気は許される――という基準は、日本人からすると奇異に見えるかもしれない。

アメリカにおいては、色恋沙汰に関して、経営者の責任が問われるのは、あくまでも「経営者として」不適切な行動を取ったのか否かという点に絞られ、私的な領域での事項はあくまでも私的な問題として解決すべきことと判断される。

「公私混同」と言うなら

日本企業が活力を失った要因として、「オーバーコンプライアンス(過剰法令順守)」が挙げられることも多い。

有能な経営者が私的なスキャンダルによって役職を追われてしまうことは、オーバーコンプライアンスに当たるのではないかと筆者は考える。

寛容性と厳格性はアクセルとブレーキのようなもので、両方をうまく使いこなすことで、社会は健全かつ効率的に回っていく。

コンプライアンスは重要だが、同時に寛容性も備えなければ、閉塞感に満ちた、活力に欠けた社会に陥ってしまう懸念がある。

「公私混同」という言葉があるが、経営者の公私混同を問題視するのであれば、彼らへの責任追及も、公の領域と私の領域を切り分けて行わなければフェアではない。山井梨沙氏に関しても、不倫という側面がクローズアップされ、それ自体を強烈に批判する向きもあるが、「経営者として不適切な行為があったのか否か?」という点が抜きにされているならば、本質から外れた議論になる。

(西山 守: マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授)

西山 守

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