小川淳也議員の状況対人論証/差別と人格攻撃の肯定

小川淳也議員の状況対人論証/差別と人格攻撃の肯定

  • アゴラ
  • 更新日:2020/09/17
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小川氏動画

立憲民主党の小川淳也衆議院議員がテレビ番組で次のような発言をして問題になっています。

JCASTニュース 2020/09/15菅氏は「生い立ち」国会で明らかにすべき?発言物議の立憲・小川淳也氏、ツイッターで「真意」説明[記事]

無所属から立憲民主党に合流する小川淳也衆院議員(49)が、自民党の菅義偉新総裁に対し、その生い立ちを国会で明らかにする必要があるなどとBS番組で発言し、物議を醸している。出自の差別につながるのではとの批判がツイッター上で寄せられているが、小川氏は、差別を否定し、その真意を投稿した動画で説明した。

「どういう人間かは、どういう生い立ち、どういう環境かに規定されるんですよ」「叩き上げストーリーをもし作られているとしたら、それはちゃんと実情を見ないといけない」

小川氏は、2020年9月14日夜放送のBS-TBS番組「報道1930」に出演し、叩き上げとも言われる菅新総裁について、こう持論を述べた。そして、小川氏は、菅氏が選挙区の神奈川県に地縁・血縁はないと言っているが、亡き父親が、秋田県の地元町議を4期務めたこともあり、比較的豊かな農家だったとの説もあると指摘し、こう続けた。

「そこらあたりは、逆の意味の虚像を作っているのであれば、それはきちんと国会も含めて、どういう人物なのか、というところをしっかり明らかにすることが、総理大臣としては最初の仕事であるような気がします。(中略)「どういう人物が、どういう政策に情念を持つかを規定するんですね。」

小川議員の言説の重要なポイントは、①「どういう人間かは、どういう生い立ち、どういう環境かに規定される」②「どういう人物が、どういう政策に情念を持つかを規定する」の2箇所です。

この言説は、①個人の力では変えることができない「出自」や「家庭環境」といった【状況 circumstance】を根拠にして【人格 personality】を【差別 discrimination】した上で、②その差別した人格を根拠にしてその【行動 behavior】を否定する【誤謬 logical fallacy】である【状況対人論証 circumstantial ad hominem】に他なりません。

本記事では、状況対人論証に関わる言説の事例をいくつか挙げながら、この誤謬の本質が差別と人格攻撃であることを論じたいと思います。(冒頭の写真は小川淳也議員Twitterより)

対人論証

状況対人論証は【対人論証 Ad hominem】の一つです。対人論証とは、言説の論者の人格を根拠にしてその言説を肯定/否定するものです。

「A氏の人格は良いのでA氏の主張Xは正しい」
「A氏の人格は悪いのでA氏の主張Xは正しくない」

事例を挙げてみます。

<事例>衆・本会議 2010/05/31柿沼正明議員(民主):経済産業委員長東祥三君の解任決議案について、断固反対の立場で討論いたします。東委員長は、風貌は少しいかつい感じはいたしますが、大変優しい誠実な高潔な人格者であります。そんな東委員長を解任しようとする今回の解任決議案は、まったくもって信じがたい行為でございます。

民主党政権時、柿沼議員は、人格を根拠にして、会議の運営能力が要件となる立法機関の人事の適性を判断しています。

<事例>「安倍総理に向けた手紙」 2015/07/24[記事]SEALDsメンバー:国会で野次を飛ばすような稚拙な真似をしてみたり、戦争を近所の火事に例えたり、粛々とあの美しすぎる大浦湾を埋め立てようなんて、私には本当に理解できません。あなたの一切の言動に、知性や思いやりのかけらを感じたことがないし、一国民としてナメられている気がしてなりません。安倍さん、私はこれ以上、私が生きるこの国の未来を、あなたに任せることはできません。

これは安保法制反対デモにおけるSEALDsメンバーの言説です。この言説は、安倍総理の政策に対して合理的な反論をするのではなく、その人格に対する個人的評価を根拠にしてその政策を否定しています。

このような対人論証については国会審議で多用されており、もはや国会は政策議論の場から人格攻撃の場に変容しています。

関連記事:[民進党を存亡の危機に導いた人格攻撃中毒・依存症]

状況対人論証

【状況対人論証 circumstantial ad hominem】とは、言説の論者が置かれている状況を根拠にした人格評価を根拠にしてその言説を肯定/否定するものです。

「A氏は良い環境に置かれてきたのでA氏の人格は良く主張Xは正しい」
「A氏は悪い環境に置かれてきたのでA氏の人格は悪く主張Xは正しくない」

<事例>東京都知事選挙・街頭演説会 2016/07/27鳥越俊太郎・東京都知事候補:増田候補は選挙戦直前まで東京電力の社外取締役をしていた。そういう人に原発を止めるなんてことが言えると思いますか?いえないでしょう。私と一緒に選挙を戦っている二人は、一人が核武装論者、一人は原発OK、こういう核に賛成している人たちは絶対に当選させてはダメです。核にNoと言えるのは私だけです。

鳥越氏は、過去に増田寛也・東京都知事候補が被災地県の首長経験者として東京電力の社外取締役に就いていたという状況を根拠に増田氏の人格を否定し、その人格を根拠にしてその政治行動を否定しています。

出自に訴える論証

【出自に訴える論証 appeal to origin / genetic fallacy】とは、出自を根拠にした人格評価を根拠にしてその言説を肯定/否定するという状況対人論証の一つです。

「A氏の出自は善良なのでA氏の人格は良く主張Xは正しい」
「A氏の出自は邪悪なのでA氏の人格は悪く主張Xは正しくない」

<事例>『月刊現代2006年10月号』立花隆氏:岸が生涯かけてやろうとしていた政治目標として、安保改定とならんで自主憲法の制定があったが、その目的を果たせないうちに、岸は総理の座を去った。父の安倍晋太郎も憲法改正をめざしていたが、総理になれないうちに、世を去った。祖父も父もしようとしてできなかったことを、いずれ自分がやりとげたいと安倍はかねて語っていたが、間もなくそれを可能とする政治的ポジションにつこうとしている。これほど強い憲法改正への執念は、親子三代のDNAのしからしめるところといったらいいだろうか。

出自を根拠に人間の人格を否定する差別思想です。安倍首相くらい公然と出自を罵られ続けた人はおそらくいないでしょう。

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<事例>『週刊朝日2012年10月26日号』緊急連載ハシシタ 奴の本性佐野眞一氏:はじめに断っておけば、私はこの連載で橋下の政治手法を検証するつもりはない。この連載で私が解明したいと思っているのは、橋下徹という人間そのものである。(中略)。もし万が一、橋下が日本の政治を左右するような存在になったとすれば、一番問題にしなければならないのは、敵対者を絶対に認めないこの男の非寛容な人格であり、その厄介な性格の根にある橋下の本性である。そのためには、橋下の両親や、橋下家のルーツについて、できるだけ詳しく調べ上げなければならない。(中略)。平成の坂本竜馬を気取って維新八策なるマニフェストを掲げ、この国の将来のかじ取りをしようとする男に、それくらい調べられる覚悟がなければ、そもそも総理を目指そうとすること自体笑止千万である。それがイヤなら、とっとと元のタレント弁護士に戻ることである。

橋下徹氏が公人であることを言い訳にしたヘイトスピーチです。公人は国民の奴隷ではなく、対価と引き換えに公的業務を委託している国民のパートナーです。その人権は国民と同様に保護されなければなりません。出自への攻撃は同時にその子孫への攻撃でもあります。ご本人だけでなくご家族も理不尽で耐えがたい悲痛な思いをされたものと推察します。

<事例>『日刊ゲンダイ』 2013/04/18太平洋戦争のA級戦犯で巣鴨プリズンに収容され米CIAと取引して釈放された後に首相となり日米安保条約を固定化した売国政治家の孫が今やっていること(中略)。これは怖い。永田町では「最近の安倍さんを見ていると、父親の晋太郎さんよりも祖父の岸さんに似てきた」(自民党関係者)との声が聞かれる。そっくりなのは顔だけで十分。政治手法やスタンスまで、岸のDNAを受け継いでいるとすれば、本当に危険である。

「罪人の子は罪人」として公然と人間を差別するヘイト記事です。

<事例>TBSテレビ『NEWS23』 2015/06/25膳場貴子氏:これは、今月13日、神奈川県の大和市が講演した市民団体のイベントの様子なんですが、出演したアイドルグループの言動を巡って、今日になって市が後援の取り消しを決定するという異例の事態となっています。制服向上委員会:♪おぉズサンナその態度 諸悪の根源 自民党(「おおスザンナ」の替え歌) ♪大きな態度の安倍総理 おじいさんと同じ エリート意識に眉間筋 お父さんと同じ(「大きなのっぽの古時計」の替え歌)

小田博士大和市議:やはり一番問題なのは本気で自民党倒しましょうと替え歌で歌っているということだと思いますね。これは政治運動、倒閣運動、反政府運動ですから。運動するのは構わないですけれど、それを市・行政が後援するのはおかしいのではないかということになりますね。

岸井成格氏:この程度の批判で、それが受け止められないようでは国民政党とは言えませんからね。これはもう表現の自由とか言論の自由とか以前の問題でね。

制服向上委員会は、安倍首相の出自を替え歌で揶揄しています。明白なヘイトスピーチを「この程度」と擁護した岸井氏の発言は、セカンド・ハラスメントであり、表現の自由とか言論の自由とか以前の問題です。

<事例>ブルームバーグ日本語版 2019/02/08文喜相・韓国国会議長:一言でいいのだ。日本を代表する首相かあるいは、私としては間もなく退位される天皇が望ましいと思う。その方は戦争犯罪の主犯の息子ではないか。そのような方が一度おばあさんの手を握り、本当に申し訳なかったと一言いえば、すっかり解消されるだろう

文喜相議長は、昭和天皇の子である当時の天皇(現在の上皇)に対して「罪人の子は罪人」という根拠で謝罪を要求しました。卑劣な血統差別です。

なお、蓮舫議員の二重国籍問題は、国の人格権を守る目的で法律に定められている国会議員の【資格 qualification requirement】が論点であり、出自に訴える論証と混同しないよう留意が必要です。出自を根拠に蓮舫議員の人格を否定するのは差別です。

一方、資格を明示するよう求めた国民の主張に対して、蓮舫議員が差別であるかのように印象操作したことは人格攻撃に他なりません。

富裕度に訴える論証

【富裕度に訴える論証 argument to the purse / argumentum ad crumenam】とは、言説の論者の富裕度を根拠にしてその言説を肯定/否定するという状況対人論証の一つです。

「A氏は金持ちなのでA氏の人格は良く主張Xは正しい」
「A氏の金持ちなのでA氏の人格は悪く主張Xは正しくない」

<事例>衆・本会議 2010/02/01石原伸晃議員:鳩山総理の尊敬されますマハトマ・ガンジー師は、こういう言葉も残されております。健康な人であれば、だれもが自分の食べるだけのものは労働して得なければならない、そして、自分の肉体を維持するのに十分な量を超えて食べる人は、皆、盗人ですと、ガンジー師は続けます。お母様から七年間で十三億円以上もお小遣いをもらいながら、まったく知らなかったと答弁ができる総理。ばれたら、贈与でしたと開き直り、五億七千五百万円もの贈与税をキャッシュでぽんと払える総理の生活は、ガンジーの思想とはまったく相入れないと思うのは、私だけではなく、きょうこの演説を聞いている大多数の国民の皆様方も同じではないでしょうか。

当然のことながら、論者の富裕度とその主張の真偽とは無関係です。鳩山由紀夫首相が金持ちであることを根拠にしてその言説を否定するのは不合理です。同様に、仮に菅義偉首相の実家が金持ちであったところで、それは主張の真偽とは関係ありません。

貧困度に訴える論証

【貧困度に訴える論証 appeal to poverty / argumentum ad lazarum】とは、言説の論者の貧困度を根拠にしてその言説を肯定/否定するという状況対人論証の一つです。

「A氏は貧乏人なのでA氏の人格は良く主張Xは正しい」
「A氏の貧乏人なのでA氏の人格は悪く主張Xは正しくない」

<事例>『ハフィントンポスト』 2014/10/29〔世界一貧しい大統領”は言う「金持ちは政治家になってはいけない」〕ムヒカ大統領は、裕福な人々そのものを嫌っているわけではないと言う。ただし、お金持ちではない多数派の人々の利益を代表するという仕事を、裕福な人々がうまくできるとは考えていないのだ。「政治の世界では、彼らを分け隔てる必要があります。お金があまりに好きな人たちには、政治の世界から出て行ってもらう必要があるのです。彼らは政治の世界では危険です。(中略)。お金が大好きな人は、ビジネスや商売のために身を捧げ、富を増やそうとするものです。しかし政治とは、すべての人の幸福を求める闘いなのです。彼ら(裕福な人々)は世界を、彼らの視点、つまりお金の視点から捉えます。たとえ善意に基づいて取り組んでいるときでも、彼らの世界観、生活観、それに何かを決定する観点を提供するものは、お金です。」

当然のことながら、論者の貧困度とその主張の真偽とは無関係です。この事例におけるムヒカ大統領の言説は個人的な見解に過ぎません。リベラルな視点から見れば、明らかな逆差別です。

人間の人格をその置かれた環境で評価するのは差別です。また、言論に対しては論者の人格ではなくその真偽のみを論点にすべきです。「どういう人間かは、どういう生い立ち、どういう環境かに規定される」「どういう人物が、どういう政策に情念を持つかを規定する」とする小川議員の言説は明確な状況対人論証です。

小川議員は「菅氏が選挙区の神奈川県に地縁・血縁はないと言っているが、亡き父親が、秋田県の地元町議を4期務めたこともあり、比較的豊かな農家だったとの説もある」と指摘した上で、その真偽を国会で明らかにするよう主張しています。このことも大きな勘違いです。

小川議員が国会議員として行うべき用務は、「菅氏が貧困であるか金持ちであるかは政治とは関係がない」ことを説明することであり、「菅氏が金持ちであるか否か」を追求することではありません。

「どういう人間かは、どういう生い立ち、どういう環境かに規定される」「どういう人物が、どういう政策に情念を持つかを規定する」という不当な原理を肯定する小川議員は、もしも菅氏が金持ちであったら【富裕度に訴える論証】で非難されるべきと主張しているに他なりません。

私は小川議員は議員辞職すべきであると考えます。その理由は、差別と人格攻撃を含む状況対人論証を肯定する小川議員の人格の低さによるものではなく、それを肯定する小川議員の論理性の低さによるものです。このような不合理な議員に、国民の大切な政策議論の場である国会を、これ以上差別と人格攻撃の場にしてほしくないからです。

藤原 かずえ

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