
文星芸大付・堀江正太郎(写真提供・プロアマ野球研究所 PABB)
今年は投手なら前田悠伍(大阪桐蔭)、木村優人(霞ヶ浦)、坂井陽翔(滝川二)、野手なら佐々木麟太郎(花巻東・一塁手)、真鍋慧(広陵・一塁手)などが注目を集めている高校生のドラフト候補だが、センバツ高校野球とその後に行われている春季大会では下級生でも目立つ存在が徐々に出始めている。そんな2024年、2025年のドラフト戦線を賑わせることになりそうな下級生の有力候補にはどんな選手がいるのだろうか。
【写真特集】「伝説の女子マネ」も登場! 増刊『甲子園』の表紙を飾った美少女たちまず投手で世代をリードする存在となっているのが高尾響(広陵)だ。中学時代から九州では評判で、名門の広陵で1年夏からエース番号を獲得。昨年秋は右足の疲労骨折もあって本調子ではなかったが、それでも明治神宮大会では準決勝の北陸戦で7回を投げて11奪三振、無失点と見事な投球を見せている。この春のセンバツでも2勝をマークし、チームの準決勝進出に大きく貢献した。172cmと投手としては小柄だが、全身のバネを感じるフォームで好調時のストレートは145キロを超える。腕を振って投げられるスライダーは打者の手元で鋭く変化し、勝負所でギアを上げられるのも下級生離れしている。先輩の河野佳(現広島)のように社会人か大学を経由してからプロを狙うタイプに見えるが、早くからその動向に注目が集まることになりそうだ。
甲子園出場経験こそないものの、高尾と同様に早くからチームの中心として活躍しているのが津嘉山憲志郎(神戸国際大付)だ。昨年夏の兵庫大会ではリリーフで7試合に登板。決勝で社に敗れて甲子園出場は逃したものの、1年生とは思えない投球で話題となった。昨年秋の近畿大会では夏から投げ続けてきた疲労もあって本調子ではなかったが、冬の期間にトレーニングで減量に成功。春はスピード、コントロールともに大きく成長した姿を見せている。巨漢でパワーピッチャーのように見えるが、意外に器用なところがあり、変化球のコントロールも安定している。体格を生かしたパワフルな打撃も持ち味だ。
この2人に次ぐ投手では阿部拓貴(札幌第一)、小林芯汰(常総学院)、堀江正太郎(文星芸大付)、伊東尚輝(愛工大名電)、南陽人(大阪桐蔭)、平悠真(高知)などの名前が挙がる。特にこの春に強い印象を残したのが堀江だ。3人の投手の継投が勝ちパターンのチームで主に最後を任せられ、春の県大会ではチームの決勝進出に貢献。恵まれた体格から投げ込むストレートは140キロ台前半がアベレージだがまだまだ速くなりそうな雰囲気があり、変化球のレベルも高い。春の関東大会でも2回で3奪三振を記録した。
捕手でこの春大きくアピールしたのが箱山遥人(健大高崎)だ。センバツでは2年生ながら4番を任され、初戦の報徳学園戦で敗れたものの2安打をマーク。スローイングも速さと正確性を兼ね備えており、2.00秒を切れば強肩と言われるセカンド送球ではコンスタントに1.90秒前後をマークする。これまでも多くの捕手をプロに輩出している健大高崎でも総合力では歴代ナンバーワンとの呼び声も高く、打てる捕手として注目を集めることになりそうだ。
バッティングで高い評価を得ているのが徳丸快晴(大阪桐蔭・外野手)だ。中学時代から有名な選手が揃うチームの中でも1年秋から不動のレギュラーに定着し、明治神宮大会でも4試合で16打数8安打、打率5割と見事な成績を残した。タイプとしては中距離打者のように見えるが、無駄な動きのない鋭いスイングで長打力も申し分なく、広角に鋭い打球を放つ。外野からのスローイングも素早く、次の塁を積極的に狙う走塁も持ち味だ。
強打者タイプでは武田勇哉(常総学院・一塁手)の名前が挙がる。昨年秋から4番に座り、この春はチームの県大会優勝にも大きく貢献。現在行われている関東大会でもここまで2試合で8打数5安打、1本塁打を含む長打3本とその長打力をいかんなく発揮している。力任せではなく、しっかりボールを呼び込める技術の高さがあり、センター中心に鋭い打球を放つことができるのが長所。打つ以外のプレーはそれほど目立たないが、貴重な右のスラッガーだけに楽しみな存在である。
ショートでは森駿太(桐光学園)が面白い。入学直後からファースト、外野、サードなどあらゆるポジションで試合に出場しているが、この春から本職であるショートのレギュラーに定着。187cmの大型選手で深い位置からノーステップで強いボールを投げられる強肩は高校生離れしている。また打撃でも春の県大会では2試合連続でホームランを放っており、どちらも打った瞬間にそれと分かる当たりで、打者としてのスケールの大きさも魅力だ。卒業後の進路は大学進学が多い桐光学園だが、なかなかいない大型ショートだけに高校からのプロ入りも十分に考えられるだろう。
この春に入学した1年生では健大高崎の石垣元気、佐藤龍月の2人が早くも140キロを超えるスピードをマークし、関東大会でも登板するなど注目を集めている。まだ公式戦での登板はないものの、中学時代に軟式で140キロ台中盤のスピードをマークしていた森陽樹(大阪桐蔭)も既にスカウト陣から名前が挙がる存在だ。あまり早い段階から“スーパー1年生”と持ち上げるのは色んな意味で危険だが、夏の大会でも地方大会、そして甲子園を席巻するような新星が登場することを期待したい。(文・西尾典文)
●プロフィール
西尾典文 1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。
西尾典文