町田樹が指摘する、フィギュアスケート演技映像アーカイブの問題点とは?

町田樹が指摘する、フィギュアスケート演技映像アーカイブの問題点とは?

  • JBpress
  • 更新日:2022/09/23

文=松原孝臣 写真=積紫乃

No image

[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

動画投稿サイトに頼らざるを得ない現実

あの大会の、あのアイスショーのスケーターの演技が観たい——フィギュアスケートのファンの人がそう思ったとき、探す先として有力な候補になるのは動画投稿サイトではないだろうか。

たしかに、過去から現在までの、たくさんの映像があげられている。競技会のもの、アイスショーのもの、著名なスケーターの作品であれば、探していけばなんとかみつかったりする。だから演技映像を観たくなったとき、探す手間はかかるにしても、そんなに不便に思わないかもしれない。「観られない」という思いに駆られることは少ないかもしれない。

でもそこに落とし穴がある。動画投稿サイトにある映像の多くは、いつ消えてもおかしくはない、不安定な状態にあるからだ。

それでも動画投稿サイトに頼らざるを得ない現実があるが、そこから映像が消えることは、実はフィギュアスケートのファンへの影響にとどまらない。このような課題を含め、フィギュアスケートが抱える大きな問題に焦点をあててきたのが町田樹である。

「アーティスティックスポーツ」を研究

町田は2014年12月に競技生活から退くことを表明、プロフィギュアスケーターとして活躍したあと2018年10月にプロスケーターとしての活動にも終止符を打った。

競技者としてはオリンピックに出場して5位入賞、世界選手権銀メダルなどの成績を残した。成績もさることながら、プロ時代も通じて、数々の名演を披露し、深く記憶に刻まれるスケーターであったのが町田であった。

No image

2014年世界選手権、FS「火の鳥」を演じる町田樹。写真:ZUMA Press/アフロ

確固とした存在感は、研究者として歩む今日もかわらない。現在は國學院大學で助教を務める町田は、早稲田大学大学院在籍時から研究を行なって論文として発表。その成果は広く注目されてきたが、フィギュアスケートにも大きな功績を残している。

例えば、音楽を用い表現を含む採点競技「アーティスティックスポーツ」を研究。従来は認められていなかったフィギュアスケートなどが著作物たりうることを明らかにしたこともその一つだ。

また、スポーツにおけるアーカイブの意味も研究し、アーカイブされてのちのちまで残されていく重要性も訴えてきた。

これまでの取材での言葉を引用する。

「研究者としてアーカイブ学も専門の一つとしていて、2020年にアーカイブ学の論文を発表しています。そうした研究の成果によって日本のスポーツアーカイブが危機的状況にあることを知りました。国内においてスポーツアーカイブの中枢機関を担う秩父宮記念スポーツ博物館・図書館が2014年から現在に至るまで休館に追い込まれている状態さえ知られていないわけですから。アーカイブというのは未来を形作る上での礎になりますし、文化の成熟度を示すバロメーターでもあります。そのためスポーツ界のアーカイブが乏しいと、スポーツ文化そのものが深まっていかないのです」

アーカイブされるべきスポーツの資料はさまざまだ。野球ならグローブやユニフォームなど物質的なものがすぐさま思い浮かぶ。フィギュアスケートなら、メダルや衣装などがそれに相当するだろう。

「それらは所有者の快諾を得て、アーカイブを構築しようという意志さえあれば、アーカイブすることが可能です。実際、サッカーや野球は殿堂とともに博物館があり、フィギュアスケートもアメリカのコロラド州に世界フィギュアスケート博物館があって、様々な資料がアーカイブされています」

フィギュアスケートのアーカイブの問題点

だが、フィギュアスケートにあって、アーカイブされにくいものがある。それが演技映像だ。そして最もアーカイブが必要なものでもある。

「フィギュアスケートや新体操のようなアーティスティックスポーツでは、アーカイブは必要不可欠です。なぜならば私たちはゼロからものを創造することはありえません。先人たちが築いたものを参考にさせていただくからこそ、よりよいものを作ることができます。まさに芸術の歴史はそうして発展してきました。『こういう演技があってこういう芸術性がスケーターによって表現されたんだ』という歴史を参考にし、自分の良さも取り入れながら新しい作品、よりよいものが生み出せるのです」

演技の歴史を知る——それは過去の演技映像を観るということにほかならない。つまり演技映像がアーカイブされることの重要性を物語っている。でもアーカイブしにくいのだという。そこには、フィギュアスケートの演技映像ならではの特徴があると語る。

それは、フィギュアスケートが音楽を伴うものであることに由来する。そしてそればかりではなく、アーカイブにあたっての課題が横たわっている。

町田は実践的に、演技映像のアーカイブの困難さと向き合い、そこで具体的な理由と障壁を味わってきた。障壁にぶつかるのみならず、クリアして一つの成果をあげた。

「これはフィギュアスケート界初です」

そう語る実践の経緯と成果とともに、町田は演技映像のアーカイブの問題点を説明する。(続く)

町田樹(まちだたつき)
スポーツ科学研究者、元フィギュアスケーター。2014年ソチ五輪5位、同年世界選手権銀メダル。同年12月に引退後、プロフィギュアスケーターとして活躍。2020年10月、國學院大學人間開発学部助教に。研究活動と並行して、解説、コラム執筆など幅広く活動する。スポーツを研究者の視点で捉えるJ SPORTS放送『町田樹のスポーツアカデミア』では企画・構成・出演を担う。著書に『アーティスティックスポーツ研究序説』(白水社)『若きアスリートへの手紙――〈競技する身体〉の哲学』(山と溪谷社)。

松原 孝臣

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加