世界に嵐を起こした?ぐるぐる円陣を生んだ「ボトムアップ理論」:高校サッカーに見る未来の教育の可能性

世界に嵐を起こした?ぐるぐる円陣を生んだ「ボトムアップ理論」:高校サッカーに見る未来の教育の可能性

  • アゴラ
  • 更新日:2022/01/15

全国高校サッカー選手権、青森山田高校が圧倒的な強さで100回大会を制した。その中で、ベスト4の高川学園(山口県)のぐるぐる円陣が世界的にも話題を呼び起こした。

知らない方は、是非映像を見てもらいたい。

「ぐるぐる」とは?

高川学園サッカー部の「ぐるぐる」円陣FKとは、正式名称「トルメンタ」。スペイン語で、嵐という意味である。

具体的に解説すると、コーナーキックの時に、数人が手をつないで、ぐるぐるんまわり、かく乱す、ボールが来た瞬間手を放し散り、ゴールを狙う方法である。

専門家の言葉を借りて専門的に説明すると「敵エリア内で、5人の選手が手を繋いで円陣を組むと、楽しげに笑顔でグルグルと回転。まるで幼稚園で戯れるチビっ子のような動きを見せる。やがてボールが蹴り出される瞬間に5人は一斉に散らばって敵マーカーをかく乱し、それぞれがゴール前に猛進」(参考:サッカーダイジェスト記事)ということだ。

これが相手を攪乱し、コーナーキックから得点を奪い、山口県代表の高川学園サッカー部はベスト4まで上り詰めたのであった。そして、このトリックプレーは世界のサッカーフリークの話題もさらった。ものすごい注目を集めた。

ぐるぐる円陣のポイント

この作戦のポイントは5つ

手をつないだ状態で回転することで相手守備陣を攪乱、相手のマークを無力化「事前に体を密着されない上、手をほどいた選手たちがばらばらになるため、マークが外れやすく」(参考記事)「視線とタイミングを外す両方を備えているのが特徴」(参考記事)様々なパターン発展型やなどがある楽しげに笑顔でなんとも異次元・違和感のある空間が出現する

そして、この作戦の最も凄いところはその「独創性」であろう。

なぜ生まれた?ボトムアップ理論の実践

この「奇抜」な作戦、なぜ生まれたのか。生徒のアイデアが発端だそうだ。

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takasuu/iStock

それを聞いて、筆者が注目したのは、指導者だ。指導者である江本孝監督は「好きなことをやりなさい」という言葉をかけているなど、選手の自主性に任せた指導法をとっている。特に、高川学園サッカー部は「部署制度」と呼ばれる選手を各部署に分け、いろいろな活動を行ったりする制度を実施している。部活の中に、部活、である。大所帯で、かつ、Aチーム(1軍)のレギュラー以外のメンバーに役割を与える活動だと考えられる。これには、「個々の自立につなげる狙い」があると監督も話している。

こうした江本監督の取組みには、高校サッカー界で広がりつつある「ボトムアップ理論」が垣間見れる。近年、サッカー界で注目を浴び、その理論を実践するチームも増えてきている手法だ。

ボトムアップ理論とは「畑喜美夫先生が構築した、生徒を主役としたチーム運営を行う指導方法。生徒は練習メニューから公式戦メンバー、戦術、選手交代など全てを決定し、指導者は必要に応じて問題提起を行いながら生徒の可能性を引き出すファシリテーター役として機能する」理論である。

簡単に言ってしまえば、生徒が自主的にすべて決め、行う、先生はちょっと引いてアドバイスするということだ。これまでのトップダウン、監督の言うことは絶対的なスポーツ界の常識からすると信じられない手法だろう。

さらに、特徴をまとめると・・・

コンセプト:「現場主導の組織運営」スタイル:監督の指示に選手が従う「上意下達」とは逆の「下意上達」大事な考え方:現場が主役。具体的な方法:選手が観て、感じて、気づいて、実行する目的:選手の力を存分に引き出し、監督の器以上にチームは成長させる。効果:選手たちの自主性向上、主体性が高められる。

生徒が自分たちで考えて、日々実践していく、中には、試合に出るスタメン(スターティング・メンバー)も生徒たちが決める、ルールも決めるということもあるだろう。校則で茶髪を禁止する高校がなくならない令和時代の教育現場にとっても仰天の取組みが行われている。

日本の権威主義に真っ向から対立するこの理論。教えたがりの指導者にとっては、自分の存在意義を問われてしまうことにもつながる。

筆者はこの理論は3つの可能性があると考える。

第一に、主体性と自主性を引き出すこと。一定の前提があれば、自分たちで議論しながら試行錯誤して進めていけるし、主体性や自主性が高まる。指導者は適切に介入できればいい。

第二に、学ぶ意欲を増させること。やってみて、うまくいかない場合、皆で対話して考え抜いて、問題解決を進める。そのなかで必要な学びをしようと生徒たちは努力する。何も言わなくても、だ。

第三に、集団でのいわば「プロジェクト」を通して、役割や自分の適性を理解できること。チームの中で、撮影を担当したり、動画編集を担当したり、画像解析を担当したり、チームの能力分析を担当したり、戦術分析を担当したり、相手対策を考案したり、練習計画を考えたり、練習メニューを考案をしたり、チーム編成を調整したり、プレーヤーに外部からアドバイスをしたり、食事メニューの知識を提供したり、トリックプレーを考案したり、リーダーシップをとったり・・・色々担当する役目がある。

経験や実践を通じて、興味を持ったり、自分自身の未来の可能性に気づいていくのである。ただし、注意も必要で、放任にならないように観察していくこと、全体のバランスや我慢も必要のようだ。

ボトムアップ理論の可能性

とはいえ「学び」はとても大きいのだ。筆者は、ある高校でボトムアップ理論を授業を担当する機会を幸運にもいただき、実践してみたが、とてつもない衝撃を受けた。彼ら・彼女らは、自分たちが楽しいと感じたことに対しては本当に貪欲であり、加速度的な成長を見せるのだ。

広島観音高校サッカー部で畑喜美夫さんが本格的に開始して以来、ボトムアップ理論の動きはどんどん広がっている。広島県安芸南高校、東京都堀越高校、長野県松商学園高校、滋賀県綾羽高校など、その動きはサッカーだけではない広がりを見せている。

新たな教育の形をそこに見る。権威主義に従う従順な子供たちはそこにはいない。自分たちで考えて進めて挑戦していく。失敗することからも学ぶ、そして仲間とともに成長し合うのだ。

教育の場はもちろん、ビジネスや職場にもプロジェクトレベルで導入がすすんでいるようだ。

命令に従うことで「指示待ち」に権威や前例に従って「思考停止」「リスク回避」に自分の言いたいことを我慢して「ストレスフル」にルールやまわりの空気を読みすぎて「楽しむ自分を忘れ」結果として、「学ぶ機会や成長のチャンスを諦める」

といったことが防げる。

高校サッカーの「ぐるぐる」、創造性。

こうした動きを日本社会のいたるところにて見てみたいものだ。

西村 健

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