武道館でのイベントはMCバトルの魅力を損なう?   Lick-G と語る「ブームの功罪」<ダメリーマン成り上がり道 #36>

武道館でのイベントはMCバトルの魅力を損なう? Lick-G と語る「ブームの功罪」<ダメリーマン成り上がり道 #36>

  • ハーバービジネスオンライン
  • 更新日:2020/10/17

戦極MCBATTLE主宰・MC正社員が、MCバトルのシーンやヒップホップをビジネスやカルチャー面から語る本連載。今回は21歳のラッパー・Lick-Gとの対談の最終回だ。今のMCバトルを「予定調和」と語るLick-G。MC正社員はバトルへの再参戦の説得を試みるが……結末はいかに?

◆今のMCバトルは「予定調和の極み」?

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MC正社員(左)とLick-G(右)

MC正社員(以下、正社員):「音源でバズってバトルに出なくなった人のなかには、バトルのことを悪く言う人とかもいるじゃん。昔はめっちゃ出てたのに、音源を出したあとはインタビューですごい悪口言っていて、『自分が出てたのに何でそんなこと言うの?』って思うんだけど。Lick-Gはバトルに出なくなっても、自分からはそういうことは言わないじゃん。バトルに対しては感謝のほうが多いんじゃない?」

Lick-G:「それはそうですね。さすがに感謝はあります」

正社員:「この先のMCバトルにはどうなってほしいと思う?」

Lick-G:「今のMCバトルは予定調和の極みになりつつありますよね。本当はフリースタイルもMCバトルも、それと正反対の面白さがあるはずのものなのに。その変化の流れにラッパーも巻き込まれてるし、『それはマズいだろ』って思ってます。『お客さんも本当に楽しめてるのかな?』って思いますし」

正社員:「お客さんは楽しんでいるよ。予定調和に見えるかもしれないけど、そこにはその日その日の大会の流れとか、ドラマもあるわけだし」

Lick-G:「そういう要素が入ってくると、バトルの見方も変わってきますよね。フリースタイルのラップはスリルを楽しむものだし、MCバトルもバチバチに戦うときのハラハラ感が面白いわけじゃないですか。今はお客さんが増えても、そういうよさが消えている感じがします」

――その「予定調和っぽさ」は、ご自身がバトルに出はじめた7年ほど前と比べて強まっていますか?

Lick-G:「どうですかね……。いま話していて気づきましたけど、自分がバトルに出始めたころ、勝敗に納得ができなかったのも、同じ予定調和のせいかもしれないです。もともとMCバトルはヒップホップのなかのサブカルチャーの位置づけで、もともと予定調和な部分とか、余興的な要素があったと思うんですけど、それがシーンが大きくなるなかで拡大されて見えているだけなのかな、と」

正社員:「あと、さっきからLick-Gがバトルについて『予定調和』って言葉を使ってるけど、バトルが支持されているのは、楽曲にはないドラマ的な要素があるからだと思うんだよね。やっぱり、2人のMCが戦っている熱量とか、会場の空気とか。それが言い方によっては『予定調和』に見えるのかもしれない」

◆「またMCバトルを」の声を消したい

正社員:「この先、Lick-Gがまたバトルに参戦することはないの?」

Lick-G:「ないですね。このインタビューでも繰り返し言ってますけど、やっぱり『客観的に見ても自分が勝っている』と思うバトルでも負けることがあるし、勝敗がついたらお客さんはその結果しか見ない。今のバトルは、より会場の空気に左右される環境になってきてるし、そういう場所に身を置くのはちょっと……と思います」

正社員:「俺はLick-Gに戻ってきてほしいけどね。正直に言う。戦極に出てほしい!」

Lick-G:「出ないですね。大会に出ても優勝しないと意味がないですし、『もうバトルに出ない』という決断も、ここまで話してきたような違和感をずっと感じ続けていて、それでもずっと出続けたあとでの話ですから」

正社員:「曲のリリースのタイミングとかで出てほしいけどなぁ」

――今でも「バトルに出てほしい」とはよく言われますか?

Lick-G:「そうですね。でも今は自分の音源の底力で勝負をしたいし、そこでいいものを作れれば、『またバトルに』という声も聞こえなくなると思います」

正社員:「まあそうだね」

――会場の空気に左右される観客の判定ではなく、審査員の判定だったり、もう少し客観的な判定が行われるバトルだったら、出てもいいかな……という気持ちはありますか?

Lick-G:「うーん。そういうシステムの大会では、実際に優勝できたことが多いんですけど、審査員がいても会場の雰囲気に流されることはあるんですよね。僕としては勝敗がつくこと自体がもうNGなので、やっぱり出ないです」

◆大箱のMCバトルは面白さを薄める

正社員:「じゃあ今後戦極が10000人規模でやったりしても難しいってこと?」

Lick-G:「むしろ大規模すぎる会場でやると、どうしても密度とか熱量が薄くなっちゃう気がするんですよ。バトルとかフリースタイルにある余興的な側面が、拡大されてしまうというか」

正社員:「Lick-Gは『ヒップホップのカルチャーのなかでMCバトルはサブにあるべきだ』という考え方なんだね?」

Lick-G:「僕の考えというより、会場の規模を拡大させるとバトルの持つ本質が出てくる、という話ですね。『あの密度とか空気感は、箱がある程度の大きさだったからこそ演出できていた物だったんじゃないか』みたいな疑問が自ずと出てくるんですよ」

――過去のインタビューでは、バトルの判定の基準では「韻」が重視されすぎなんじゃないかという話もされていました。その印象は変わらないですか?

Lick-G:「『フリースタイルダンジョン』で勝った最後のころは、そうした基準もねじ伏せられた感覚がありましたけど、基本的に韻が重視されるのは昔から変わってないと思います。見る側も韻が一番わかりやすいから、そこでアガっちゃうのもあるだろうし。そういう空間にまた身を投じるのは、さすがに違うなという感じですね」

正社員:「Lick-Gのバトルの話は面白いですよね。『それを言われちゃな』みたいな話もあるけど、納得できる部分も多いし。今はもうバトルも全然見てないの?」

Lick-G:「ほぼほぼ見ていないですね。このあいだ戦極の21章のDVDをもらって、飛ばし飛ばし観ましたけど、やっぱり予定調和というか、観る前の『こんな感じなんだろうな』という印象は覆らなかったです」

正社員:「そうか。でも俺としてはそのスタンスのLick-Gに出てほしいけどね。俺のほうがうまいよって自信はあるけど、今のバトルに全く興味がないっていう。その状態で出てきたら、見てるほうはムチャクチャ面白いと思うよ。どう?」

Lick-G:「出ないですね。ここでちゃんと言っておかないと変に期待をもたせちゃうし、自分のなかでもちゃんとはっきりさせたいし」

正社員:「……じゃ、一旦その話は終わりで」

◆MCバトルの大会には「2000%出ることはない」

正社員:「今後の活動はどうですか?」

Lick-G:「そうですね。バトルで自分のラップ面白いと思ってくれた人にも、自分の曲により興味を持ってもらうために、フリースタイルで作った曲とかもこの先は出していく予定です。バトルを見てきた人たちにも、何か刺激を感じられる活動ができたらなと思っています」

正社員:「なるほどね。じゃ、曲をリリースするんだね?」

Lick-G:「そうですね。アルバムは延期に延期を重ねちゃっているんですけど、早めに出したいです。あと無観客のライブ配信イベントなどにも出演していますし、自分のインスタでもライブやフリースタイルを見せていこうと思っています」

――正社員さんも「バトルの盛り上がり」と「音源の盛り上がり」をうまくつなげるということは常に考えているんじゃないでしょうか。

正社員:「MCたちを見ていると、バトルと音源の両軸で活動を続けていくのは本当に難しいと思うし、しかもそれで売れるのはもっと難しい。あと、さっき話したバトルの熱量とか、会場の空気を音源につなげる方法は俺もずっと考えてるんだけど、なかなか難しいんだよ。結局みんな『悪口の言い合いが面白い』みたいなところもあるし、某ラッパーも『みんな俺がキレイに韻を踏むこととか、キレイにラップをすることよりも、むっちゃ悪口を言うことを期待してるからなぁ』って言ってたし(笑)」

――それは切ないですね(笑)。

正社員:「MCバトルの世界では、うまくラップしないほうが勝ったり、荒々しくラップしたほうが勝ったりするから、そこも音源とは違うのかなと。俺はもう『バトル屋さんだし』みたいな立場だから、今まで色んなことしたし。バトルと音源をつなげる方法みたいなものは、それこそLick-Gみたいな若い人が新しいことをしてくれたらと期待しています」

――MCバトルはラップという音楽で勝敗を争う競技ですけど、そうやって音楽性以外のものが入ってきちゃうところが、よさでも悪さでもあるんでしょうね。

正社員:「Lick-Gはそれで勝敗がついちゃうのがイヤなんだもんな。判定がつかないバトルならどう?」

Lick-G:「判定がないならいいですけど」

正社員:「相手は誰がいい? SKY-HIでやろうよ笑」

Lick-G:「今は『誰とやりたい』みたいのは一切ないですし、やっぱり出たくないですね」

正社員:「そっか。じゃあ、誰かとやりたい気分になる時期がきたら、また話をします。でもLick-Gはまだ21歳でしょ 戦極の『U-22 MCBATTLE』だって出れるのに」

Lick-G:「絶対に出ないです。2000パー出ないです」

正社員:「俺、『Lick-Gを戦極に出してくれ』ってヘッズから言われて困ってるんだよ(笑)。このままだとあと100回くらい誘うと思うよ、出ないなら出ないって言ってくれよな(笑)」

Lick-G:「そうですね。はっきりさせときましょう(笑)」

<構成・撮影/古澤誠一郎>

【Lick-G(リック・ジー)】

21歳の神奈川県逗子市出身のヒップホップアーティスト。中学時代から楽曲制作を始め、。2018年には自主レーベルZenknowを立ち上げ。2019年にはYouTube Japanがブレイクが期待されるアーティストを紹介する「Artists to Watch」にも選出された。今年は海外プロダクションのプロジェクトにも参加。最新情報はTwitter@lickgzなど各種SNSでチェック!

【MC正社員】

戦極MCBATTLE主催。自らもラッパーとしてバトルに参戦していたが、運営を中心に活動するようになり、現在のフリースタイルブームの土台を築く

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