池上彰が語る「日本人の読解力急落」の衝撃――なぜ、読解力が必要なのか?

池上彰が語る「日本人の読解力急落」の衝撃――なぜ、読解力が必要なのか?

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2020/11/21
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「日本人の読解力が急落」――2019年のそのニュースは各新聞を賑わせ、日本中に大きな衝撃を与えた。では、そもそも“読解力”とは何を指すのか、人生においてどう位置づけられるのか…。
たとえば、「場違いな発言や行動をしてしまう人がいるけれど、いったいどうして?」「仕事がうまくいく人といかない人の違いは何?」「すぐ人と打ち解けられる人はどこが違うの?」などなど……その答えが「読解力」。
池上先生が、人生でいちばん身につけたい生きる力=「読解力」のつけ方を伝授。社会に出たらこの力こそ最大の武器です。
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「日本人の読解力急落」の衝撃

2019年12月4日、新聞各紙が一斉に「日本の読解力15位」「続落」「後退」と報じました。79ヵ国・地域の15歳(日本は高校1年生)約60万人の生徒を対象に実施された2018年の「PISA(学習到達度調査)」で、日本の読解力の順位が、前回2015年の8位(516点)から15位(504点)に下がったというニュースです。

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※画像はイメージです。Photo by iStock

日本経済新聞は「読解力、過去最低の15位」とショッキングな大見出しを打ちました。読売新聞は翌5日も、このニュースを受けて「国語力が危ない」という連載記事を一面トップに掲載し、「この公園には滑り台をする」「文章作れぬ若者」と見出しをつけています。ダウンタウンの松本人志さんもツイッターで「日本の子供達の読解力が世界的にみて劣ってるらしい。。。」と話題にするなど、この「読解力15位」のニュースは波紋を広げました。

PISA調査とは、経済協力開発機構(OECD)が実施している国際的な学習到達度調査で、PISAはProgramme for International Student Assessment(国際生徒評価のためのプログラム)の略称です。

「21世紀に必要となる主要な資質・能力」として、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3つを調査しています。この2018年調査において、日本の数学的リテラシーは6位(527点)、科学的リテラシーは5位(529点)で、世界トップクラスの水準を維持していました。読解力だけが大幅に順位を下げたということで、大きく報じられたのです。

「読解力」は人生に欠かせない力

さてこの「読解力」、訓読みをすれば「読み解く力」ですが、これはそもそもどんな力を指すのでしょうか。

「小説を読んで登場人物の気持ちを想像する」「評論を読んで著者の主張を考える」といった、国語の授業で問われていたことを思い浮かべる方が多いかもしれません。

それももちろん「読解力」で、学びの場で重視される力です。しかし私は読解力というものを、もっと広義にとらえたほうがいいのではないかと考えています。

読解力は、国語の授業中だけではなく、生きていく上で常に必要となる力です。日常生活においても、住宅や携帯電話の契約書、税金や保険の手続き書類、友人とのメールやSNSでのやりとりなど、正しく理解すべき文章は身の回りにあふれています。

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※画像はイメージです。Photo by iStock

仕事でも、上司や同僚、取引先からのメール、企画書、仕様書、発注書、契約書など、さまざまな文章を読む機会があるでしょう。それらを読んで理解する力がないと、思わぬ誤解を招いたり、コミュニケーションがとれなかったり、仕事自体が立ち行かなくなったりしてしまいます。

文章だけでなく、会話にも読解力は必要です。「回りくどい言い方をしているけれど、この人の本音は違うな」「説明が下手だけれど、要するにこういうことを言いたいんだな」などと、相手の意図をこちらで察するということです。

たとえば「大丈夫」という言葉は、状況次第でさまざまな意味にとれるため、読解力がいる言葉だと言えるでしょう。転んだ子どもに「大丈夫?」と聞いて、相手が笑顔で元気よく「大丈夫!」と答えたら、「そんなに痛くなかったよ」だとか「問題ないよ」とかいった意味になるでしょう。しかし元気がなく口数が少なくなった同僚に「大丈夫?」と聞くという状況では、相手がいくら「大丈夫です!」と言ったとしても、それは心配させまいという気遣いだったり、強がりだったりで、本当は大丈夫ではない、と読み解くほうが自然でしょう。

他にも「その発想はユニークだね」というセリフを、あなたはどう受け止めるでしょうか。これも状況によって「独創的で本当に素晴らしい」という賞賛なのか、「面白いけれど、ウチの会社の実情を考えたら到底無理だね」という含みのある言い方なのか、「面白いけどウケ狙いでしょ?」と呆れているのか、あるいは「話にならないよ」と馬鹿にしているのか、さまざまな意味に読み解けるのではないでしょうか。

状況次第というのはつまり、そこに至るまでの文脈だったり、相手の表情や態度など言葉以外の情報「ノンバーバル(言葉を用いない)コミュニケーション」だったりが関係するということです。

2020年春、新型コロナウイルスの流行で日本全国に「緊急事態宣言」が出て以降、テレワークは急速に普及しましたが、オンライン会議やメールでは、相手の状況がわかりづらいという不便さを感じた人も多いのではないでしょうか。

会社という場でじかに接していれば、相手の表情や態度から、忙しそうだな、あるいは余裕がありそうだな、ということが容易にわかり、報告や相談などもタイミングを計りやすかったのですが、テレワークではノンバーバルコミュニケーションが不足し、相手の状況を読み解く手段が限られるため、ストレスが溜まるのです。

友人や恋人、家族や同僚といった身近な人たちとコミュニケーションをとる際には、言葉や表情、態度、場の流れなどから相手の伝えたいことをきちんと理解できないと、人間関係がこじれてしまいます。反対にそれをきちんと読み解くことができれば、人間関係はより良好になることでしょう。

読解力は仕事にどう役立つか

読解力はこのように、ビジネスにおいても当然欠かせないものです。

たとえば営業職の場合、取引先からの発注書に書かれているさまざまな条件を丁寧に読み込まなければ、相手の要望どおりに納品することはできません。それができなければ、社会人として問題です。

優秀なビジネスパーソンは、部品を納品して終わりではなく、「取引先はなぜこの部品を欲しがっているのだろうか」と発注書を読み解きます。この部品で相手が何を作ろうとしているのか状況を察知できれば、「わが社にはこんな部品もあります」「こういう提案もできます」とビジネスチャンスを広げていけるからです。読解力は、仕事に直結して役に立つのです。

星野リゾート代表の星野佳路(よしはる)さんは、軽井沢の実家である「星野温泉旅館」を再生し、ホテルや旅館を所有せず運営サービスの提供に特化するビジネスモデルで、日本各地のリゾートや旅館を再生させたことで有名です。現在は海外進出もしています。星野さんは運営するホテルそれぞれが置かれている状況を丁寧に読み解き、新しい需要を掘り起こしています。

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「OMO7」ホームページより

星野リゾートが運営する「OMO7旭川」は、1920(大正9)年に「北海屋ホテル旭川支店」として開業したという、長い歴史を持つホテルです。

初めはスキー旅行者の需要はゼロだったそうですが、欧米など世界のスキーリゾートは標高の高いところばかりで、都市から非常に近い距離でスキーを楽しめるのは日本の旭川しかない、ということに気づきました。そこで、2018年春にリニューアルオープンした際に「旭川、スキー都市宣言!」と掲げて、新しいセールスポイントをつくり出しました。

ホテルからバスで1時間以内に行けるスキー場は3つもあり、宿泊客はその日の天候や積雪量を見てどこに行くか決められる上に、吹雪でスキーができない日には旭山動物園に行ったり、旭川のグルメを味わったりと、予定を変更して観光を楽しむこともできます。

この売り出し方により、2019年12月から2020年1月のスキー旅行者は、宿泊者全体の25%にまで上ったそうです。夏に比べて冬の観光客が少なかった旭川に、新たなビジネスチャンスを見いだしたのです。

世界ルールを変えた緒方貞子さん

さらに壮大な話になりますが、「読解力」を発揮することで世界を変えたのが、難民を助けるための国際機関である国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のトップを1991年から10年間務めた、故・緒方貞子さんです。

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緒方貞子さん Photo by GettyImages

緒方さんが最初に力を発揮したのがクルド人難民問題です。2000万~3000万人いるとも言われる国を持たない世界最大の民族・クルド人は、イラクやイラン、トルコ、シリア、アゼルバイジャンなどに居住しています。

湾岸戦争(1991年)を機にイラク国内のクルド人が武装蜂起し、イラク政府軍はそれを弾圧しました。このため約180万人のクルド人がトルコやイランに向かって避難しましたが、トルコ政府はクルド人たちの入国を認めず国境を封鎖。彼らはイラクの国内避難民として国境地帯で立ち往生してしまいました。

そこでUNHCRに着任したばかりの緒方さんが、クルド人たちを助けるように指示しました。しかし職員たちから、「UNHCRは難民を助ける機関です。難民とは居住していた国で危険にさらされ国外へ逃げてきた人のことです。このクルド人たちは国内避難民で、難民ではありません」と反対されてしまいました。規定に忠実なのかもしれませんが、まさしく官僚答弁といった具合です。

それでも緒方さんは食い下がり、「困っている人を助けるのが私たちの仕事なんだから、とにかく助けなさい」と命令して、結果的にUNHCRはイラク国内に難民キャンプを作って援助活動を行い、クルド人を助けました。

この緒方さんの行動によって、「国内避難民」も「難民」であると定義が変わり、現在のUNHCRは難民も国内避難民も両方を助けるようになったのです。

それまでUNHCRは、民族、宗教、政治的な主張の違いなどで迫害され、国外に逃げた「難民」を助けていました。クルド人は民族や政治的な主張が違うことからイラク国内で命の危険にさらされ、国内を逃げ回っていましたが、国外には出ていないため「難民」ではありませんでした。

でも緒方さんは、そもそもUNHCRがなぜできたのか、困っている人を助けるためではないか、国内避難民も困っている人なんだから当然助けよう、と考えたのです。緒方さんには、「ものごとの本質を読み解く力」がありました。

読解力は、このように生きる上で本当に大切な力です。それなのに「日本人の読解力が落ちている」というデータを出されたら、心配になりますね。では実際のところ、本当に日本人の読解力は危機的状況なのでしょうか。また、読解力を身につけるにはどのような方法があるのでしょうか。次回ではその点を考えていきましょう。

「読解力」はいつでもどこでも伸ばせます。ニュースを見ていても、ふだんの「書く」「伝える」「読む」などの場面でも、読解力を伸ばすコツを池上先生が教えます。仕事や人間関係で必須の力がつく面白くて役に立つ講談社+α新書『なぜ、読解力が必要なのか?』は、好評発売中!

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