『家が好きな人』井田千秋さんが語る理想のおうち作り「物件の間取り図ってワクワクして...」

『家が好きな人』井田千秋さんが語る理想のおうち作り「物件の間取り図ってワクワクして...」

  • CREA WEB
  • 更新日:2023/05/26

2023年2月に発売されたコミック&イラスト集『家が好きな人』は、5人のキャラクターの生活を切り取った短編集です。約2カ月で重版7刷、電子書籍と合わせて累計発行部数10万部のベストセラーとなりました。読者からは「自分の好きな時間を楽しんでいいと後押しされた」と癒やされる人が続出しています。同書の誕生秘話を、著者の井田千秋さんにお聞きしました。

出版のきっかけはコミティアでの出会い

――コミック&イラスト集となった経緯をお聞かせください。

井田 オリジナル作品の即売会「コミティア」に出展したのがきっかけです。当時販売していたエッセイ本『たとえばの話』を見て、実業之日本社の編集者さんが「漫画やイラストで本を出しませんか」と声をかけてくれました。

私は漫画を描いた経験が少なかったので、「まずは自由に描かせてほしい」と時間をいただき、2020年に書籍の第1章「ササさん宅」にあたる同人誌版『家が好きな人』を制作。その漫画をSNSに投稿したらフォロワーさんからの反応もよかったので、同人誌版を元に書籍化していきました。

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『家が好きな人』より。

――作品のコンセプトは何ですか?

井田 私の自主制作は、架空の部屋で過ごすキャラクターのワンシーンを切り取ったイラストがほとんど。そういう雰囲気を漫画でも表現したい、から始まりました。イラストが一瞬を切り取るのに対して、漫画では家の中を移動させたり、時間経過を描けたりします。架空の部屋の間取りやインテリア、キャラクターの仕草など、より詳細にお伝えできると思いました。

「自分だったらこういう生活に憧れる」が作品の発端になっているので、自然と登場人物には女の子ばかりが集まってきました。

――今作の末尾には、幼いころに遊んだ「不動産のチラシの間取り図に、家具を描き入れる」延長のように感じている、と書かれていますね。

井田 物件の間取り図って見ているとワクワクして、「自分の部屋だったら」と空想が広がっていくんです。ドールハウスの遊びにも通じる気がしますが、登場人物の暮らしを細かに表現した絵本も好きなので、それが作風につながった気がします。

キャラクターは、ちょっと郊外に住むイメージ

――コミック&イラスト集に登場する5人のキャラクターたち。生活を切り取る上で、意識したことはありますか?

井田 現実的な表現と、イラストだからこそ実現できる憧れのバランスを意識しました。例えば、カエさんの「収納で眠る」もそう。読者と地続きにある世界で、憧れだけれどできるかもしれないバランスで描きました。

――キャラクターたちは、みんな東京に住んでいるんですか?

井田 どうでしょう。第4章のミドリさんだけ、少し離れた場所に住んでいるイメージなんですけど。みんな都心よりはちょっと郊外に住んでいるんじゃないでしょうか。

――ミドリさんの家の間取りは、半地下の書斎や2階のベッドルームが印象的です。

井田 彼女の家には私の憧れが詰まっているんです。ふすまの奥に書斎があって、2階にベッドスペースがある間取り。私の作品にも昔から共通して登場します。

一方で、最終章のアキラさんは、「これから一人暮らしを始めるぞ」というキャラクターで、シンプルなワンルームに住んでいます。出版時期が2月だったのもあって、新生活を始める読者と一緒にこれからの日々が楽しみになるような描き方を目指しました。

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早起きに成功したササさんの朝ごはん 『家が好きな人』より。

漫画『チム・チム・チェリー!』でテディベアにハマる

――どの生活にも、ぬいぐるみなどで「クマ」が登場しますね。

井田 あゆみゆい先生の漫画『チム・チム・チェリー!』(講談社)でテディベアの存在を知ってから個人的にずっと惹かれているモチーフなんです。

女性の部屋を描く時ってファンシーなアイテムを置きたくなるんですが、ネコやウサギのぬいぐるみを置くとファンシーに寄りすぎる感覚が個人的にあって。それがクマだと塩梅がいい。固定キャラがいるわけではないんですけど、ユーモラスな存在として描いています。

――一方で、スマホは現実に引き戻されるアイテムだから登場させなかったそう。あえて描かなかったものはほかにもありますか?

井田 彼女たちの職業や年齢、パートナーの有無といった情報にはなるべく触れませんでした。ミドリさんのみ、在宅仕事ということもあり職業を明言しています。

今回の本は、読者さんに親近感を持ってもらいたい、その部屋の住人のような気持ちで見てもらえたら…という思いもあります。そのためには、キャラクターの輪郭がはっきりしすぎてしまうと少しノイズになってしまうかな、と極力シンプルな情報にとどめました。

また、この本は家そのものが主役でもあります。家の様子を詳細に描くことで、そこから彼女たちについて感じ取ってもらえれば充分かなという気もしています。

昔は部屋にこだわりがないタイプだった

――窓や玄関から入る光の描き方も印象的でした。

はい、光の表現には気を使いました。私はもともと色塗りに苦手意識があるんですが、1冊分の漫画を描くのに朝昼夜とか季節感のバリエーションが必要で。雨の日の暗さ、夏の日差しなどは意識して描きました。

――架空の部屋を作る上で参考にする資料は、やっぱり雑誌ですか。

井田 雑誌も見ますけど、最近はInstagramを参考にしています。一般の方が投稿しているので、雑誌よりも生活感がある気がして。人それぞれの好みやスタイルが見えてくるので、参考になります。

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『家が好きな人』より。

――本を読んでいると井田さんのお部屋が気になってくるんですが、どんな感じなんですか?

井田 よく聞かれるんですが、荒れ放題です(笑)。私生活でできないことを絵で発散しているところがあるので。机の後ろには本の山が10くらいあって、ヤバイです。

――登場人物で、ご自身に近いキャラクターはいますか?

井田 カエさんですね。お風呂に入るのが面倒とか、休みの日に寝過ごしたとか、ちょっと怠惰な様子を描いたので、自分に近いかもしれないです。

――著書ではキャラクターのこだわりの品が紹介されています。ご自身の生活でも、こだわっていることやものがありますか?

井田 昔はこだわりがない方だったんですが、最近は好きなもので揃えたいって思うようになりました。「適当に買えばいいや」じゃなくて、「自分の好きなものを大事に使おう」って。

最初に一人暮らしを始めた時は大学生で、100均なんかの手近な食器を使っていたんです。そういう食器ってすごく気に入って買ったわけじゃないのに、長持ちするので捨てられないんですよね。それはとてもいいことではあるんですけど。年を重ねたら自分の好みがわかるようになってきて、「好みのものを使いたい」という欲が出てきたんです。結果的に、気に入った食器の出番が多くなるんですよね。

――理想のおうちに住むためにやっていることはありますか?

井田 今の家には6年ほど住んでいるのですが、そろそろ引っ越したいと思っていて。理想の家を作るチャンスだな、と。まずはミドリさん宅のような大きな本棚を買って、床に散らばっている本を収納したいですね。

井田千秋(いだ・ちあき)

書籍の挿絵、装画などを手掛けるイラストレーター。2023年2月に上梓した『家が好きな人』(実業之日本社)が累計発行部数10万部のベストセラーとなる。著書はほかに『わたしの塗り絵BOOK 憧れのお店屋さん』(日本ヴォーグ社)など。児童書では『へんくつさんのお茶会』(学研プラス)、『ぼくのまつり縫い』(偕成社)シリーズなどの挿絵を担当する。自主制作では、架空の部屋・生活シーン・家具などのモチーフを好む。
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文=ゆきどっぐ

ゆきどっぐ

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