小学校に現れたモンスターマザー「子供を守るのは学校の責任でしょー。」

小学校に現れたモンスターマザー「子供を守るのは学校の責任でしょー。」

  • 幻冬舎ゴールドライフオンライン
  • 更新日:2023/01/25
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兆し

疑惑

吾郷は疑惑を整理して、自分には何ができるか考えた。

山北開発事業においての疑惑は、

一、佐分利市長と黒岩産業の結託、つまり贈収賄

二、市有地払い下げ及び開発事業委託での談合

三、市長選におけるグレーで巧妙な事前運動

四、すべてを実行するための裏金作り、つまり不正会計

証拠を見つけるのに、自分の立場で最も手の届きそうなのは談合だ。開発事業関連資料を精査すれば何かが見つかるかもしれない。だが、上司の目があるから簡単ではない。次はNPOを使った事前運動か。月生会の報告書を精査すればヒントはあるかもしれない。

だが、こちらもおそらく閲覧を妨害する何かがあるだろうし、閲覧できたとしても簡単に見破られる証拠を残すような相手ではなさそうだ。壁は厚い。といってこのまま見過ごしては早晩、山北西も払い下げられ、開発の手が入るだろう。その前になんとしても阻止する方法を考えなければ。吾郷は拳で額をとんとん叩いた。

モンスターマザー

五月。月城小学校では放課後校庭開放が始まり、大勢の子供たちが遊んでいる。美南と優もいっしょだ。その集団の中で我が物顔に振舞っている、四年生にしては体格の大きい子がいた。黒岩健太だ。数名の子分のような子供たちを従えて、健太は砂場で遊ぶ優たち二年生に近づいて言った。

「おい。どけ」

「ちょっと黒岩くん。こっちが先に遊んでるんでしょ」

優たちを見守っていた美南が文句を言う。

「へーえ。じゃいいよ。遊んでな」

健太はそう言って仲間と砂場に入り、キャッホーと叫んで砂を蹴り始めた。砂が優たちに降りかかる。顔にかかって泣きだす子もいる。

「やめなさいよ!みんなあっちにいこ」

美南は優たちの手を引いて別の場所へ移動させた。あちこちで遊びの輪ができ、校庭には子供たちの興奮に満ちた歓声が響く。

……子供はこうでなくちゃ。

見守りにきた里美は、その様子を見て微笑んだ。しばらくすると、校庭の片隅で子供たちが騒がしくなった。

「何これ。カワイー」

みんな集まってくる。そこには、どこから迷い込んだか、淡い黒と白の羽毛で覆われた小さな鳥がよちよちと歩き回っている。

どけどけ、砂場で遊んでいた健太たちも駆け寄ってきた。

「なんだー、これ」

健太はその鳥を掴みあげた。それを見た美南が叫んだ。

「あぶない!捕まえちゃだめ。その子はカラスのヒナよ」

「これのどこがカラスだよ。なんであぶねーんだ。バーカ」

健太たちはその鳥をラグビーボールのように放りっこを始めた。

そのとき、どこからか二つの黒い影が音もなく健太に近づいた。

「あぶない!」

里美の叫びと同時に、威嚇の声と激しい羽音を響かせて二羽のカラスが襲った。悲鳴をあげて逃げ惑う健太。あわてて放られた鳥は地面に衝突してぴくついていたが、やがて動かなくなった。カラスは狂ったように健太に襲いかかる。くちばしが健太の頭を狙い、爪が首を狙う。健太は泣き叫びながら倒れこんだ。倒れこんだ健太の体に、駆けつけた里美が覆いかぶさった。カラスは里美を容赦なく攻撃する。子供たちは恐怖で泣き叫び、あるいは金縛りにあったように動けない。

騒ぎを聞きつけた教師たちが、脱いだジャケットや手にした箒(ほうき)で里美を襲っていたカラスを追い払った。ようやく身を起こした里美の後頭部からは、かなりの血が流れている。彼女の下には額から一筋の血を流して泣きじゃくる健太がいた。

「健太くん。もう大丈夫よ」

里美はハンカチで健太の額を押さえる。どうやらカラスではなく、転んだときに額をぶつけたかすり傷のようだ。

誰かが通報し、大げさに救急車と警官、市役所職員が続々と到着した。高取も駆けつけた。二羽のカラスは、ガーガーと吠えながら、ヒナの安否を気遣うように空中を旋回している。

翌日、校長室には黒岩健太の母、勝江の怒声が鳴り響いた。

「校長!どう責任をとるんですか!うちの子にこんな怪我を負わせて」

勝江の横には仰々(ぎょうぎょう)しく頭に包帯をぐるぐる巻きにした健太が座る。

「はあ。お母さま。なんともこのたびは申し訳ありません」

校長の設楽(しだら)はひたすら頭を下げる。設楽の両隣には頭に包帯を巻いた里美と、学年主任の畠山が座る。

「子供を守るのは学校の責任でしょー。何をやってるんですかぁ!」

「いやーお母さま。転んでできたかすり傷とはいえ、健太くんが校内で怪我したことに変わりはありません。申し訳ございません」

畠山が謝った。

「カッスリ傷とはなんですくぁ!」

「ははー」

部屋を揺るがす勝江の怒声に、校長と畠山は膝につくほど頭を下げた。

「だいいち、何でこんな非正規の教員をうちの子の担任にするのかっ」

「いや。お母さまそれは……」

「それもこれもありません。即刻代えなさい!責任感の薄い非正規だから見守りもいい加減でうちの子を守れないのよ」

「かあちゃん。高取先生は僕を守ってくれたよ」

健太はそう言ってから、暑いよ、と言って包帯をはずした。絆創膏を貼っただけの額が現れた。

【前回の記事を読む】「疑念」が「疑惑」に…多額の資金が動いた事案、どう対処する?

夏目 ゆきお

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