東京都内の団地にひとり暮らしの大崎博子さん(89歳)は、インターネットではちょっとした有名人。11年前に始めたツイッター(@hiroloosaki)では15万人以上のフォロワーがいます。「戦争経験者で、離婚もしたし大病もした。若いころにはそれなりに苦労もしましたが、普通の高齢者です。今はとても充実していて、毎日が幸せ。こんな老後が待っているなんて思ってもいませんでしたね」そう穏やかに笑う大崎さんに、幸せのコツを伺いました。

大崎博子さん。趣味も豊富、健康にも気遣い、元気に暮らしています
70代からパソコンを利用。大きく変わった暮らし
「ひとり娘がロンドンで暮らして、もう30年になります。でも、彼女が遠くへ行かなかったら、今の暮らしはなかったかも」
30年前といえば、まだまだ国際電話も高かった時代。月々の請求が怖くて、目の前に砂時計を置いて会話していたと言います。
そんな大崎さんにパソコンを勧めたのもお嬢さんでした。
●70代でパソコンを開始。3年かけて習得
パソコンを使い始めたのは70代のとき。
「インターネットを使えば国際通話がタダでできると聞いて。それに、アップル社のマック(Mac)を買えば、1年間9800円でパソコン教室に通い放題だというんです。それでがぜん、その気になった(笑)。迷わずMacのノートパソコンを買って、銀座のアップルストアに毎週通ったんです」
それに、大好きだった東方神起のユーチューブも見たかったしね、と大崎さん。しかし、持ち前の決断力でパソコンを買ったものの「本当にできるようになるのかしら?」と初めは恐る恐るだったといいます。
「マンツーマンレッスンでは、若くて素敵な先生が丁寧に教えてくれました。グループ授業ではお友達もできましたしね」
13インチのノートパソコンを背負って銀座まで毎週通うのは大変でしたが、若い人たちに交じっての充実した時間。更新を重ねて、気がつけば3年も通ってパソコンを身につけました。
●ツイッターが世界への扉を開いた!

「携帯電話すらいらないと思ってたのに」70代から始めたパソコンは今や欠かせない存在です。大好きな韓流スターの動画を見たり、ツイッターでつぶやいたり。世界にアクセスする窓なのです。
「ツイッターを勧めてくれたのも娘です。彼女は面白いよ、って言うんですが、初めはつまらなくてね。そりゃそうよね。フォロワーが数えるほどしかいなかったんですから」
事態が大きく変わったのは、ツイッターを始めた直後に起きた東日本大震災でした。電話もメールもダウンする中、唯一安定してつながったのがツイッターだったのです。
「娘に無事を知らせたのもツイッターでした。そのうち東京電力福島第一原発の事故が起きた。電力会社はなかなか本当の情報を出そうとしない。これじゃまるで、戦時中に国民を洗脳していた大本営発表と同じじゃないか。そんな思いをつぶやいたら、一気にフォロワーが増えたんです」
その年の8月には、若い世代に伝えるために戦争体験を語り、ますますフォロワーは増えることになりました。
今は毎朝の「おはようございます」から始まり、近所でみつけた花の写真や日々の出来事が中心。ですが、夏になると戦争体験を書き込むことにしています。
「21世紀になった今も、世界では戦火が上がっていますよね。いかなる理由があろうとも、戦争は絶対にダメ。若い人にとって、戦争体験なんて想像するだけでも難しいでしょう。それでも、そのことだけは死ぬまで、伝えて行こうと思っています」
●何歳になっても好奇心だけは持っていたい!
70代のころ、がんの手術をした大崎さん。改めて健康について見直すきっかけになったといいます。家の近くに大きな公園があることもあり、まずはできることから始めようと、公園までのウォーキングを始めました。

毎日歩き続けるのは「楽しいから」。風邪をひいてしばらく休むと元のペースに戻るまで数日かかります。
「今は毎日8000歩を歩くようにしています。とはいえ、そんなにストイックなものではないの。雨が降ったら出かけないし。公園まで行って、太極拳を1時間ほどやって、終わったらあたりをぐるっと一周して帰ってくる。それでちょうど8000歩ぐらい」
帰ってきたら、午後は韓流ドラマの時間! 定額制配信サービス、ネットフリックスを利用しているので、どれだけ見ても金額は変わらないので安心です。
「韓流ドラマだけじゃなくて、古い映画や日本のドラマも見られるんです。一日中見ていられますよ(笑)」
そして、思ったことや気づいたことがあると、スマホから気軽にツイート。ロンドンの娘さんとは、今はLINE電話で毎日会話しているといいます。

日々体を動かしている甲斐あって、この柔らかさ! ひとり暮らしですから健康が一番大事。「それでもいざという時のために、合いカギをお預けしているご近所さんや、娘ともLINEでつながってもらっているお友達も団地内にいるんですよ」
「健康を維持したくて始めたウォーキング。太極拳も、ウォーキングで知り合ったお友達から勧められて始めたんです。そして、ツイッターにLINE電話。何だかどんどん新しい事に挑戦してるみたいに見えるかもしれませんね。でも、それもこれも、楽しそう! と思えることに飛び込んでみただけ。まずはやってみて、ダメだったらやめればいいんですよ」
何でもまずはやってみること。
大崎さんを見ていると、好奇心に年齢は関係ないのだと改めて実感させられます。
ESSEonline編集部