年収1,300万円の56歳・大企業部長、定年退職した元上司の「金貸して」に唖然...元エリートを襲った「老後破産」の悲劇【CFPが警告】

年収1,300万円の56歳・大企業部長、定年退職した元上司の「金貸して」に唖然...元エリートを襲った「老後破産」の悲劇【CFPが警告】

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  • 更新日:2023/05/26
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プライム市場上場の大企業に勤め、年収1,300万円のAさん。ある日、すでに定年退職している元上司のBさんから「金を貸してほしい」と告白が……聞くと、いくつかの理由から「老後破産に陥ってしまった」とのこと。尊敬していたエリートのBさんが、退職後わずか4年で転落してしまった理由とは。牧野FP事務所の牧野CFPが、元エリートを襲った悲劇について紹介します。

元エリート上司からの「衝撃の告白」

現在56歳のAさん。年収は1,300万円ほどあり、大企業の部長を務めています。3歳年下で専業主婦の妻と、25歳ですでに独立している長女、21歳で大学生の長男の4人家族です。

Aさんはある日、Bさんから「久しぶりに会わないか」と連絡があり、休日に昼食をともにしました。BさんはAさんの8歳年上で、現在64歳。現役時代は公私ともにお世話になった、頭の上がらない上司です。60歳で定年退職後、悠々自適なセカンドライフを満喫していると聞いています。

思い出話に花を咲かせ、お腹もいっぱいになったころ、Bさんが申し訳なさそうに「ごめん、今日、財布忘れちゃって……」と切り出しました。現役のころはきっちりしていて、ご飯の際は毎回奢ってくれていたBさん。Aさんはしかし、そんな日もあるだろうと「全然いいですよ」と返し、会計を終え店を出ました。

店を出たあとも、Bさんはどこか浮かない顔をしています。気まずい空気が流れるなか、もうすぐ駐車場に着くというとき、Bさんは突然言いました。

「あのさ、金貸してくれない?」

元エリートの上司が「老後破産」に陥ったワケ

「なにがあったのか」と唖然とするAさんに、Bさんは次のような理由から「老後破産に陥ってしまった」と打ち明けました。

1.退職後も生活の水準を落とせなかった

2.退職金の使い方を間違えた

3.思わぬ出費が重なった

仕事ではほとんどミスのなかったBさんが、なぜ……Aさんは納得できません。お金を貸すかどうかはいったん答えを保留にし、お互い帰路につきました。

また、Aさんの勤務先では最近、国の「高年齢者雇用安定法」の施行を機に、就業規則の変更が発表されたばかりでした[図表1]。なるべく老後もいまの生活水準を落とさずに暮らしたいAさんでしたが、60歳で早期退職してもいいのか、あるいは役職解任後、給与が半減しても部下の下で定年(65歳)まで働くべきか、悩んでいるところでした。

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[図表1]就業規則の主な変更点 出所:筆者が作成

自身の今後、Bさんのこと……Aさんは考えあぐねた結果、以前勤務先でリタイアメントプランの講演をした筆者のことを思い出し、FP事務所に相談に訪れました。

Bさんの二の舞にはなりたくない…Aさんがすべき対策は

Aさんの本音は、「就業規則が変わっても60歳で退職したい」というものです。しかし、生活水準を落とせなかったために老後破産に陥ったBさんのことを思うと、なかなか決断できません。

筆者は、Bさんの失敗は「誰にでも起こりうること」であること、加えて「しかし、老後破産を防ぐ手立てはある」と以下のように3つのポイントについて助言しました。

1.退職後は"収入が減れば支出も減らす”必要がある

Bさん同様、「今後もなるべく生活水準を落としたくない」と話すAさんですが、収入が減れば、その分支出も減らす必要があります。

無理なく支出を減らすためには、まず毎月の支出額を知ることが大切です。[図表2]は、65歳以上の夫婦(ともに無職の場合)の1ヵ月あたりの家計収支をまとめたものです。

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[図表2]65歳以上の夫婦(ともに無職の場合)の家計収支 出所:総務省「家計調査年報2022年」をもとに筆者が作成
※1 非消費支出は通常、年金受給時に天引きされる。

公的年金(①)+個人年金などのその他(②)で、65歳以上の夫婦は平均すると24万6,237円(③)の収入があります。

しかし、月々23万6.696円(④)の支出で生活をすると、2万円強不足します(⑤)。不足分は、貯蓄を取崩したり、消費支出(④)のうちいずれかを減らさなければ、生活が成り立ちません。

老後破産してしまったBさんは、60歳に退職金が支給されて以降、老齢厚生年金が受給できるまで収入がまったくないにもかかわらず、支出を減らすどころか増やし、退職金や貯蓄を取崩して暮らしていました。そんな生活を続ければ、お金がなくなるのは当然です。

2.退職金は「老後の生活資金」として活用する

退職金はまとまったお金が一度に手に入ることから、旅行や趣味、自宅のリフォームなど「理想のセカンドライフ」のために使い道を考える人が多くいます。しかし筆者は、退職金は「老後の生活資金」として活用すべきだと考えます。

Bさんは、退職金をすぐさま住宅ローンの返済や海外旅行、趣味、自宅のリフォームに使ってしまったようです。

住宅ローンの返済にあてるのは一見堅実のように思えますが、退職金を住宅ローンの繰上げ返済に使った場合、多額の現金が手元から離れていきます。そのため、もし将来まとまったお金が必要になっても、住宅ローン返済より高い金利で融資を受ける必要があったり、年齢によっては、融資が受けられないケースもあるため注意が必要です。

さらにBさんは、退職金のうち数百万円を、金融商品の仕組みをよく知らないまま、投資信託に投資しました。その結果、運用中や売却時の手数料が引かれてしまい元本を割り込む状況になっているそうです。

繰り返しになりますが、退職金は老後の生活資金です。したがって、すぐに使ってしまうのではなく、生涯使えるよう工夫することが大切です。

3.万が一のための資金準備をする

Bさんは、父親の入院費用や医療費([図表3]※2参照)、認知症がひどくなった母親の介護施設への入所費用※3を負担するなど思わぬ出費が重なり、退職金で購入した投資信託を解約してその費用に充てたそうです。

誰しもが、Bさんの親と同じような状態になる可能性があります。したがって、こういった“万が一”のための準備が必要です。

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[図表3]高齢者1人当たりの年間医療費(単位:円) 出所:厚生労働省「医療保険に関する基礎資料令和2年度」をもとに筆者が作成。

※2 なお、負担割合の詳細や自己負担の限度額(高額療養費)については、生命保険文化センター「病気やケガをしたときの自己負担は?」を参照。

※3 生命保険文化センター「命保険に関する全国実態調査」/2021(令和3)年度によると、月々の介護費用は在宅で平均4.8万円、施設では平均12.2万円。介護期間は平均5年1ヵ月。単純計算すると、在宅では292万8,000円、施設では744万2,000円が必要になる。「介護費用」の詳細や「自己負担額の軽減制度や高額医療・高額介護合算療養費制度」の仕組みについては、ともに生命保険文化センターのHP(リンク先) を参照のこと。

「60歳で早期退職」は叶う?

上記のように助言をしたあと、筆者はAさんが、60歳と65歳でそれぞれ退職する場合のセカンドライフをシミュレーションしてみました。

現在Aさんは、長男への仕送りや住宅ローンの返済を含めて毎月50万円※4ほど支出があります。

※4 総務省「家計調査」(2022年)によると、50~59歳の消費支出額の平均は35万9,963円となっている。

また、Aさんと妻の老齢厚生年金の受給額は、[図表4]のとおりです。

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[図表4]A家の年金受給見込額 出所:筆者が作成。なお、65歳まで5年間厚生年金に加入した場合、その分受給見込額も約24万円増額する。

Aさんが60歳で早期退職した場合、長男への仕送りは終わっていますが、Bさんと同様、65歳まで無収入となります。[前掲図表2]の不足分(②)をいかに少なくするか、貯蓄と退職金で補う生活となるでしょう。海外旅行などを計画する場合には、65歳まで我慢し、老齢厚生年金を受給してからのほうが得策です。

一方、65歳まで働いた場合、60歳~65歳まではいままでより半減するものの給与収入があります。また、住宅ローンも完済していますから、退職金や貯蓄を取崩しながらも毎月「ゆとりある老後の生活費(平均37.9万円)※5」で生活することが可能です。

※5 生命文化センター「生活保障に関する調査」より。なお、同調査では、老後最低でも必要とされる日常生活費は月額平均23.2万円となっている。

どちらの選択をするにしろ、加入している保険の不要な保障の解約など、無駄な支出を見直すことが大切です。

心を鬼にして断りの連絡…Bさんの返答は

AさんはFPに相談した翌日、心を鬼にしてBさんに「お金は貸せない」と連絡を入れました。

その後、再び会ってFPに聞いた話をもとにBさんを説得。すると、「心配かけたけどまた働くよ。今度の誕生日を過ぎれば年金がもらえるし」と前を向いてくれたそう。Aさんもほっと一安心です。

牧野 寿和

牧野FP事務所合同会社

代表社員

牧野 寿和

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