難病ALSの声優が「ALSが治った」という人の話を聞いて感じたこと

難病ALSの声優が「ALSが治った」という人の話を聞いて感じたこと

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/05/01
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ALS(筋萎縮性側索硬化症)を検索すると「感覚があるままに体が動かなくなる病気」という説明が多くされています。もう少し詳しい書き方を探すと「筋肉が動かなくなってしまう」とも書かれています。そして「現在、効果の認定されている治療法がない」と言われている事で知られています。前回は現在の在宅介護の様子やそのことに関する私の思いなどの日常をお話ししましたが、それに加えて他のALSの方との交流などからのあるあるなどをお話ししていこうと思います。

2019年3月に足に異変を感じ、半年の検査入院で9月にALSだと告知された津久井教生さん。告知から1年8カ月が経とうとしているいま、ALSという病がどういうものなのかを身をもって感じながら、今を工夫し過ごしています。

現在は手足がほとんど動かなくなり、要介護4でご家族以外にも多くのプロの手を借りて生活をするようになりました。タイピングができなくなって、この連載の原稿は割りばしを口にくわえてひと文字ひと文字打ち込んで完成させています。それでも声は健在で、現在もニャンちゅうやちびまる子ちゃんの関口くんなどの声を楽しませてくれているのです。

津久井さんが率直に綴る連載「ALSと生きる」、今回はご自身以外でALSに罹患した方とのやり取りなどを通し、改めて「ALSとは何か」を伝えてくださいます。

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2020年の「ニャンちゅう」チームの皆さん。左から比嘉久美子さん、津久井さん、鎮西寿々歌さん 写真提供/津久井教生

津久井教生さん連載「ALSと生きる」今までの連載はこちら

ALS(筋萎縮性側索硬化症)って個性的な病気です

このまま私の病状で「ALSと生きる」の連載をしていくと、私の症状がALSの正解と勘違いされるかもしれません。そこで都度都度このような文章を書かせていただいて、誤解がないようにしていきたいと思います。ALSという難病は根幹の部分は共通しているのですが、そこに至るまでの過程は様々なのです。

「身体が動かなくなる」と言われている部分も、スタートは上肢・下肢・呼吸器系・球麻痺の4つが概ねとされています。この最初の動かなくなる部分を礎として、罹患当初から個人差があるのです。始まった場所によって生活の影響はもとより、命への影響も違ってくるからです。つまり、呼吸器系から始まった方は身体が動いていても、呼吸を司る筋肉が動かなくなるので、早くに命を奪われることになりかねないのです。

ALSが体に及ぼす影響で、最初にお伝えしたいのは時間との関係です。最終的に全身が動かなくなるまでの時間を見ると、それなりの自覚から1年くらい、医療機関の診断後で数ヵ月で全身が動かない状態になった患者の方々もいます。かといって、このような進行の方々が全くどこも動かないとは限りません。足の指ですとか、手の指がわずかに動いて意思表示が出来る状態の患者もいらっしゃいます。それでも、「寝たきり」になると言われる2年から5年という平均値よりもかなり早く進行しているといえます。

それとは逆に、ALSでお亡くなりになる最後まで「ある程度動けていた」という患者の話も聞きます。呼吸器系に症状が及ぶまでに上肢や下肢の進行が追いつかなかったという事だと思われます。これらのように、完全に動けなくなるのではなく、手や足や首、そして指などはものすごく個人差がでるようです。

「動きにくくなる」感覚の違い

動かなくなるという病状や患者の感覚に密接に関係しているのが「時間」です。「ALS患者さんが罹患後に思う事あるある」なのですが「昨日出来たことが今日出来なくなることが怖い」という事です。事故やけがなどの治療法のある病気と違って、治療法のないALSという病気は診断された後から、着実に「感覚があるままに身体が動かなくなる」という進行性の病状が進んでいきます。

これは罹患してALSの事を知れば知るほど、自分の身体に自覚意識として現れてきます。「1週間前の自分、そして昨日の自分の身体の動きが、今日の自分と比較すると徐々にではあるが悪くなっている」ということを、日を追うごとに目の当たりにしていきます。特に1週間以上前の自分と比べると、その差がハッキリと分かる。私の場合はですが、リハビリテーションや自主トレをいくら頑張っても、進行が止まることはないという事がハッキリと分かるという感覚です。

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2019年12月の津久井さん。頑張りすぎるとかえって逆効果にもなることを感じていきました 写真提供/津久井教生

私は30代で足の大けがをして切断寸前までいき、8ヵ月あまり車椅子に乗って足と相談しながらリハビリに励みました。ある程度歩けるようになるまで2年近くかかった大怪我をした私の体験から言うと、ALSの動かなくなる進行って「リハビリで治っていくのと真逆の感覚」なのです。

当時、怪我から回復していくときにこう思いました。「人間の回復力ってすごいな」と。色が変わってやせ細っていた足が、リハビリや自主トレを重ねていくと治っていくのです。色も肌色に戻ってきて、周囲からも「良くなりましたね!」などと言われるのです、そんな状態の中にいると気持ちも盛り上がってきます。「せっかく治療してもらったんだから、この状態で出来る限り頑張ってみるぞ」と。

治療法のないALSはこういうことがないのです。周囲の方のリハビリとアドバイス、自分で考えたトレーニング、身体に良いと思われているものをしっかりと取り入れること……。私は対症療法を中心としてALSの進行を遅らせようとしています。しかし個人差はあるとしても、時間が進めばゴール地点で待っているのが「感覚があるままに筋肉が動かなくなる」つまり寝たきり状態の身体になるという事実です。

ALS患者の仲間と話をするときに話題になるのが、時間・進行のスピードになります。遅かれ早かれ来ることは分かっていても「できるだけゆっくりと来てほしい」「出来ればある地点で止まって欲しい」と思わざるを得ません。

個人差がある病気ALSで患者が思うこと

時間的な個人差があるとはいえ、最終的に呼吸器系がALSに侵されて命が絶たれるということ、そしてそれが最後の最後までしっかりとした意識下で進んでいくということが分かっています。これが「絶望の難病」ともいわれる所以だと思います。

私もALSに罹患した当初は、他の方も多くが思うように「自分は違うんじゃないか?」と強く思っていました。

「確かにALSには罹患したと思う、今の自分の状態や主治医の先生の話もよく分かった」
「でもそうは言っても個人差がすごくあるって先生も言っていたし、自分は運動能力も基礎体力も秀でている方だから、進行が遅い方じゃないかな!」
「出来る限りリハビリと自主トレーニングをすることでALSの進行を遅らせてやる!」

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2019年12月、PTさんとともにリハビリにいそしむ津久井さん 写真提供/津久井教生

自分に言い聞かせる感じもあり、周囲に公言も当初はしていました。しかしながらそれは私の目論見とは「違っていました」。でも「全く違っていました」とは思いたくない部分もあります。少しは効果があったと思いたいですが、結構頑張ってきた毎日のリハビリテーションや自主トレの効果の期待をあざ笑うかのように、ALSは進行していきました。

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2019年11月の津久井さん。この日以降ピアノを弾くのは難しくなってしまいました 写真提供/津久井教生

そんな現実を突きつけられると、今度は打って変わって「どうやら自分はALSの進行が他の人より早いようだ」と情けないことを周囲に公言するようになったのです(笑)。 ALSの病状進行の時系列のどこに自分がいるか。そして自分のALSの時系列の長さはどれくらいかを想像するようになるのです。

しかしながらこの進行の個人差を知る事は、ALS罹患患者にとって大切な事になります。動かなくなることを見越して先手を打って介護の体制を作ることができるからです。間に合わないギリギリよりも少し楽にできるように生活に取り入れることが大切です。そのストレスフリーが一番進行を緩やかにしている気がするくらいです。

思いっきり他のALS患者の方と比べて、自分のALSの個性をとらえて「自分のALSと生きる」という気持ちに早く到達すると良い気がします。

ALSを寛解・完治した人はいるのか

これだけネットが浸透している情報社会です。どこかに「完全にALSに罹患したと診断された患者で治った事例はないのか?」ということに関しては、ALSの患者の間でも話題になります。

ラジオや色々な媒体で活躍される方がいて、色々なところにALSの患者会がありますし、行政が主導になっての患者会が開かれたりしています。残念ながら私がALSに罹患してからはコロナウィルスの影響で患者が会場に集まるものはことごとく中止になってしまいましたが。そして何よりも一般社団法人「日本ALS協会」という団体も存在しています。ホームページを見ると、2020年度に会員数約4100名で、全国に支部が42あるそうです。

もしALSに罹患したけど治った患者がいるとしたら、必ずどこかに引っかかって話題になりそうなものです。最近では「Muse細胞の研究で、ALSの治療法の治験が始まる」「現在点滴で行われている治療薬を経口薬にした時の有効性」という治験の話題はありました。

そうなのです、現状では治療法を模索している真っ最中なのです。「ALSが治った」「ALS寛解・完治」でググっても、確かにヒットする事象はあるのですが、確実にALSに罹患している人に行われた治療なのかがハッキリしていなかったり、よく読むと「緩和」の間違いではないかと思ってしまったり、「寛解を目指す」の寛解に引っかかってしまうという事が大多数という有様です。

ネット上などで知り合ったALSの患者の方もたくさんいます。ALSの患者として公共の場でも活躍している方も、私と同じようにアンテナを張っているはずですが「これで治った」という患者さんはほとんどいないようです。この記事を読んでくださっている皆さんにも協力していただいて「治った方」を探していただいて、その方にお話を聞いてみたいです。

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2021年4月、ALSの患者のみなさまとの座談会にて 写真提供/津久井教生

確かにALSと確定診断された後に、別の病気で亡くなった方もいらっしゃいます。ある程度年齢が高くて発症する割合の多いALSですが、ALSが治ったわけではなく、ものすごく緩やかに進行していって他の年齢が高い方が罹患する病気で亡くなるという事が多いようです。

ALSの患者としてこの先を見据えて

実は私は、今までに何人か「治ったと思う方」のお話を聞いたことがあるのです。しかし残念ながらその治療法は、たぶん「その方にのみ効果が大きかった」ようで、ALS患者すべてに効くものではなかった気がしました。それでも「ALSをこの方法で治した」というお話を聞けたときにはワクワクしましたし、「自分にしか効かないかもしれないけれど何かあるかもしれない。色々と希望を持とう」と思うのでした。

こうまで個性的なALSに罹患すると患者の考え方も様々になってきます。前回の連載で「奥様、大変ですね、応援しています」という温かい言葉をいただきました。その通りなのです、ALS患者は家族や介護の力を借りないと生活することは出来ません。

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夫婦でともに向き合っています 写真提供/津久井教生

現時点でALSの症例の3分の2くらいしかいっていない私ですが、両手足が動かずに、口に割りばしをくわえてこの原稿を書き、お膳立てをしてもらわなければ何もできません。これを家族だけでまかなおうとすること自体が間違いです。夫婦二人で何とかなる時期(時間)は短いと考えた方が良いと思います。

この先に確実に「秘技割り箸入力」も出来なくなります。この原稿が打ちたくても別の方法を考えねばなりません。「口述筆記」があります、でも誰に書き留めてもらいましょうか?「視線入力」で書くにしても、誰にパソコンの電源を入れてもらいましょうか?
1年前にできていたことが、時間と共に出来ない事実を実感します。

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視線入力の練習もしつつ、今はこうして割りばしを口にくわえてひと文字ひと文字打ち込んでいます。PCの高さも調整してどんどん工夫! 写真提供/津久井教生

現在「出来ることをやる」などとカッコつけてSNSで活動させてもらったり、お仕事も続けさせていただいていますが、すでに一人で出来ていることなどありません。この文章を考えたり、マイクの前で台本を読んだりしているくらいです。ユーチューブの編集もそろそろ危ないようです。

ALSが進行して、自分のALSと向き合って生きていこうとすると、その体験と現実の病状進行で、患者は色々な事を考え、そして決断していかなければならなくなるのだと感じています。

もちろんありがたいのは妻と周囲の方たちの私への自然な接し方です。突きつけられる現実とわずかながらの希望の狭間で、それでも今はまだ思い続けています、「出来ることをやっていこう」と。ええかっこしいの真骨頂はここからが本番です。

【次回は5月15日(土)公開予定です】

ALSの治療薬が開発&認可されたら楽器を弾くこと~津久井さんのYouTube(津久井教生チャンネル)で夢について語っている動画はこちら。↓

津久井教生さんイベント登壇のお知らせ:5月15日(土)「患者さんに聞こう!ALSオンライン」というサイトにて「自分をプレゼン」というオンラインイベントが開催されます。津久井さんは5月15日15時から登壇予定です。詳しくは公式HPをご確認ください。

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