空き家問題と地域の活性化、SEKAI HOTELがめざす体験型の宿泊施設

空き家問題と地域の活性化、SEKAI HOTELがめざす体験型の宿泊施設

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2022/08/07
No image

近年の社会課題のひとつに空き家の増加がある。2018年の総務省調査によると全国の空き家数は約850万戸、全住宅の7戸に1戸が空き家という状況だ。2033年頃には、全住宅の3戸に1戸が空き家になるという予測まである。

この空き家問題の解決策として、建物のリノベーションが盛んだ。長年使われていない古民家や空き店舗の再活用を考えるものだ。カフェ、雑貨屋、コワーキングスペース、ゲストハウスを1軒ずつリノベーションして新しい息吹を吹き込むケースが多い。

そんななか、空き店舗を「点」ではなく「面」として、エリア全体で捉える取組みが生まれている。なかでも注目されているのが、大阪府にある宿泊施設「SEKAI HOTEL」だ。SEKAI HOTELは、大阪府東大阪市の布施にある、フロント、客室、飲食、大浴場の機能を、街全体に分散させた「まちごとホテル」である。

大阪市北区を拠点にリノベーションに取り組むクジラを親会社に持つ、SEKAI HOTELが2017年からこの事業を開始した。全国に増えつつある空き家を、課題ではなく資産として捉えられるような新しいビジネスモデルだ。

空き家を「面」で捉えてホテルをつくる

2012年にこのモデルを構想したのは、代表の矢野浩一。当時、特定のテーマやコンセプトで情報をひとまとめにして発信するキュレーションメディアが増えていた時期だった。矢野は発想の原点を次のように語る。

「なぜ不動産業界ではバラバラにあるものを1つのブランドにまとめられないのだろう。そこから増える空き家を、エリア内で同じコンセプトの宿泊施設として運営することを思いつきました」

No image

フロントから商店街を歩くこと数分。商店街の空き店舗を改装して客室としている

2017年、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)からもアクセスが良い大阪市此花区西九条の「住宅地」で複数の長屋を改修し、1号店を開始(現在は営業を自粛中)。当時、矢野は友人と一緒に日本のさまざまな場所に出かけ、テントを張って寝る遊びを世界中どこでもホテルになるということから「SEKAI HOTEL」と呼んでいた。その発想を借りてそのまま事業の名前とした。

2018年には東大阪市布施の「商店街」で2号店をオープン。SEKAI HOTELを運営していくなかで、住宅地よりも商店街のほうが、街の魅力が宿泊者にも届きやすく、地元の人たちからも受けいれられる。なにより他の地域でも課題解決にも繋がるモデルになると考えたことから、商店街を選んだという。

No image

宿泊者向けのパスポート「SEKAI PASS」を持参すると、商店街でさまざまな特典が受けられたり、店舗の人たちから歓迎の声をかけられたりする

先日、私もSEKAI HOTELに宿泊してみた。近鉄大阪線・奈良線の布施駅を降りて、商店街を歩くこと約5分、一見カフェのようなフロントがある。そこに客室はなく、チェックインを済ましてSEKAI HOTELのパスポート「SEKAI PASS」を受け取ると、案内をしてもらいながら街を歩く。商店街を2、3分ほど進むと、宿泊する建物までたどり着いた。

宿泊客はSEKAI PASSを携帯することで、近くの銭湯が無料で楽しめたり、純喫茶で朝食を食べられたりする。夕食も提携している商店街内の飲食店が10店舗以上あり、オリジナルメニューや割引特典も受けられるシステムだ。

パスポートを首から下げて商店街を歩いていると、それだけで宿泊客だとわかるためか、街の人から声がかかる。商店街の人たちとの会話が弾むように工夫されているのだ。実際に私もお惣菜屋さんや七味唐辛子屋さんから温かい声をかけられたりした。宿泊者にとっては、それらも体験コンテンツとして楽しめるわけだ。

No image

どこにでもある商店街が、宿泊者の非日常となり体験コンテンツとなる

社会課題解決の鍵となる「まちごとホテル」構想

SEKAI HOTEL のような「まちごとホテル」を成立させるポイントとして、前出の矢野は「現場に任せる組織づくり」と「商店街とスタッフの接点の量」であると語る。矢野はオープンの前に商店街でホテルを経営することの価値と魅力についてスタッフと徹底的に議論を重ねたという。

現場に任せる組織づくりとしては、契約や捺印などを極力なくし、商店街とのコミュニケーションを大切にし、新しい企画は現場の自発性を尊重しているという。実はSEKAI PASSも学生インターンが企画したアイデアである。

商店街で働く1人1人が、宿泊者の体験と関わるため、スタッフがホテルのコンセプトを深く理解して、地域の人たちに伝えていくことも重要となる。スタッフに対しては、商店街のこれまでの歴史を学ぶ時間を設け、また入社時にはカメラを持ち商店街を歩くことで街の魅力を発見するきっかけをつくっている。

宿泊料金の一部を活用して、地元の子供たちが無料で参加できるイベントも定期的に開催している。商店街の人たちとスタッフの接点の積み重ねが、結果として宿泊者のサービス品質の向上や宿泊者の満足度にもつながっているという。

商店街にリノベーションしたホテルという「ハコ」をつくるだけでは不十分だ。ホテルと商店街の双方が一体となって宿泊客に魅力を届けることが重要となる。その効果もあってか、観光地でもない布施に「SEKAI HOTELをきっかけとして遊びに来る人たちも増えてきた」と矢野は嬉しそうに語った。

No image

SEKAI PASSを持参すると宿泊客は商店街の銭湯「戎湯」に無料で入浴できる

「まちごとホテル」という構想は、空き家問題だけではなく、シャッター商店街を活性化するための新しい切り口としても注目を浴びている。近く3号店となる「SEKAI HOTEL高岡」を初めて府外の富山県高岡市にてオープン予定だ。今後もこの取り組みが、地域活性化のひとつのモデルとして、日本中に広がっていくのが楽しみだ。

連載:「遊び」で変わる地域とくらし

過去記事はこちら>>

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加