「体力も気力も続かない」 定額乗り放題サービス「mobi」のドライバーから寄せられる悲痛な声、AIが蝕む最適化され過ぎた現状とは

「体力も気力も続かない」 定額乗り放題サービス「mobi」のドライバーから寄せられる悲痛な声、AIが蝕む最適化され過ぎた現状とは

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  • 更新日:2022/09/23
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mobi(画像:Community Mobility)

過酷になったバスドライバーの労働条件

公共交通サービスである定期路線バス事業が、存続の危機に直面している。特に高齢化と少子化が進む地方では深刻な状況だ。

【画像】「えっ…!」 これがバス運転手の「年収」です(8枚)

主な要因のひとつは、ドライバー不足である。バス業界はもともとドライバー不足に悩まされていた。2002(平成14)年の規制緩和に伴う激しい生き残り競争のなかで、ドライバーの労働条件が厳しくなり、ドライバーの高齢化が進んだ。そこへインバウンド(訪日外国人)の急増があり、需要に対応できなくなった。しかしここ3年、コロナ禍で一転して不況となり、多くのドライバーが職を離れていったのだ。

この影響は業界内だけにとどまらなかった。コロナ禍前から、各地の自治体で運行されていたコミュニティーバスは、バス会社から派遣されたドライバーによるところが多かった。しかし、バス会社は収益性を求めてより収益性の高い長距離バスなどに傾注することで、こうした派遣を行う余裕がなくなった。

その結果、コミュニティーバスの運行を廃止せざるを得ない事態に追い込まれた自治体が出てきた。また、介護を必要とする高齢者の移動を援助する福祉有償輸送事業も同様の状態にある。従来のようなやり方では、公共交通事業の存続は難しい。

今後人口は減少し、特に地方では高齢化、過疎化が進んでいる。高齢者にとってはバス停まで歩くのもおっくうになる。また高齢者は、ラッシュアワー時にバスを利用する必要はあまりない。一方、バス会社は、利用者の多い時間帯に運行便数を増やし、その時間帯にドライバーをフル活用することで業務を効率化させたい考えがある。このように、現状のままで推移すれば、どうしても定期路線バス事業は縮小の一途をたどるしかない。

そうした状況を打破するためには、定期路線バスの利便性を高め、需要をマイカーから転換していかなければならない。おりしも、若い世代を中心にマイカーを持たない人たちが増えている。それはマイカーの保有に伴う費用負担が重いこともあるし、環境問題への関心の高まりから持たないという決断もある。

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Community Mobilityのウェブサイト(画像:Community Mobility)

「30日間5000円」乗り放題サービスの登場

こうした中で登場してきたのがmobi(モビ)だ。オンデマンド型(必要に応じて配車を要請する形)の、

「30日間5000円」

でエリア内が乗り放題になるサービスを提供する。配車を行うのはAI(人工知能)だ。

この事業を手掛けるのは、Community Mobility(東京都目黒区)。同社はKDDIと、格安で利用できるツアーバスを展開して脚光を浴びたWILLER(大阪府大阪市)によって設立された合弁会社である。今後、mobiを全国22のエリアに展開していくとしている。

新たな需要を創造して生きる道を模索しようとする試みは、これまでも経営共創基盤傘下のみちのりホールディングス(東京都千代田)が行っており、実績を上げている。最新の情報分析で綿密なマーケティングを行い、新たな需要を開拓する――こうした在り方を今後のバス業界は大いに参考とすべきだ。

大阪では、維新の会がmobiのような事業の導入に積極的だ。そうしたこともあり、大阪では、大阪メトロがmobi同様の定額乗り放題バスサービスを始めた。営業地域は分かれているので競合するわけではないが、今後の展開で競い合いになるのは避けられないだろう。その過程でよりよいサービスが生み出され、利用者の満足度が高まれば望ましい結果となる。

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mobiアプリ利用の流れ(画像:Community Mobility)

体力も気力もそがれるmobiのドライバー

これに対して既存のバス事業者、そしてタクシー事業者は激しく反対している。mobiなどが広範に展開されるようになれば、利用者はそちらに流れ、バス事業者やタクシー事業者はますます苦しい経営状態に置かれるからだ。

確かにmobiのような取り組みは利用者にとって利便性が高く、「もっと急速に展開すべき」という主張があるのもうなずける。ただ、その実情を見ると大きな問題点も浮き上がってくる。

ひとつ目は、mobiのサービスを利用したいと思っても、台数に制約があるため、希望する時間に利用することが難しく、場合によっては相当長い時間待機しなければならない。

では台数を増やせばいいかというと、そう簡単にはいかない。過剰な台数を抱えることで経営の無駄が生じるからだ。定期路線バスは、利用者に利用時間をある程度決めてもらうことによって効率的に運行台数を管理している。ここがオンデマンドによる需要を満たす際での難しさだ。mobiはAIによって即時に最適な配車ルートが選択され、限られた台数で最大限、オンデマンドの需要を満たすことが可能となる。

しかし、ここでふたつ目の問題が出てくる。こうした余裕のない「ぎちぎち」のスケジュール管理に、ドライバーが

「体力的にも気力的にも付いていけない」

という状況になっていることだ。

mobiの問題を検証しようとする労働組合がmobiのドライバーにヒアリング調査を行っているが、そこで出てきたのは、mobiの運行に関わっているドライバーの切迫した声だった。

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高速処理されるプログラムのイメージ(画像:写真AC)

理論的な「最適化」の落とし穴

ここが、労働管理にAIを使う際の問題となる。

「理論的には最適化がなされても、人間の能力(これにはその時々の体調管理も含まれる)が対応できるか」

ということだ。

もちろん、こうした観点を織り込んだAIの開発が今後進められることが展望されるが、残念ながら現在はそうなっていない。その点、既存のバス事業やタクシー事業では、運行管理士が毎日、ドライバーの体調などを鑑みながら、無理のないように乗務できるような体勢をとっている(もちろん、この体制が有効に機能せず、悲惨な事故が起きてきたことも否定できない事実ではあるが)。

もしこうした問題性が残ったまま、mobiのような事業が一斉に展開されていくなら、過労ドライバーによる事故の発生を誘発するだろう。また、こうした労働環境の厳しさが、口コミなどでドライバー間で知られることによって、優秀なドライバーを雇用できなくなり、より厳しい労働環境でサービスを提供していかざるを得なくなる。

その先にはmobi的事業の持続性が損なわれるとともに、既存のバス事業やタクシー事業も衰退し、特に地方で

「公共交通手段は何も残らない」

という悲惨な状況が待っている。

筆者(戸崎肇、経済学者)は、新しい試みを評価しながらも問題性を冷静に見据え、その解消に努めると同時に、既存のバス事業、タクシー事業の社会的重要性を再評価し、その強化に向けた社会的救済を早急に行うことの合意形成を急ぐべきであると考える。

戸崎肇(経済学者)

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