知っておきたい「所得代替率」とは

今年に入って、為替市場では円安の流れが続いています。1年前の水準は108円前後であったものが4月には129円台を付け、1年で20%近く円が下落したことになります。
円の価値が下がり、輸入製品の価格は上がり、改めて世界経済と日本経済の差を感じてしまいますね。
さて、今回のお題の年金。この年金の面から見ても日本はより厳しい状態であることを認識しておいた方が良さそうです。
日本の年金事情を見たうえで、できる対策を考えていきたいと思います。
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「国民年金と厚生年金」みんなはいくらもらっている?
日本の年金制度は「国民年金」と「厚生年金」の2階建て構造となっています。
「国民年金」には日本に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入するため、老後の資金のベースとなることから「基礎年金」と呼ばれることもあります。
2階部分にあたる「厚生年金」には、会社員や公務員などが国民年金に上乗せして加入します。
まずは、2021年12月に公表された厚生労働省年金局「令和2年度 厚生年金・国民年金事業の概況」より、国民年金と厚生年金の平均年金月額を見ていきましょう。
国民年金の平均月額
〈全体〉平均年金月額:5万6252円
〈男性〉平均年金月額:5万9040円
〈女性〉平均年金月額:5万4112円
厚生年金(第1号)の平均月額
〈全体〉平均年金月額:14万4366円
〈男性〉平均年金月額:16万4742円
〈女性〉平均年金月額:10万3808円
※国民年金の金額を含む
国民年金受給者の場合、平均は男女ともに5万円台です。一方、厚生年金を受給している方だと、男性の平均は16万円台、女性の平均は10万円台となります。
厚生年金の男女の平均額には6万円ほどの差がありますが、現役時代の収入と勤務期間(厚生年金加入期間)が反映されます。
女性の場合、出産や育児、親の介護等のライフイベントで収入や勤務期間に影響が少なからずありそうですね。しかし、男女平等といわれる時代、今後はこの差は縮まっていくことでしょう。
次は受給額の分布を確認し、平均額からは見えない部分について深掘りしていきましょう。
「国民年金」実際にはいくらもらっている?
まずは「国民年金」の受給額ごとの人数をグラフとともに見ていきます。
わかりやすいよう男女別のグラフにもまとめてみました。
国民年金月額階級別の老齢年金受給者数

出所:厚生労働省「令和2年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
1万円未満:7万4554人
1万円以上~2万円未満:29万3600人
2万円以上~3万円未満:92万8755人
3万円以上~4万円未満:284万2021人
4万円以上~5万円未満:466万3638人
5万円以上~6万円未満:776万979人
6万円以上~7万円未満:1483万5773人
7万円以上~:188万2274人
平均は5万6252円でしたが、男女ともに「6万円以上~7万円未満」が一番多いです。
40年間すべての保険料を納めると国民年金の満額は月額6万4816円です(2022年度)。年額にすると約78万円となります。
自営業者などで国民年金しかない世帯では、自分たちでしっかり老後資金を貯める必要がありますね。
「厚生年金」実際にはいくらもらっている?
今度は「厚生年金」について、受給額ごとの人数をグラフとともに見ていきましょう。
厚生年金月額階級別の老齢年金受給者数

出所:厚生労働省「令和2年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
1万円未満:10万511人
1万円以上~2万円未満:1万8955人
2万円以上~3万円未満:6万6662人
3万円以上~4万円未満:11万9711人
4万円以上~5万円未満:12万5655人
5万円以上~6万円未満:17万627人
6万円以上~7万円未満:40万1175人
7万円以上~8万円未満:69万4015人
8万円以上~9万円未満:93万4792人
9万円以上~10万円未満:112万5260人
10万円以上~11万円未満:111万9158人
11万円以上~12万円未満:101万8423人
12万円以上~13万円未満:92万6094人
13万円以上~14万円未満:89万7027人
14万円以上~15万円未満:91万3347人
15万円以上~16万円未満:94万5950人
16万円以上~17万円未満:99万4107人
17万円以上~18万円未満:102万4472人
18万円以上~19万円未満:99万4193人
19万円以上~20万円未満:91万6505人
20万円以上~21万円未満:78万1979人
21万円以上~22万円未満:60万7141人
22万円以上~23万円未満:42万5171人
23万円以上~24万円未満:28万9599人
24万円以上~25万円未満:19万4014人
25万円以上~26万円未満:12万3614人
26万円以上~27万円未満:7万6292人
27万円以上~28万円未満:4万5063人
28万円以上~29万円未満:2万2949人
29万円以上~30万円未満:1万951人
30万円以上~:1万6721人
平均は14万4366円でしたが、ボリュームゾーンは「9万円~10万円」です。さらに男女別のボリュームゾーンは男性17~18万円、女性9~10万円となります。
現役時代の収入と比較すれば収入は低くなることに留意しておく必要がありますね。
「老後のお金」は自分で作る時代に
日本の年金について見てきましたが、単純に各国の年金制度を比較することは難しいです。
しかし、日本においてはOECD加盟国(アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデン、日本)の中で高齢化比率が一番高く、平均寿命は一番長く、出生率は一番低いと年金を支える条件としては一番厳しいと言えるでしょう。
もちろん人生は一度きり、平均寿命の長さはとても素晴らしいことですが、元気で過ごすためにはお金も必要となるのが現実です。
この高齢化の状況ですが、日本の総人口は2008年をピークに徐々に減少する一方、高齢者人口は増加し続けています。これに伴い、年金の受給者が増える一方で、年金保険料の支払者が減ることで、公的年金の所得代替率の低下が懸念されています。
所得代替率は公的年金の給付水準を示す指標で、現役男子の平均手取り収入額に対する年金額の比率により表されます。
2019年のモデルケースでの計算は以下の通りです。
所得代替率61.7% =(夫婦2人の基礎年金13万円 + 夫の厚生年金9万円)÷ 現役男子の平均手取り収入額35.7万円
2019年に公表された将来の公的年金の財政見通しでは、日本の経済成長が最も進むシナリオの場合であっても、2046年度の所得代替率は51.9%程度と、現在の所得代替率 (2019年度、61.7%)から10%程度低下するとされています。
現状の年金でも多いとは言えない中、将来においても既に減ることが予想されているのです。
世界的にも年金制度の「持続可能性」と「給付の十分性」のジレンマがあり、解決策の一つとして、公的年金給付の削減を補完する私的年金制度のカバー率の向上等を奨励しています。
公的年金だけでは不足すると考え、まずは私的年金の制度を利用しましょう。個人型確定拠出年金 (iDeCo)および企業型確定拠出年金(企業型DC)、国民年金の加入者は国民年金基金制度がありますね。
掛け金の上限が決められていることもあり、私的年金を足しても老後資金が不足しそうな場合には個人年金なども活用し、資産をつくっていきましょう。
限られた収入で質素に暮らせればいいという考えもありますが、その場合でも長生きすることを考え介護費用や医療費等はしっかり準備しておきたいものですね。
人生100年時代、平均寿命が伸びた今、併せて資産寿命も伸ばせるよう自助努力をしていきましょう。
参考資料
厚生労働省「令和2年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」(2021年12月)
厚生労働省:2019年財政検証結果レポート 「国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し」
厚生労働省:私的年金制度の概要(企業年金、個人年金)
齋藤 英里奈