「頭下げるだけで済むんですよ」郷ひろみ66歳...居心地悪そうだったアイドルが“唯一無二の陽キャラ”になるまで

「頭下げるだけで済むんですよ」郷ひろみ66歳...居心地悪そうだったアイドルが“唯一無二の陽キャラ”になるまで

  • 文春オンライン
  • 更新日:2022/01/24

ああ、変わってゆく!! ひしひしと時代の移ろいを痛感した2021年末の紅白歌合戦。そう来たかという驚きあり、そしてこれまでの色が薄れていく寂しさもあり。

【画像】『2億4千万の瞳』リリース当時は、今と顔つきが全く違っていた

視聴率は最低を更新したというが、いやいや、いろんな感情が残る印象的な回だった。一つのステージにこだわらず歌唱場所もいろいろ、中継や映像演出も多かった、まさに「風の時代」仕様。特に藤井風による自宅での演奏はド肝を抜かれた。ここまでラフになるのか!

そんな新時代感満載の紅白だが、白組の先陣を切ったのはバリバリの昭和世代、郷ひろみである。

白組では最年長だったヒロミGO

さすがヒロミGO、毎回ハイテンションで場をあっためてくれるなあ! と嬉しかったが、よくよく考えるとすごいことではなかろうか。というのも、郷ひろみは企画枠以外の出演者で、天童よしみの次に高齢。白組では最年長。トリを務めても全然おかしくないキャリアと実力の持ち主である。

そんな彼が2曲目で盛り上げ隊長として登場。しかも廊下で歌い始め、シャウトを決め客席後ろのドアから入り、客と肘タッチしつつシンガソンしているのである。

若手アイドルと同じテンションで黄色い声援を受ける郷ひろみ66歳……! 違和感や無理をしている感を全く視聴者に抱かせないエネルギーの凄さ。そしてこの順番をOKとする器の大きさよ! いや、そんな風に年功序列で考えてしまう私の思考がもう古いのか。うおお! 本当に毎回紅白は、いろんなことを考えさせられる。

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郷ひろみ ©時事通信社

郷ひろみの紅白歴は長い。初出場はなんと48年前の1973年(昭和48年、楽曲は「男の子女の子」)。その後不出場の年がチラホラあるものの、ほぼ常連状態で2001年まで出場。そこから9年ブランクがあり、2010年に復活。それからは連続出場、しかもトップバッターや2番手が多い。確かに、北島三郎の「まつり」が「明るく壮大に場を締めるパワー」を持つ最高の曲だとすれば、郷ひろみの「2億4千万の瞳」は最強の「幕を開けるパワー」を持つ楽曲である。

早く出番が終わるのならば、ゆっくり楽屋で休んでいても許されるだろう。しかしそんな気配も郷にはない。それどころか、出演者数人が後ろに並び盛り上げるようなガヤ場面でも、誰よりも嬉しそうに踊っている。

2019年のチビッ子コーナー「おしりたんてい『ププッとフムッとかいけつダンス』」でもおしりたんていの斜め後ろを陣取り、子どものような笑顔で踊っていた。2021年のミドリーズ「ツバメ」コーナーでも、真っ白な歯を見せニコニコとダンシンしており、ガッツリ目立っていた。

自分以外の出番も、踊っているときはいっつも本当に楽しそう。それがGOクオリティ!

「格付けチェック」で起きた衝撃の展開

郷ひろみは紅白歌合戦に続き、1月1日には「新春!爆笑ヒットパレード2022」に出演。東京・浅草寺からの生中継に登場し、初詣客を驚かせた。爆笑ヒットパレードの放送が55回目なので「GOGO」にかけて出演したという。縁起を担ぐフットワークの軽さも見事。

さらに同日の夜には、収録ではあるが「芸能人格付けチェック2022お正月スペシャル」にも出演。ここで印象深いシーンがあった。番組後半、格付けチェックを連続で外し「映す価値無し」になってしまった出場者を全員ワンランク元に戻すため、司会の浜田雅功がお笑い芸人の見取り図に土下座させる展開になったのだ。

すると郷ひろみがいきなり、自分もワンランクアップできるなら土下座したいと提案。そしてパートナーのヒロミに、嬉しそうにこう言ったのである。

「だって、頭下げるだけで済むんですよ」

私は思わずコタツで寝転がっていたのを飛び起きた。この一言に、人生いくつもの修羅場を乗り越えてきた人の超越感を見た! すごいな郷ひろみ!

土下座しながら、その行為のバカバカしさを笑い飛ばす感じが、ものすごく爽快だった。

どこか“居心地悪そう”だったデビュー当時

今でこそ唯一無二の陽キャラとして愛される郷ひろみだが、私のアイドル時代の彼の印象はとてもミステリアス。声の高さ、歌の世界観、類稀なるリズム感など、トータルで「明るい、軽い!」というイメージはもちろんあったが、同時に「居心地が悪そう」という感じもあった。日本人離れというか時代離れというか、どこからもはみ出てしまう、そんな個性を持っていた。

例えると、アマゾンの密林に生息する小さな極彩色の鳥が、鳥籠に入っているイメージ。明るい曲で弾けたパフォーマンスをしても、「カックラキン大放送!!」や「ムー一族」でユニークなキャラを演じても、ふと垣間見える哀愁。もちろん、その陰陽もたまらなくセクシー・ユーではあったのだが。「2億4千万の瞳」の画像検索をすると、現在楽しそうに歌う彼とシングルジャケットの差にびっくりする。ジャケットはとてつもなく深刻そうだ。

「お嫁サンバ」の頃だったが、父が郷ひろみを見て「中年になって歌っている姿が思い浮かばん。消えていくやろ」と言っていたことを思い出す。「男はこうあるべき」というゴリゴリの昭和の価値観を持つ父から見ると、高く甘い声と細い身体で歌い踊る彼は不安定極まりなく、「期間限定の存在」に思えたのだろう。そしてこれは、当時の彼を悩ませたイメージの一つだったはず。

お父さんの予想、外れましたね。郷ひろみは年を取るごとに輝きを増し、今や日本を代表するアーティストになっています……。

「GOLDFINGER'99」に震える理由

父が「想像できない」と言っていた郷ひろみの中年の歌手活動だが、実力派として広く認知されるターニングポイントは中年真っ盛りの38歳前後に訪れる。「僕がどんなに君を好きか、君は知らない」「言えないよ」「逢いたくてしかたない」のバラード三部作だ。

ただ、今見返せば、バラード三部作まで待たずとも「お嫁サンバ」の1年後の「哀愁のカサブランカ」(1982年)でもう、最高にイカした中高年になることは容易に想像できる。いやいや、「若さのカタルシス」(1980年)、「ハリウッド・スキャンダル」(1978年)、「よろしく哀愁」(1974年)までさかのぼっても、じゅうぶん明るい将来が続くことはうかがえるのだ。踊らず、ロマンチックに恋心を歌う郷ひろみは最高にジェントルだ。

郷ひろみ自身、もっとバラードや正統派の楽曲を歌いたくなった時期もあった、というインタビュー記事を読んだことがある。そりゃそうだろうと思う。ジャパンやアチチばっかりもういいわ、とウンザリもしただろう。

が、郷ひろみのポテンシャルは、やはり「お嫁サンバ」「2億4千万の瞳」「GOLDFINGER'99」など浮かれ系で素晴らしく光る。これらの曲は、彼を超えるパフォーマンスをできる人が全く思い浮かばない。

「GOLDFINGER'99」をカラオケで歌ったことのある方は覚えがあるだろう。何度も何度も「アチチ」と高いテンションで歌わないといけない大変さを! 私も挑戦したことがあるが、思った以上に「アーチーチーアーチー!」の回数が多く、ダレて途中で消した。西城秀樹の「YOUNG MAN (Y.M.C.A.)」もそうだが、キャッチーな歌ほど歌唱力と気力がいる。自分で歌ってみるとそれを痛感する。そして、それを素晴らしいクオリティで何度も繰り返し歌い続ける彼らのテクニックと魂に、震えるほど感動するのである。

「2億4千万の瞳」で描かれるボーダーレスの世界

「2億4千万の瞳」は意外なことに、オリコンウィークリーでは7位が最高。郷ひろみのシングル売り上げベスト10にも入っていない。私もジャパンジャパンと楽しんでいるわりに、あまり歌詞に注目したことがなかった。

タイトルはこの曲が発売した当時(1984年)の日本の総人口が由来なのだとか。約1億2千万人。これに2をかけて、瞳の数が2億4千万。

また、「僕」「私」「あなた」などの人称代名詞が出てこない。作詞家・売野雅勇によるこの粋な「企み」により、1億2千万人の胸騒ぎを、遠い空から俯瞰で観察している感覚になるのである。

そして2番には「抱きしめて男を女をハーフを 生きてるだけじゃ淋しいよ」という歌詞が出てくる。

国籍や人種の表現で使われることが多い「ハーフ」という言葉を、「男を女を」の後に続けているのが興味深い。カテゴリ関係なく「魂の半分半分」という「ハーフ」を思わせてくれる並びだ。

ナツメロだが、懐かしいだけではない。ボーダーレスの壮大な世界に飛び交う、レーザービームのような熱い視線、生命のときめき、胸騒ぎ! 今の時代にもぴったりフィットするではないか。ああ、エキゾチック・ジャペアオオン!

「GOGO!」と叫び始めたのはいつから?

「郷=GO(前進)」は彼のアイデンティティを示す記号だ。デビュー曲「男の子女の子」では、ファンの合いの手「GOGO!」に身体を委ね、ただただ手を振っていた。それを自ら叫び始めたのはいつからだろう。

GOとシャウトするごとに、ポジティブオーラが増していく。ジャケットプレイも、肩にのしかかるプレッシャーや悪運を払い取る儀式に見えてくる!

今年で歌手生活51年目に突入。様々な格付けを振り切り、軽やかに歌い踊る郷ひろみは、風の時代と最高に相性がいい。

いくつになっても「はじまり」が似合う、こんなスターはなかなかいない。

(田中 稲)

田中 稲

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