樅野太紀×藪木健太郎『オヤコイ』で再確認した番組作りの原点「取材しないと絶対出てこないものを」

樅野太紀×藪木健太郎『オヤコイ』で再確認した番組作りの原点「取材しないと絶対出てこないものを」

  • マイナビニュース
  • 更新日:2020/09/18
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●パソコンの中で塩漬けされていた企画

くっきー!、両親ラブストーリーに赤面「こんなもんOAすなよ!」

知っているようで知らない両親のラブストーリーを本格的にドラマ化する読売テレビ・日本テレビ系バラエティ特番『両親ラブストーリー~オヤコイ』が、17日・24日に2週連続で放送される。

第1弾が18年9月に放送されると、親の恋愛という普遍的なテーマをドラマ仕立てにして、スタジオにいる子供(=ゲスト)のリアクションとともに見るという斬新さが評価され、放送文化基金賞で優秀賞と企画賞、ATP賞テレビグランプリ優秀賞、アジアコンテンツ見本市最優秀賞と、さまざまな賞を獲得。今回、満を持して第2弾の放送となる。

「知りたいようで、知りたくないようで…」という複雑な感情を見事に引き出す“親の恋”という題材を、どのように番組として成立させていったのか。企画した放送作家の樅野太紀氏と、演出を手がける共同テレビの藪木健太郎氏は、その過程で番組作りに大切なことを改めて確認したという――。

○■知りたいようで知りたくない…“両親の恋”

この企画を思いついた経緯について、樅野氏は「“知らないことを知る”って面白いなあというのをずっと考えていた中で、実家にいるときに『そう言えば両親ってどうやって出会って、どうやって恋をして、どうやってプロポーズしたのか知らないな…』と思ったのと同時に、『いや、でも知りたくないぞ? 気持ち悪いな…』とも感じたんです。そこから、『これって面白いんじゃないか。芸能人の方のご両親を徹底取材してドラマにして見せたら、今まで見たことないような顔が見れるんじゃないか』と考えたのがきっかけです」と明かす。

しかし、その企画をいくつかのテレビ局のスタッフにプレゼンしても、「あんまりピンとくる人がいなくて」と、樅野氏のパソコンの中で塩漬けされることに。その後、吉本興業の番組制作のスタッフから企画を求められて「これ持っていっていいよ」と渡してみたものの、リアクションはなかった。

それから3年後に突然、この番組のプロデューサーでもある吉本興業の森俊和氏から「樅野さん、通りました!」と電話が。企画を渡していたことを忘れていた樅野氏は「ごめん、何の話!?」と一瞬混乱したそうだが、こうしてようやく日の目を見ることになったのだ。

森氏は、『ENGEIグランドスラム』(フジテレビ)で一緒に仕事をしていた藪木氏に番組演出を依頼したいと相談。樅野氏は、もともとお笑いコンビ・チャイルドマシーンとして活動し、芸人時代に藪木氏が担当するCS放送のネタ番組『OFJ』に出演していた経緯があり、「売れてもいないのにたくさん番組に出させていただいて、すごくお世話になって感謝している人なので、『もうぜひ!』とお願いしました」と、今回のタッグが実現した。
○■“本気のドラマ化”の狙い

長い付き合いの2人だが、それまで構成作家×演出として一緒に仕事をしたことはなく、藪木氏は「ロッチのコカド(ケンタロウ)と作家の酒井(義文)さんと、1回だけ4人で偶然飲みに行ったくらい」と振り返る。

『オヤコイ』の番組化が持ち上がったのは、藪木氏がフジテレビから共テレに出向したばかりのタイミング。「いろんなところに企画を持ってノックしていた時期で、藁にもすがる思いだったので、『ぜひやらせてもらいます!』とお願いしました」と、移籍第1弾の番組となった。

それまで、ほとんどの番組を企画から立てていた藪木氏にとって、他人の企画を番組にしていく作業は初めてのこと。だからこそ、「作った後に『自分でやりました』って言えるくらい自分のエッセンスを入れてやり込ませていただくと最初に言いました」と、気合を入れて臨んだ。

それを受けた樅野氏は「本当に熱を感じてすごかったです(笑)」と回想。「でも、藪木さんにやってもらって本当にラッキーだと思いました。たまに、いい加減にやるディレクターがいて、『クソっ! 俺の考えた企画なのに!』ってなることがあるんですけど(笑)、あんな熱量でやってくれて、本当に安心しました。これはうまくいってもいかなくても、本気でやってくれた結果になるから」と、全幅の信頼寄せていた。

樅野氏は企画段階で、「再現VTRでもコントでも、そこは何でも良かったんです」と、本格的なドラマで見せるという構成は考えていなかったそう。

それに対し、企画を見て「当事者の子供は恥ずかしいけど、他人から見たらいい話でもあるという、捉え方にこれだけ差があるものってなかなかないので、面白そうだなと思いました」と直感した藪木氏は「これは正面からいかないとダメだな」と、“本気のドラマ化”というアイデアを打ち出した。

これにより、より見ている子供の恥ずかしさが増幅する効果が。さらに、「最後は“ありがとう”というところに持っていけたらいいなというのを、最初になんとなく思っていたんです。“恥ずかしい”からそこに転換するには、茶化しちゃいけないと考えました」(藪木氏)という。

●完成したドラマを見て号泣

こうしてでき上がったドラマを見た樅野氏は「めっちゃ泣いちゃったんですよ、デニーズで台本の打ち合わせしながら(笑)。ホンマに、自分はこんなに涙もろいのかって思いましたね」と感激。

また、「最初は、本人が『やめて!やめて!』ってなるVTRになると思ったんですけど、やっぱりご両親に取材していくと、男と女ってみんななかなかすごい恋愛をしてるんですよ。結婚した後も良い話があって、本当にいいドラマを見たという感じでした。藪木さんにこの企画を渡すと、こんな素敵ないい番組になるんだとびっくりしました」と振り返り、「パソコンの中で眠り続けていた企画でしたが、ちゃんと良いところに浄化できたから、ピンとこないテレビのディレクターがいっぱいいて良かったです(笑)」と大満足だ。

家族の歴史を取材してひも解くという番組は『ファミリーヒストリー』(NHK)が先行して存在するが、本格的なドラマを中心に据え置き、スタジオバラエティと掛け合わせることによって、全く新しいものになったのだ。
○■第三者が取材することの強み

放送文化基金賞の贈呈式で、樅野氏は「これを機に、私の両親の恋物語を取材してみようと思います」とスピーチしていた。その理由を聞くと、「僕がタレントさんのご両親に取材する以上、自分もやって同じ思いをしようと思ったんです」というが、実際に聞いてみた結果、どうだったのか。

「母親に『こういう両親の恋物語の番組をやってね…』と言いかけたくらいで、『えー!やだやだやだやだやだ!』。それで終わりました(笑)。昔のアルバムとか見ると、サングラスして赤い海パン履いてイケイケの父ちゃんが、浜辺で母ちゃんと2ショットで撮ってる写真があって、どういうカップルだったんだろう……って思うんですけど、頑なに絶対教えてくれないんです」(樅野氏)

この構図も『オヤコイ』のミソで、藪木氏は「子供からではなく、何も知らない第三者からまずアンケートを取って、会わずに電話で話してから……と段取りを踏んだほうが、話せることが多いんです」と解説。どの親も、最初は「大した話なんてないですよ」と謙そんするが、聞き始めるとどんどんエピソードが飛び出してくるそうだ。

ちなみに藪木氏自身、“親の恋愛”に触れた経験があったそう。「子供の頃、姉ちゃんと納戸を引っぺ返しておもちゃを探してるときに、親父がお袋に送った手紙を見つけたんです。東北に2~3日の短い出張に行ってるだけなのに、最後の締めが『美代子(=母親)、お前に会いたい』って(笑)。これは見ちゃいけないパンドラの箱だと思いました」といい、その体験もあって「子供の当事者は恥ずかしい」という感覚をいち早くを理解できたそうだ。

○■2つのワイプを映し出す効果

最近のバラエティ番組で、必ず映し出されるスタジオ出演者の「ワイプ」画面。その必要性に疑問の声もあるが、この番組ではマストのツールだ。

藪木氏は「2つワイプを映しているんですけど、1つはずっと“当事者の子ども”、もう1つは“その周りの人”で、リアクションの全く違う2つの顔をチラ見しながらドラマを楽しめるようにしています。ただ、本格的なドラマで極力画を汚さないように画面をL字にして、その外にワイプとテロップを入れています」と狙いを語る。

これにより、「ドラマが2回楽しめるんです」という樅野氏。「両親に予想外の展開があったときに、その前の段階の子供の顔をもう一度見返してみると、その後に何が起こるかが知っているから、すでにグッときていたりするんです。これは新しくて面白いなと思いました」と発見があった。

●甘い考えで作られた番組は面白くない

“親の恋”という最も身近でありながら、誰もが触れずにきたことに着目した同番組だが、藪木氏は「良い企画って、“コロンブスの卵”なんですよね。今までそこにあったのに見過ごしてきたものを、樅野さんが気づいたということだと思います」と感心。

樅野氏は「やっぱりネットで調べて出てくる情報はいらないなと思って探したのが、“親の恋”だったんですよ。取材しないと絶対に出てこないものを伝えるのがテレビなんじゃないかと思うんです」と力を込める。

それを受け、藪木氏は「一次情報ってやっぱり魅力がありますもんね。ここ数年、“情報”を求められて作られたテレビ番組は、どこかで見たなという感じがあったじゃないですか。『ネットにしか出てないから、まだ一般には広がってないだろう』と甘い考えで作られていった番組というのは、やっぱり面白くないですからね」と再確認した。
○■視聴率の新指標で「テレビが若返っている」

“情報”を求められてきたテレビ番組の制作現場は今、視聴率調査のサンプル拡大によってターゲットを重視した新たな指標に基づき、大きく変化している。日本テレビが重視する「コアターゲット」(13~49歳)の支持を受けるジャンルが、樅野氏も藪木氏も得意とするお笑い純度の強いバラエティだ。

樅野氏は「去年の今頃は、世帯視聴率重視で本当にお年寄り向けの企画しか通らない時期だったので、その頃『俺、こんなことしたかったんだっけ?』と思っていた自分に教えてあげたいです、『来年とんでもないことになるよ!』って(笑)。急に“お笑い、お笑い”になって、こんな日が来るとはと思いながら今、生きています。得意なこと、好きなことをやらせていただいているので、ラッキーですね。今年になってこんなに楽しい仕事があるとは、本当に幸せだなと思います」と充実の表情。

藪木氏は「『オヤコイ』も、ここまで本格的にドラマにするバラエティは他にないし、“親の恋”って掘るところも珍しい番組なので、今後も新基準で業界が進むのであれば、そういうポイントがグッと狭まったところに鉱脈があるんだろうなという気がします」と推測する。

さらに、樅野氏は「それこそ『オヤコイ』のように、今まで『こんなの通らないだろう』と思っていた企画を、もう1回掘り起こしてもいいかもしれないです。テレビの気持ちが変わって、本当に若返っている感じがするので」とも。

この良い流れを続けていくために結果を残すことが、作り手としては大きなミッションだ。

樅野氏は「フジテレビさんが大きなコント特番(『ただ今、コント中。』)をやって、ちゃんと数字も獲ったじゃないですか。そういうことがあると、『ああいう番組も見てくれるんだ』って希望があります。夢を持ってテレビ局に入ってきた人たちが『やったー! これがやりたかったんだ!』って言えるようになっていくといいですよね」と期待。

藪木氏は「演出家の色が出しやすい時代になってきているのかなとも思うので、これからも自分のやり方で面白いと思った番組を作っていきたいですね」と意気込んでいる。

●樅野太紀1974年生まれ、岡山県出身。95年からお笑いコンビ・チャイルドマシーンとして活躍するも04年に解散し、放送作家に転向。現在は『しくじり先生 俺みたいになるな!!』『あいつ今何してる?』『ミュージックステーション』『関ジャム 完全燃SHOW』『かまいガチ』(テレビ朝日)、『有田Pおもてなす』『わらたまドッカ~ン』(NHK)、『有吉の壁』(日本テレビ)、『プレバト!!』(MBS)、『アウト×デラックス』『千鳥のクセがスゴいネタGP』(フジテレビ)などを担当。『しくじり先生』で第41回放送文化基金賞・構成作家賞、『両親ラブストーリー~オヤコイ』で第45回放送文化基金賞・企画賞を受賞。

●藪木健太郎1971年生まれ、三重県出身。早稲田大学卒業後、95年にフジテレビジョン入社。照明部から02年にバラエティ制作に異動して『アヤパン』『力の限りゴーゴゴー!!』『笑う犬』『新堂本兄弟』『爆笑ヒットパレード』『エニシバナシ』『おじさんスケッチ』などを担当。『爆笑レッドカーペット』『爆笑レッドシアター』『THE MANZAI(第2期)』『うつけもん』『オサレもん』『ツギクルもん』『ENGEIグランドスラム』『笑わせたもん勝ちトーナメント KYO-ICHI』などのネタ・演芸番組を立ち上げ、18年から共同テレビジョンに出向。『両親ラブストーリー~オヤコイ』(読売テレビ)のほか、『ザ・ベストワン』(TBS)、『NHKだめ自慢~みんながでるテレビ~』(NHK)、『ネタX(エクス)チェンジ』(読売テレビ)などを手がける。

中島優

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