中国の若い女性の間で「ガチャガチャ」が大ブーム...それが「異常事態」と言えるワケ

中国の若い女性の間で「ガチャガチャ」が大ブーム...それが「異常事態」と言えるワケ

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/01/14
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いま、中国では「ガチャガチャ」が大ブームになっている。そのブームは、中国社会の根底で起きている大きな変化を暗示しているのではないか——。『中国人のお金の使い道』(PHP新書)を上梓したジャーナリストの中島恵氏が考察する。

ガチャガチャをひたすら買い続ける

新型コロナの影響で景気後退に喘ぐ世界各国を尻目に、中国では景気が回復しつつある。中国の消費を牽引しているのは、購買力が旺盛なZ世代の若者たちだ。豊かに育った彼らが何にお金を使っているのかを取材してみると、従来の中国人像とはまったく違う、新しい傾向が見えてきた。

上海に住む会社員の女性、王さん(25歳)は、中国語で「盲盒」(マンフー)と呼ばれる「ブラインドボックス」が大好きだ。日本の「ガチャガチャ」に似た、買う前は中身が見えない箱やカプセルのことで、今、中国の若者の間で大流行している。

大好きなキャラクターを売っている「IPステーション」という自動販売機を見つけると、王さんは迷わず購入する。買っているのは高さ10センチほどのかわいい猫のフィギュアなどで、1つのシリーズ(10~12個)を集め始めたら、全部のキャラクターが揃うまで買い続けなければ気が済まない。

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盲盒の自動販売機(上海)〔PHOTO〕Gettyimages

1つ25~70元(約370円~約1050円)程度の安いものとはいえ、際限なく買い込んでしまうため、自宅の棚はすでに数百個のフィギュアで埋め尽くされている。あまり気に入らないフィギュアだった場合は、中国のフリマアプリである「閑魚」に出品すると、すぐに買い手がつき、ときには高値になることも。そのようにして転売で得たお金や、自身の給料(約1万3000元=約20万円)を使って、また「盲盒」をひたすら買い続けるという道楽生活を送っている。

王さんに限らないが、今、中国の若者がお金をつぎ込む先は、自分の趣味だ。旅行やスポーツジム、食事などにもお金を使うが、物欲がとても強く、ブランドものだけでなく、他人から見ればガラクタに見えるようなものであっても、欲しいと思ったものには惜しみなくお金を使う。

2024年には4500億円の市場に

王さんが「盲盒」にハマったのは2年ほど前。それ以前はネットで好きなアニメのキャラクターのバッジやポストカード、キーホルダー、クリアファイルなどを1つずつ買い集めることが大好きだったが、「盲盒」のような「買って開けてみないと中身が見えない」という商品は初めてで、開けたときのワクワク感に夢中になった。

「だって、ただ買うだけよりも、何が入っているのかわからないというほうが断然楽しいでしょ。いちばん欲しかったものが当たったときは、飛び上がるほどうれしい」と王さん。

中国メディアの報道によると、「盲盒」の購買層は、都市部に住むホワイトカラーの女性が中心。女性が全体の60%以上を占めており、「盲盒」市場は2024年には300億元(約4500億円)に達すると予測されている。私も2019年に中国取材に行った際、地下鉄駅の改札付近で見かけたことがあり、流行の兆しを感じていた。

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盲盒の自動販売機(筆者撮影)

こうした現象は、一般の日本人の目には「日本のガチャガチャを真似ているものでしょう? オタクが増えている中国でも、同じように流行り始めたというだけでは?」といったふうに映るかもしれない。確かにその通りなのだが、長い間、中国人を取材してきた私の目から見ると、「箱の中身を確かめないでモノを買う」という点に驚かされた。

なぜ驚いたかというと、かつて(少なくとも6~7年前まで)の中国人だったら、20代の若者であっても、箱の中身が何だかわからないのに商品を買う、という“無防備でキケンな行為”は絶対にしなかったからだ。そもそも、中身がわからない商品が販売され、消費者から支持されるようになった、ということ自体、従来の中国社会からすれば“画期的な変化”といってもいい。

「爆買い」の時代との大きな違い

思い出したのは、わずか5年前、「爆買い」ブームといわれた2015年のこと。私は東京・秋葉原の家電量販店で、新品の電気炊飯器を前にして、大勢の中国人が大声でしゃべっているところに偶然出くわした。聞こえてきたのは、こんな会話だった。

「(店員に向かって)ちょっと、ちょっと、こっちの炊飯器に水とコメを入れて炊いてみてくれ。不良品かどうか確かめたいんだ。確かめてからでなければ、いくら日本製だからって、俺は信じない。買わないよ」

「おお、そうだ。そうしてくれ」

当時、日本メーカーの高級炊飯器は中国人観光客に大人気で、炊飯器を5個、10個と「おみやげ」として買っていく人が多かった。炊飯器売り場には売れ筋の炊飯器が展示してあったが、中国人観光客は、展示品ではなく、梱包してある箱のほうをこじ開けて、このように叫んでいた。

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2010年代の半ば「爆買い」が注目を浴びた〔PHOTO〕Gettyimages

箱の中に“ホンモノ”の炊飯器が間違いなく入っているか、それが実際に使い物になるかどうか、買う前に確かめなければ気が済まない、と訴えていたのだ。

日本人の店員は困り果てて、観光客のガイドに「これは商品です。この場でおコメを炊くことはできません」と一生懸命説明していた。しかし、中国人観光客にとっては、たとえ店先で人が見ていようが、どこだろうが、そうした行動を取ることは、自分が危機を回避し、身を守るために行う「ごく当たり前」のことだった。

慣れない海外旅行先だからこのように振る舞っていたのではない。彼らは中国国内でもまったく同じように商品を自分の目で確かめてから買っていた。日本人にとっては「あり得ない」ことだが、そうした行為は、中国によく行く私にとっては「見慣れた風景」だった。

彼らにしてみれば、そうやって自分自身で確かめなければ、“赤の他人”である店員に騙されてしまう可能性が十分あったし、有名な店でも、ニセモノが堂々と販売されていることはよくあること。買った炊飯器がたった1日で壊れてしまうこともあり、すべては自己責任の世界だ。一連のやりとりを見ていて、私は思わず「中国人らしい!」と苦笑してしまったのだが、日本の家電量販店の店員は唖然としていた。

私にとって、このときの出来事は強く印象に残っていたし、自分も中国に行くときは、いつもものすごく用心深く行動しているな……ということを思い出した。

若者たちの無防備さ、無邪気さ

しかし、あの出来事からわずか5年。「爆買い」していた人の多く(団体ツアーで海外に行く内陸部の観光客)とは年齢も出身地も異なるとはいえ、都市部で豊かに育ったZ世代の若者たちは、そのような中国人的な行動を取らないどころか、箱の中身を確かめもせず、商品を購入するようになっていたのだ。しかも、すでに自分がその商品を持っているかもしれず、無駄な買い物になるかもしれないという“リスク”も抱えながら……!

「自分は騙されることなどない」と思っているのか、あるいは「そんな安いもの、別にお金を捨ててもいい。騙されたっていいじゃん」と思ってちょっと楽しんでいるのか、あるいは、騙されるなんて考えてみたこともなく、中国人でありながら、中国国内で誰かに騙された経験が一度もないということなのか……。

そんなふうに考える自分は大げさなのかもしれないが、若者たちの無防備さや無邪気さは、少なくとも、2013~2014年ころまでの中国人を知っている身としては信じられないことに思えた。

ITの大きな影響

それにしても、なぜ、彼らは“赤の他人”を疑わないようになったのか?

考えてみると、そこにはやはりITの発達が関係しているのではないかと感じる。冒頭で「盲盒」にハマっているといっていた王さんは、中国のフリマアプリを利用していると話していたが、そこで取引する人々の素性について「まったく疑ったことはない」といっていた。

その理由について、彼女は「売買するときには、自分や相手の信用スコアが表示されますので。もちろん、知り合いじゃないですけど、過去にその人がどんな商品を売買していたかという履歴が見られるようになっているから、初めての取引でも、別に問題ないと思います」と話していた。

信用スコアとは「芝麻(ごま)信用」と呼ばれるアプリなどのことで、2017年ころから中国で流行り出した、個人の信用が「見える化」されるシステムだ。過去の支払い履歴や交通違反などの有無、交遊関係、勤務先、収入などの情報でスコアが加算されていき、スコアが高ければ高いほど、個人の信用度が高まるというものだ。ホテル予約やローンの契約など、社会のあらゆる場面で他人に自分を認めてもらう際に、このスコアを利用する人が増えている。

思い出したのは、アリペイが爆発的に普及し始めたころのことだ。日本でも知られているように、アリペイはアリババ傘下のアント・フィナンシャルが開発した電子決済サービスで、2015~2016年ころには、ウィーチャットペイとともに、スマホの決済手段として欠かせない存在となっていた。

これらの電子決済が中国社会に受け入れられ、爆発的に普及した背景の一つに、中国人同士の不信感があったといわれる。それ以前の中国は「相互不信社会」であり、顔も見たことがない人や、一度きりしか会わない人など「赤の他人」のことは一切信用できなかった。それゆえ、中国人は自分を取り巻く人間関係を「内の人」と「外の人」で分けていた。

だから、日本のように、信用を前提とする料金後払いの「振り込み用紙」などは、中国社会では到底受け入れられないものだったのだ。しかし、販売者と購入者の間に立ってリスクヘッジできるアリペイのような仕組みができたことによって、世の中はすっかり変わった。

中国政府も「信用」をキーワードに社会変革を図ってきたが、まさか、これほど急速に社会が変わるとは――。中国版「ガチャガチャ」である「盲盒」にお金を投じ、無邪気に楽しんでいる裕福な若者たちの姿を見て、中国人がいかに変わったか、そして、これから先もまだ変わっていくのではないか、ということを、私は実感させられた。

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